第二十話 勝負を分かつもの、無常の才
【能力名】
調律師
【LEVEL】
LEVEL6
~次のLEVELまで、三十万二千三文字の会話が必要。
【スキル詳細】
耳で捉えることが可能な音の波を大小、方向を変化させることが可能。
また、完全な波をゼロにすることも可能とする。
また、音の上限はスキル発動者が出せる音量(声)の最大までとする。
なお、発動回数は無制限だが、連続での使用は最大十分までとし、発動時間分のインターバルが必要とする。
(例、五分発動する場合、次の発動可能になるまでに五分かかる)
発動対象の音が自分から離れれば、離れおるほど持続効果時間も微減する。
「つまり、この会話も私たちが口パクしてるようにしか、あちらさんには見えていない」
ルークはなるほどと納得した。
(昨日のバルコスとの会話もこのスキルを使い、盗み聞きをしていたのか)
「因みにさっきの投石も投げた時の投球動作で出る音や足音を消している」
それ故の不意打ちの成功だった。
恐らく、ルイのスキルを絡めていなければ、バレッタは先ほどの投石にも普通に対処し避けていただろう。
「もう一つのスキルは?」
【能力名】
四捨五入
【LEVEL】
LEVEL4
~次のLEVELまで、残り三十日間、何事においても勝負で負けない事。
【スキル詳細】
自身の身体のサイズを0・9倍もしくは1・1倍することが可能。
身体の一部を指定し、同時に二ヶ所以上発動は出来ない。
最大持続時間一時間。
連続で同じ個所は使用出来ない。
「悪いが、こっちは目くらましみたいなもんだ。使えるのは、接近戦に持ち込んだ時ぐらいだな」
手元にある武器は把握した。
あとは、どうにかその武器を相手の心臓に突き立てることだ。
「……聞け」
ルークはシンプルな答えを出した。
バレッタが焦れだすのを窺い、ルークとルイは二手に分かれた。
二方向からの挟み撃ち。
二対一において最もシンプルな戦法。
ルイは腰の両手剣を抜き、バレッタに正面から切りかかる。
バレッタはそれを身軽にかわし、ルイの両手剣は空を切る。
バレッタは種を知った手品を見るような冷めた目でルイを見下す。
「それはさっき見たって、剣が伸びたり、縮んだろするんだろ」
正確にはルイの手足を四捨五入によって、長さを変え、相手に間合いを測らせない戦法なのだが、大体の効果はバレッタの言っていることと変わらない。
―シュッ
そこに鞭がしなる音がする。
バレッタはルイと相対しながらも、その後方からの鞭にしっかりと反応し恐るべき腕をルイのいる前方に振り、自分の身体ごと前方に移動させる。
バレッタは後方のルークを見やる。
「部下に近接で戦わせて、自分は距離とって後方から鞭とは良い趣味だな」
「好きに言ってろ」
その後も似た攻撃パターンが繰り返される。
前方のルイ、後方のルーク。
シンプルな挟み撃ち。
しかし、大抵の者はこれを捌けずに命を落とすだろう。
だが、バレッタは違う。
戦闘狂の彼女にしてみれば、多対一はいつものことだし、繰り返せば繰り返すほど対応してくる、順応してくる。
そして、ルイを確実に追い詰め、あと一、二回の攻防でルイに深手を負わせれると感じ始めた時だった。
―パァン
そこに鳴り響いたのは乾いた音。
その一撃はバレッタの心臓を打ち抜く。
しかし、その乾いた音がバレッタの耳に届くことはなかった。
ルイのスキル、調律師でその音は完全に消されていたからだ。
倒れるバレッタの元にルークも近付いてくる。
「一流が故の慢心だったな」
バレッタは対応し始めていた、順応し始めていた。
だから、次第にルークを見ずとも鞭を交わし、次の動作に入れるようになっていた。
勿論、全くルークの方を見なかったわけではないが、鞭と言う武器の性質上音での判断に頼る比重が増え、目を話す機会が増えてきていた。
また、ルイをあと少しのところまで追いつめていたが故にルイに対する意識の分配が増えていた。
その時、二人が初めて勝機を得る瞬間である。
死角からの無音の弾丸。
誰が避けることが出来よう。
ルイは足元に転がったバレッタに目を落とす。
「これで仲間の敵は取らせてもらったぜ」
その言葉に何かを思い出したようにルークの顔を見るルイ。
「あっ、そうだ。最前線は今、ほぼ壊滅状態だ! 早く、増援を」
ルークは神崎の顔を思い浮かべる。
恐らく、もう向かっているだろう。
あるいは片付け終わった頃か。
「そっちは大丈夫だ。増援も送っている。向こうに流石にこいつ以上の隠し玉はいないだろう」
しかし、この状況下で神崎が戦場の本当の姿を見ずに済むわけはない。
ルークはある意味、ここから神崎の説得、納得が最大の仕事になるのではと思い、気分が重くなる。
「まぁ、残った戦力はラブジル兵を掃討して、一度引き返そう。思ったより深手を負った」
ルイは頷き、大将首であるバレッタを運ぼうと死体に触れようとした時だった。
「一度目」
その声は聞こえないはずの声。
先ほど、死闘を繰り広げ、紙一重、薄氷の勝利を得た相手だ。
ルイが必死にバックステップで回避しようとしたが、遅かった。
ルイの両手にバレッタの両手が絡みつく。
「お仕置きだ」
バレッタは両手に力を込める。
勿論、スキルも発動させてだ。
握力超過。
「ぐぁぁあぁぁ‼」
ルイが鈍い悲鳴を上げる。
「スキル名の通り、ゴリゴリと骨が砕けるなぁ」
バレッタの顔に愉悦の表情が浮かぶ。
一瞬、あっけにとられたルークだが、ルイから引き離さそうと両手の塞がったバレッタの頭に銃を突きつける。
そして、放とうとした時、バレッタの足がルークの腹を捉える。
「何も握力ってのは腕に限った話じゃねーよな」
何故、バレッタは裸足だったのか。
それは自分の武器を最大に生かすためだった。
それにルークが気が付いた時にはもう遅い、ルークは蹴りを入れられ宙に浮いているのだ。
逃げる術はない。
握力超過。
腹に触れたバレッタの足の指が僅かに動く感触があった。
それを感じた時にはルークの腹の肉を削り取っていた。
「ぐふぁ!」
―パァン
痛みによる反動で引いた引き金が弾丸をバレッタの肩に直撃させる。
その衝撃でバレッタも顔を歪め、思わずルイを掴んでいた両手を開いてしまう。
ルイはその隙を見逃さず、距離を取る。
そして、その肩に開いた穴はゆっくりと塞がっていく。
その光景をルークとルイは半笑いで見ている。
「ここまでくると、もう笑えるな」
「あぁ、あんな高位の回復系スキルなんて初めて見たぜ」
そう、バレッタのもう一つのスキル。
先天性スキルは自己の治癒。
それも、心臓を打ち抜いても回復したのだ。
完全な詰みである。
ルークたちとは違った意味で笑みを浮かべるバレッタ。
「いやー、ギリギリまで隠しとこうと思ったんだけど、まさか瀕死まで持ってかれるとはなー。今日一度目の死を感じたぜ。あっ、厳密には死んでないぜ。死ぬ前にスキル発動させて回復してたからな」
二人を待つのは後は死だけだ。
しかし、それでも二人は戦わなければならない。




