久々のアレ
アレットが加わったメンバーたちは怪我人組のいる宿屋へ向かった。
道中、アレットが通行人と肩がぶつかったときに向こうの方から謝って来たのが妙に印象に残った。
「もっと治安の悪いところを想像してたわ」
リオンがアレットに率直な感想を述べた。
「いえ、リオン様の想像の方が正しいですよ。ここは昔はもっと荒くれものたちの住処でした」
「アレット、あなた昔ここに来たことがあるの?」
「はい、メイドですので」
「いや、その受け答えは意味が分からないけど」
「ふふ、私は仕える者の為なら何でもできると言うことですよ」
「まぁ、こんな所まで来てくれて正直嬉しかったけどね。当然、ホイホイでの出来事も知ってるんでしょ?」
「えぇ、ルーク様がやらかしてなんやかんやで全ての人類から敵視されているんですよね」
「……合ってるけどなんか嫌な言い方だな」
ルークがぼそりと漏らすと「何か?」とアレットが一睨みする。
「いえ、何でもないです」
対ルーク最終兵器としてのアレットを初めて見たメンバーは物珍しさから一言も言葉を発せずに三人のやり取りを終始観察している。
「はぁ、居心地が悪い」
ルークはニアリスに追いだされたホイホイを懐かしく思う程には辛かった。
宿に到着すると、リュミキュリテたち宿組にアレットを軽く紹介し、これからの方針を話し合うことにした。
「体制を立て直すにもかなり絶望的な状況ですです」
「再狂士も全てホイホイに残したままだろ。圧倒的に戦力が足りないぜ」
「あー、じゃあ僕様もう帰っていい?」
各々の言葉にルークは頭を悩ませた。
本当に何もかも足りないのだ。
今の戦力では小国一つ攻め落とすのもやっとだ。ドロクがどこまで怪我人である強華を回復させられるかが現状一番の鍵だ。
「拳銃の弾の予備すら心許ない。やはり、トリニティを求めて鉱山のある獣族の領土に忍び込むのが最初の一歩目か」
「一歩目にしたって、その先が見えないわね。私達数人が拳銃を手にしたところで覆る戦力差じゃないわよ」
「……分かっている。だが、どこかからか崩していかない事には話は進まないんだ」
「人族の治めるホイホイ、獣族の国ハクア、亜人族の国エアの三つのどれかですね……それとも一気に魔王城にでも突っ込むか」
バルゴスが慣れない冗談を呟き、苦笑する。
「皮肉にもダーリンが世界の均衡を作っちまった。人族は小国含めて全部ホイホイの軍門に下った。その数兵力にして二十万人。数だけで言えば獣族も亜人族も凌ぐ」
ルークは改めて悔しさを噛みしめる。
本当なら、本当なら、その先頭に立ち世界を征服する予定だったのに。
「いっそ、鬼族でも探すか?」
と、中立地帯の名物らしいマンゴーシュークリームのクリームを盛大に口の周りにつけたティグレが提案する。
「そうか、元はと言えばお前も鬼族の端くれだったな」
「ふふん、これでも凄かったんだぞ」
「奴らは国を持たない少数の群れだったから無視していたが、あいつらの居場所が分かるのか?」
「ふふん、わからん。あと、このマンゴーシューおかわりくれ」
「そうか、奴らは凶悪過ぎる強さで俺と神崎、強華の三人がかりでもたった一人の鬼に負けたわけだが、お前なら奴らを懐柔する策があるから提案したんだよな?」
「ふふん、勿論ない。あと、マンゴーシュー買って来い」
「……元仲間だろ、弱点ぐらい知ってるいるんだよな?」
「鬼族にそんなものはない。あと、マンゴーシューはまだか?」
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「あへぇ、はぇぇ、はへ」
床には衣服の乱れ息を切らすティグレ。
ルークがティグレの腹肉を揉みまくり破壊した残骸だった。
「さて、馬鹿はさておき、もっとマシな案のある者はいるか?」
ルークは周りを見渡す。
これは極めて珍しいことだった。
誰かに答えを求める。それはルークの性格とは対極にあり、常に我についてこいなタイプのルークが本当に行き詰まっていることを意味していた。
そして、ここにいるメンバーは程度の違いこそあれ、ルーク以上の案を持っていない。それがあるのならば究極ルークに惹かれていないし、独自の歩みを突き詰めていただろう。
「……ないか、なら結局はどの地獄に進むかでしかないのかもな」
神崎、ニアリス率いる全人類ホイホイ。
強力な身体能力を持つ獣族の国ハクア。
世界一の異能力を扱いこなう集団の国エア。
どこから攻めても成功率は極めて低くかなりの確率で返り討ちだろう。
宿屋の一室に暗い静寂が訪れた。
「……戦力差としてその三国はどうなの?」
リオンが情報の共有としてルークの意見を求めた。
「俺の推察でしかないが、ほぼ完全に三国は五分だ。そして、ホイホイはニアリスの性格もあって理由もなく他の二国には攻撃しないだろう。そうなると他の二国も今まで見たいに小競り合いが出来ないんだ」
「まぁ、他の二国はニアリスの性格も知らないですですし、急に人族が力を結束させた今まで見たいにハクア、エアと争って弱ったらそこを付け込まれるかもしれないって思考になるのは当然ですです」
「完全な降着状態ですね。これでは漁夫の利も狙いづらい」
しかし、可能性として残されているのは漁夫の利しかない。
ルークは三国のどこかの国に侵入し、騒ぎを起こしどうにかしてその責任を他の二国に押し付け戦争を起こせないかと熟考していた。
(現状、それしかないよな)
「時は来た!」
宿屋の一室。
その声は唐突に発せられた。
煮詰まり息詰まる会議に終止符を打つようにだ。
その場の全員がその声の主に注目した。




