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第十六話 始まりと齟齬、それは誤差ではない

 翌日、早朝。

 予想される敵対勢力の数は約五百、こちらはその倍近い数の兵を従え、出発した。

 ちなみに今回はリオンとティグレは留守番組である。

 ルークとしては、懐刀的役割のリオンを置いて行くのは痛手だが、ルークたち一派が全員で国を開けることによって造反の危険も考えられるため仕方ない。

 未だに新国家が安定しているとは言い難いのだ。


 占領された島を取り戻すとは言ったものの、戦場は恐らく島と唯一港同士で交流のある街クーオカ。

 ここは数日前から連絡が途絶えている。

 先遣部隊の話では、ラブジルの兵に占拠されているらしい。

 市街地での戦闘は出来る限り避けたいが、クーオカの奪還が一番の優先事項だ。

 ルークと同じ馬車で同行していた神崎がざっくりと戦況を説明される。


「キオナワ島か、なんか聞いたことある名前だなぁ」 


「ふん、どこにでもあるようなありふれた名前だろ」


「ところで僕たちこんな後方でいいの?」


「指揮官を前方に配置するなんて話聞いたことがあるか?」


 ルークは呆れて鼻を鳴らす。

 そもそもルークとしては初陣でなければ戦地に赴くことすら避けたかったのだ。

 現状、戦地を任せてもよいと思えるほどの適した人材に巡り合えていない。完全に人手不足によって足を運ぶしかなかっただけだ。


「いや、ルークはそうかもだけど、僕までこんなところじゃまともに戦闘に加われないよ?」


 ルークは神崎の危惧していたことを理解した。


「あぁ、お前は戦闘が始まった後の戦況を把握し終えてから、一番必要なところに投入するからまだいいよ。あと、仮面をつけるのを忘れるなよ」


 ルークとしてはギリギリまで人死にがでる戦場を避け、神崎には不利なところの制圧にだけ周ってもらおうという腹である。

 神崎は一応得心がいったようで頷いた。


「はぁ、またこの変な仮面をつけるのか」


 神崎の手にはあの時つけていた鬼の面が握られている。

 あの時以来、神崎は城内を移動するにも常に鬼の面をつけなくてはならなくなっていた。

 歩くだけで奇異の目にさらされるのだ。


「文句を言うな。味方に背中を狙われたくないだろ?」


「そりゃね、って言うか本当にこの戦闘で人死なないの?」


「多少の重軽傷者はだすが、大丈夫だ」


「ふーん、ならいいけど」


(なわけないだろ、こいつどんだけ平和ボケした所に住んでたんだよ)

 東京都足立区である。

 ルークは内心で悪態をついた。


 三時間ほど経っただろうか、他の部隊からの連絡係が報告にやってきた。

 交戦が始まったと。

 

「思ったより早かったな」


 目的の街クーオカへの被害が出ては元も子もないので、その手前にある山間部での戦闘を予想していたが、交戦が始まったのは更にその手前の草原地帯だ。

 そこは身を隠す場所も殆どなくガチンコの戦闘が予想される。

 ぶっちゃけ兵力がものをいう。

(よっぽど好戦的な大将なのかもな)

 ルークは顎に手をやり、思考する。

 山間部を二手に分かれ挟み撃ちにしようかとも思っていたが、遮蔽物の少ない草原地帯では下手な小細工はかえって握手。兵数の差で潰したほうが確実かもしれないと考えた。

 ただ、それ故に一つの疑念がまとわりつく。


「兵の数ではこちらの方が上だぞ。なのにガチンコ勝負を挑んでくるのか?」


 その疑問を口にしたルークに神崎なりの答えを出す。


「即席の軍隊に負けるわけないと思ってるとか?」


「確かに初陣だし連携が怪しいが、別に素人を兵にしてるわけじゃない。元々前の国家でも兵士だったんだぞ? 舐めてるのか」


(それどころか、つい最近増援を得た向こうのほうがよっぽど連携が怪しいはずだ。

 だが、どちらにしても奇妙だ。早めに神崎を投入して終わらせるか)

 ルークは兵士の配置の書かれた紙を取り出す。

 最前線、そこはルイたちのような猛者たちがひしめいている地帯。

 ルークはその地帯から少しずれて地点を指差す。


「礼嗣、今からこの地点に向かって加勢してくれ」


 神崎はルークが指差した紙を覗き込む。


「最前線じゃなくていいの?」


「うちの兵士のトップの方の質は悪くない。最前線は数でも質でも圧倒しているだろう。連絡によれば向こうは少しだけ打点をずらしている。今のところ前線の左側が向こうの兵数も多く、少し圧されているらしい。この地点で何かしら向こうの重要な企みがあるのかもしれない。そうなると伏兵の存在も怖い。そこをさぐりつつ頼めるか? で、片付けたら最前線に合流してくれ」


 ルークなりに早めに終戦に持っていくために考えた攻勢。

 神崎はその言葉に力強く頷いた。


「うん! わかったよ」


「今、馬を用意させる」


「……いや、あんな謎の頭の二つある馬はいいよ」


「お前のところとは、また違うのか」


「うん、全然、そもそも嘴ないし」


 神崎は呆れ気味で馬車の扉を開けた。

 表では二頭にそれぞれ嘴を携えるこの世界の馬が四本の鳥のような見た目の足で走っている。

 神崎は馬車を勢いよく飛び降りると、最前線より左方向へと飛び出していった。

 慣性の法則とかぶっちぎってどんどん前方に消えていき、あっと言う間にルークが視認できなくなる。


「……相変わらず化け物だな」




 それから三十分も立たないうちに、神崎の功績が耳に少しずつ入って来る。

 しかし、それでも予定していたものより少し遅い。

 一番重要な最前線からの連絡もまだ来ていない。

 思ったより混戦なのかもしれない。


「初陣なら、こんなものか」


 ルークは一人、呟いた。

 

 そこに、けたたましい音が馬車の方へと近づいてくるのに気が付いた。

 ルークは神崎があらかた片付け終えて、帰って来たのかと予想したが、その予想は最悪な形で裏切られる。



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