旧知の敵 中編
右手の指先がうねうねとしなり始めた。
まるで骨が無くなった様に。
そして、指は肥大化し、色を変え、あっという間に路地裏を押し広げん勢いの触手へと変化したのだ。まるでタコの足だ。
「くっ、これでは攻撃に移るスペースすらない」
チェスマンは舌打ちをする。
「ビショップ! ポーン! 一歩下がりナイトの援護に周りなさい!」
タコ足ならぬ、タコ指を足場にビショップとポーンと呼ばれた少年が一歩引いた。
「逃がさないよ」
シオンのタコ指が三人をそれぞれ拘束するために捕捉する。
しかし、その前に立ちはだかるのは唯一一歩引かなかったナイトと呼ばれる少女。
「痛ーい」
それは一瞬だった。
どこから取り出したのかわからない岩製の鞭のようにしなる長いソードでナイトは紫苑のタコ指を数本まとめて切り落とした。
「……でも、この指は生えてくるの」
次の瞬間、切り落とされたタコ指の傷口から一瞬で似たようなタコ指が生えてくる。そして、切り落とす前よりも本数が増えている。それをも切り落とそうとナイトは岩のソードを振るうが、今度はいくつか撃ち漏らす。
「学習済みー」
チェスマンは自身の駒たちの苦戦ぶりに舌打ちをする。
「あの変な女、思ったよりやりますね。せめて最低でもルークの回収だけでも」
気付けば路地裏の喧嘩は街一番の大騒動へと発展しかかっていた。シオンのタコ指で路地裏はすっかり開けた空間となり、近くにいた街の人たちは叫び、逃げ惑う。
(今の内に)
ルークは争いに背を向け、隙を見てふらふらの足に力を込めダッシュをかける。
―が、
「ルー君、どこいくの? お姉ちゃんから離れたたら危ないよ」
いくつか増殖したタコ指がルークの胴に絡みつき一瞬で補足する。ただですら、ホイホイから瀕死の状態で逃げてきたルークにそれを振りほどく力はない。
(時間外労働でこいつの体力を奪うか? その場合、今度は戦闘の均衡が崩れてチェスマンの方に捕まる可能性もある。どうする?)
「ルーク様から離れろ、下賤の者め」
人影は二つ。
リオンがルークを拘束していたタコ指にタッチするとスキルにより一瞬動きが止める。それを見計らい、ワンコの剣がタコ指を切断する。
「ルーク、大丈夫?」
「大丈夫に見えるか?」
「追ってなの? どこの所属? 誰?」
リオンはタコ指の先に隠れた人影とボールのように丸い自称紳士を睨みつける。リオンだけは知っている。チェスマンに会ったことはないが、ルークが話したことはある。
「丸々太った男がチェスマン、俺の元飼い主。そしてだ―」
そして、タコ指の先の人物はルークより知っている。
「また変な力を身につけたようだぞ、お前の(・)姉は」
その言葉を待ってましたとばかりにひょっこり顔を見せるシオン。
「やっほー、リオンちゃん元気だった?」
「……馬鹿姉貴」
「ルー君迎えに来たんだけど、よかったらリオンちゃんも連れていってあげようか?」
「ルークは連れていかせないわ」
「それは無理。ルー君もリオンちゃんも私に勝ったことなんてないじゃない。別に意地悪言ってるわけじゃないのよ。そこのお仲間君もみんな連れてきていいから」
チェスマンの方に注意を割いていたワンコがルークに耳打ちをする。
「もうじき皆ここに合流します。敵はたったの五人そこで総攻撃をかけましょう」
その五人が厄介なのだ。
(まだクイーンとキングも姿を見せていない。ここにはいないのか、身を潜めているのか分からない以上戦闘は得策じゃない)
ルークはホイホイでの自信喪失もあり、力無い言葉を紡ぐ。
「いや、俺たちは手負いだ。ここは隙を見て逃げるぞ」
「……承知しました」
ワンコとリオンはそれに頷く。
そうこうしているうちにもシオンとチェスマンたちの戦闘は続き、膠着状態になって来る。先に痺れを切らしたのはチェスマン。
「ええい、いくらジェントルな私でも我慢の限界です! ポーン、行きなさい‼」
チェスマンの指示に一瞥し、頷くポーンと呼ばれた少年。ポーンは無表情のままシオンの方へ真っ直ぐに飛び掛かった。それを迎撃しようと複数のタコ指がポーンに襲い掛かる。
ポーンはそれを一切避けない。
そして、無表情のまま舌を出す。
それに一番に反応したのはルーク。
「まずい‼ 伏せろ‼」




