権利を行使する者
ハレルは『伝家』を構えた。
そして、退路を断つように自身の通ってきた通路を斬り壊し瓦礫の山を作っていく。
彼もただ漫然と獲物を追っているわけではない。
後は、
「後は、神崎たちが追い付くのが先か、俺たちが追い付かれるのが先かだな」
「にしてもルーク、やはり見事にお前だけ斬らているな」
ティグレは感心しているようにルークの傷口を見ながら、共に逃げる。
今の逃走中にも数か所斬られ、ついにティグレとステニーの肩を借り始めた。
「お前らにも拳銃は渡しておいただろう。援護をしろ」
「してるけど、三人じゃ効果薄みたいだね」
少しずつ少しずつ首は閉まっていたのだ。
時間にしてどの位が経っただろう。
ルークはまずいと直感で感じた。
その通路は旧王室のある大廊下。
道幅が大きく長い。
「アメ、ご苦労だったな」
ハレルの声がそこには響く。
「くっ」
そのまま逃げれば敵に背を晒すしかない。
最悪の選択だが、旧王室内に逃げ込むしかなかった。
(この部屋にはバルコニーがある。カーテンで隠してそのまま一つ下のフロアへ飛び降りるしかない)
その目論見は成立しなかった。
死角にしていた旧王室の扉が斬り捨てられる。
呼吸している隙も見つからなかった。
誰も声を発する時間もなく。
ルークは膝から下の左足を失う。
「がああああああああ‼‼‼」
光の後に音が来るように、声が遅れて部屋中に響く。
「ルーク‼」
ティグレが叫ぶ。
ステニーはルークの肩を離し、後方のバルコニーに向かう。
本当に死が迫った時、彼女はあっさり逃げる。それが研究を続ける秘訣だ。
そして、それをハレルは追わない。
入れ違いになるようにバルコニーからアメが入ってきて、ハレルの肩に乗った。
「実力差から考えて変だとは思わなかったか? 俺は只貴様に相応しい死に場所を選びながら城を散策していただけだ」
アメから城の外観の大雑把な情報を貰い、ハレルはここをルークの死に場所と決めた。
それだけの話だった。
「あの男から聞いている。ここで貴様は二つの国の王族を皆殺しにしたそうじゃないか。ならば、現政権の貴様もここで死ねれば本望だろう。次の国へ未来を託せ。それでも腐っていればまた俺が頭を刈りに来る」
「……あの馬鹿王子か。改めてあの時殺しておくんだった」
ルークはそれでもティグレの肩を借り、バルコニーの方へ、光さす方へ身体を這わせる。
「虫のお前にはお似合いだな」
次は右足だった。
「がああああああああ‼‼‼」
血飛沫はもうすぐ死ぬであろうことを予感させるものだった。
部屋中が血で染まる。
「死ぬ前に謝罪の言葉でもないものか?」
両の足は失われた。
最早支えはなく。
ティグレ一人ではルークを支えきれない。
呼吸は正常なリズムを保てず、視界は霞む。
「お前に、俺の人生、生き方を否定される覚えは、ないが、それもまた、強者の権利、だよな。本当に、羨ましい」
強い者は何を言っても許されるのだ。
強いから。
それを咎めることの出来るものなんて限られているのだから。
だから、彼等は何でも言える。
そこに正否は意味を成さない。
「気にするなよ、俺もいずれそこ、に行く。俺が、俺の言葉が、全部正しくなる」
「ふん、そんな地獄は訪れんよ。今ここで死ぬのだから」
「何度目、だったかな。もう五度、目か。やっと、発動条件って、やつが、わかったよ」
毎度毎度、面倒だな。
ルークは心の底からそう思う。
「……異世界転生」




