反転
次にルイや神崎、ニアリスサイドの人間が警戒を始める。
「おい! ルークが何か取り出したぞ! 警戒しろ‼」
ルークは彼等を嘲る。
(馬鹿め、警戒するのではなく、そもそも俺の動き自体を止めるべきだろ。まぁ、この戦力差にこちらがまともに動けるのは非戦闘員ばかり、気持ちはわかるがな)
ルークは紅い液体の入った小瓶を取り出し、蓋を開け、それをイチに差し出した。
イチはその瓶の中で揺れる液体に一瞬目を落とし、次の半分ほど瞬間飲み干した。
「へへ、ちょっと苦いです。ニー、大丈夫?」
「うん、これを飲めばルーク様の役に立てるんだよね?」
「そうよ、大丈夫、お姉ちゃんはずっと隣にいるから」
二人と少しだけ面識のあったヨハネが彼女らに歩み寄る。
「ありがとうですです。二人はもう一生分キングの役に立ったですです。だから、私ぃとは対等なのですです」
「へへ、次会った時はヨハネちゃんって呼ぶね」
「ですです」
ニーは残りの半分を飲み干した。
彼女たちはどうしてそこまでしてルークを信じ続けることが出来たのだろう。
それは絶望の底から救い上げてもらった人間にしかわからない。
「……あれは私の血だ……吸血鬼の血」
それは四国会議前にティグレがルークに渡したティグレの血の入った小瓶。それを飲めば、一時的にこの世界最強の血統、吸血鬼になれる。ただし、それを飲んだ者は多少の個人差はあれど、短命、下手をすれば僅か数十分で直ぐに命を散らせる。
「俺は俺が人間であることに意味があると言った。底辺が頂点を掴むことに俺の矜持と愉悦があるのだとな。だが、他は知らん」
ルークは二人に最後の言葉をかける。
「俺の為に最強となれ‼」
「「はい‼‼‼」」
二人は勢いよく返事をした後、その場に膝をついた。
周りはまだ何が起きているのか、把握できていない。
ドクン、ドクン
イチとニーの全身の血管が脈打つ。
周りが煙で包まれ始めた。彼女らの身体中の体液という体液が急激な変化により生まれる熱によって蒸発し始めたのだ。
「かっ、彼女たちをとっ、止めてください‼」
ニアリスが現状の異常さを感じ初め、周りに懇願する。
その声に勢いよく返事した兵士たち十数人が彼女たちのいる煙の中心へ特攻をかけていく。
直ぐに短い悲鳴に変わった。
煙は晴れた。
中からは彼女たちは現れる。
元から細身だったのにさらに痩せ細り、目の焦点は合っていない。
それぞれ額の少し上から斜めに生え上がてきた一本角。
両手に先ほどまで元気だった兵士たちの生首。
神崎の全身に危険信号が走る。
「やばい‼ みんな、陣形を取って‼ 無作為に突っ込むだけじゃ全滅しかねないぞ‼」
神崎は頭の中ではまだ混乱したままでも身体で理解した。
彼はその身をもって知っている。
ティグレの妹、鬼々。
神崎、強華、ルークが全身全霊を賭けても結局及ぶことを許さなかった絶望的力を持った少女。
世界最強種族鬼族の中でも選ばれし一握りが到達する吸血鬼と言う怪物。
今目の前にいるイチ、ニーにはそれに近いオーラがあった。
「この場における全権の指揮を神崎様に委譲します。皆さん、指示に従って下さい‼」
ニアリスが体制を整えようと声をあげた。
当然、彼女の周りには一番兵士たちの密度が高く、堅守だ。しかし、それはもう意味を成さない。
「ニアリス‼」
神崎が声をあげた時には、ニアリスの周りの兵士たちは全て肉片、血の塊へと変わっていた。神崎がニアリスを守るために足の筋繊維を酷使する。
「……邪魔、あなたたちはルーク様の邪魔に……なる」
向かってくる神崎を迎え撃つようにイチの拳が神崎の腹部に直撃する。それを辛うじて耐えきる神崎の背後にもう一匹の鬼が迫る。
「私達に意地悪しないで」
ニーが神崎の頭へ振り上げた足を落とす。
「ぐあぁぁぁ‼‼」
それは子供の脚力とはかけ離れている。それでも自分の回避を無視し、ニアリスの身を呈して守る。
その数瞬の出来事が明け、ようやく凡人の域にいる者たちの身体が動き出す。
「おい、あのガキどもを止めろ!」
「我々は聖母ニアリスを守るのに全力を尽くしなさい‼」
会場は完全にパニック。
全てをひっくり返した。




