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異世界から来た奴がモテモテチート過ぎてウザい  作者: 痛瀬河 病
第四章 人を喰らえ、人共よ
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血塗られた建国

「くはは、流石吸血鬼だな」


 ルークはドロクに肩を貸してもらいながら、この場のパニックに紛れてティグレ、リュミキュリテの元へ近寄り、拘束を解いた。


「あれは虎の子だといっただろ。私は追い込まれてあれを飲み、悶え死ぬお前が見たかったと言うのに、どこの馬の骨ともわからない奴等に飲ませやがって」

「どこぞの馬の骨じゃない。俺の国の大貴族たちだ」

「どこにその国がある? ここにはもうお前の物はない」

「ならば、また作るだけだ。奪われるのには慣れている」


 ヨハネがルークへ退路を確保したことを耳打ちで伝える。

 ルークはイチ、ニーの対応に追われている元仲間、元自身の国民たちへ決別の言葉を投げつけた。


「さらばだ、ホイホイのゴミども‼ 俺はここに宣言する‼ 俺は俺の為の新国家チャトランガの建国をここに宣言する‼ チャトランガはこれにて組織から国家へと昇華する‼ 土地も国民も満足にいないチャトランガだが、俺がいる。俺がいるからいずれこの国も支配下に置くだろう‼ その時は覚悟しておけ‼ 最底辺のもてなしで再び地獄を見せてやるからな‼‼‼」


 その声はこの混乱している戦場の中、何故か皆の耳に確かに届いた。

 世界を征服する組織チャトランガは構成員を大幅に減らし、国家となった(国としての最低限の要素すら満たしているか怪しいが)


 誰も彼もルーク元へ駆け寄り、その宣言を止める手を持たない。一瞬の油断が己の胴と首を離別させる。

 イチ、ニーのプレッシャーはその域にある。


「くそ‼ 奴らを逃がすな‼」


 そして、不思議なことに次第に意識が混濁し、もう敵と味方の区別もつかなくなり始めているはずのイチ、ニーはルークたちの方へ向いた敵意に自然と足を向け、首を狩っていた。


「駄目だ‼ 引け‼ 皆殺しにされるぞ‼」

「馬鹿な、ルーク一味、この国の大罪人をこのままみすみす逃がすのか‼」


 もうホイホイの兵士たちは連携も糞もなく烏合の衆へとなり果てていた。

 神崎やルイ、看護師長など一部の練度高い兵士を除けば、もうただのパニック会場になってしまっている。

 それもそのはず、ルークとティグレ以外、イチ、ニーの吸血鬼化に制限時間があることを知らない。永遠に続く地獄にすら見えているだろう。立ち向かう方が異常だ。


 その隙にもルークたちはどんどんと離れていく。

 この国の中心から外へと逃げていく。


「ルーク‼」


 ニーと拳の応酬を繰り広げながら、神崎が声をあげる。


「僕は君を否定する‼ 君のやり方は間違っている‼ もう迷わない‼ 僕がこの世界に呼ばれた理由が今はっきりと分かった‼ 君を止める為、君を正し、この世界を僕のやり方で救う為だったんだ‼‼‼」


 ルークは負けた。

 敗走している。

 だから、その神崎の言葉に返す言葉を持たない。


「……キング?」


 ルークの様子を心配するヨハネには確かに見えた。既に満身創痍で血塗れのルークの口からは新たに追加の出血があった。

 奥歯を噛みしめ、己の牙が己に深く深く食い込んでいるのだ。


「……ヨハネ、絶対にこのままでは終わらんぞ」

「ですです」


 ヨハネは胸に暗い感情を抱き、心の中で不敵に笑う。


(イチちゃん、ニーちゃん、ごめんね。これは私からキングへの最終試験だったんですです。彼は最後に使えないあなたたちを使い捨てられるのか。口だけのキングではなく、本当に私すらを含む全てを捨てて頂きに上る覚悟があるのか。だから、あなたたちへプレゼントを贈らせてもらったですです。まさか、こんな形になるとは思ってなかったですですけど)


 そう、そもそもニーがパンプキンケーキを口にした原因はヨハネの配下がイチ、ニーの働いていたパン屋にパンプキンケーキを届けていたことにある。

 ヨハネはルークの身内への優しさが嫌いだったわけではない。ただ、それが大事な局面で甘さに繋がるのではないかと危惧した。だから、その可能性を生みそうな部分に逃れられない毒を盛り、斬り捨てざるおえない状況を作っておいた。


(捨てるどころか自らの手で強みに変え特攻させた。合格ですです)


 ヨハネの配下の『神の溝』の元信者たちがホイホイの外に出る門前で馬を待機させている。チャトランガのメンバーは追っ手を撒きつつ、そこへ向かった。


「どうするよダーリン。取り敢えずラブジルに向かうか?」


 バレッタが自身の母国への帰還を勧めた。ルーク一味はもはや人間族全てのお尋ね者だ。人間族を全て統一し、支配下に置いたホイホイを敵に回すとはそういう意味だ。

 だが、バレッタが次期継承者のラブジルならば、その支配力はまだ薄いかもしれない。


「難しいな。敵もそこだけは徹底的にマークしてくるだろうからな。身を隠すにしてもラブジルに直接向かうのは危険だろう」

「私は方向としてはそれで間違っていないと思います。しかし、あくまでラブジル領土内の小さな街や村を経由し最終的に人が近付き難い区域に向かうことが最善かと」

「……エア、ハクア。華中、メアリカの最奥にある人族と亜人族、獣族の国境付近か。確かにあの辺は防衛戦でもない限り華中、メアリカ連中でも近付かない区域だが」

「えぇ、危険ですね。しかし、今はそれしか手はないかと」


 ワンコもリスクは承知だ。

 だが、今はそれ以上に世界中の人族が敵に回ったのだ。人族の国のあるエリアで彼等チャトランガが無事でいるのは難しい。少なくとも今の傷を癒すまでは。


「また隠れ住む生活に逆戻りするのは癪だが、仕方ない」

「慣れてるでしょ」


 リオンが呆れた声で呟いた。

 ルークは「そうだな」と返し、馬に跨る。



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