愛しかたさえわからない
宿の外から地鳴りが響いた。
「なっ、なんの騒ぎですです?」
ヨハネは慌てて窓を開けた。
そして、そこには広がっていた。
「ここにいるのは君たち純血が数にすら入れなかった愛されない者たち。はぐれ者、半端者、厄介者。お姉ちゃんはただそれは愛してあげただけ」
シオンの身体が発光していく。
そして薄汚れた今にも潰れそうな宿の窓から顔を覗かせた。
「みんなー、愛してるー‼」
地鳴りは波となり大きな歓声へと変わった。
その景色はルークが一度見たものだった。こんなみすぼらしい底辺たちの寄る辺に見られるはずがないと思った光景。ニアリスと国家の建国を宣言したあのホイホイの城のバルコニー。
「……ルー君、混合種族の総数って知ってる?」
「……知るわけないだろ。何処にも所属していない半端者たちの数なんて数えようがない」
「ここ中立地帯に住んでいる人数は七万七千二百十八人」
「何故、そんな事を知っている」
シオンは「もう分かっているくせに」と呟いた。
「愛し愛されたからだよ」
【能力名】
双思総愛
【LEVEL】
LEVEL10(神域)
【スキル詳細】
愛すれば愛するほど人数と深さに応じて力が増していく。
愛されれば愛されるほど人数と深さに応じて力が増していく。
愛は具現化し、スキル使用者の身体へ纏うことが可能。その強度はスキル使用者とそれに対する愛の人数と深さに比例する。
愛が尽きない限り半永久的に使用可能。
「全人類が未達の領域、人族が唯一単体で他の種族と渡り合う可能性があると言われ続けたLEVEL10。お姉ちゃんはそこにいるの」
「なっ、なんだと」
シオンはルークやリオンがまだ幼い頃に家を出た。過剰で異常な愛に疲労困憊だった当時のルークは心より安堵したことを覚えている。
「一人一人丁寧に、ルー君が頑張ってる間お姉ちゃんも暇だったしね。ルー君のお願いを叶えるだけの力が足りなかったから家を出たの」
シオンにまとわりつく発光する気の流れのようなものが上空へと放たれた。それは物凄い音を立てて宿の屋根を吹き飛ばし、辺り一面を見渡せる開放感のある部屋へと姿を変えた。
「もうルー君は何もしなくていいよ。お姉ちゃんの言う事だけ聞いていればいいの。それだけで世界は手に入るから」
シオンは「えーっと、確かチャ、チャ―」少し悩むような顔をして周りに集まった皆に声を掛けた。
次にシオンが発した言葉は大した声量ではなかったが、ここら一体に響く不思議な言葉だった。それはシオンの配下の力なのか、シオン自身の力なのかはルークたちには判別できない。
「みんなー、これまではゴチャマゼ組(仮)って名前にしてたけど、本日より正式に私の弟ルー君をトップに据えたチーム、チャトランガとして再出発するよー。これから世界を滅茶苦茶にしようぜー、いえーい」
身体中の力が抜けそうなほど、軽い宣言。
しかし、それで周りが湧くのだ。恐らく中立地帯に存在する全ての民族たちがシオンの配下に収まっているのだろう。
その人数が先ほどシオンの言った通りで、それら全てが戦闘に参加できる力を持つのだとしたら一気に 八万近い兵力を手にする。
亜人族の戦闘員の数は二万弱、獣族で三万強。
そして、人族二十万。
質やルークらの指揮にもよるが見かけの上では充分戦える数になっている。
死ぬほど頭を働かせても解決しなかった悩みが一瞬で解決するのだ。こんな降って湧いたような幸運は他にはあるまい。
手に入れればいい。
今までだって手段なんて選んでこなかった。
だから、今回だってそうだ。
「……違う。どんな手段だろうと、それは俺が選んで俺が掴んだものだったんだ」
ルークは指先を拳へ食い込ませる。




