暗い森の影
周りの兵士に低い声で告げた。
「物陰に隠れてろ」
兵士たちは言葉の意図を読み取り、無言で頷く。
「ウーノ様のあれが出るのか」
「俺はあれを噂でしか知らないんだが、実際に使ったことはあるのか?」
「小範囲でなら俺は見たことがある。しかし、今回するそれは比べ物にならないだろう」
兵士たちは物陰に隠れ、声を殺し、視線の先のウーノを心配そうに見つめる。
「だが、こうするしかない」
「まだ、数では押しているんだろ? まだ、待った方がいいんじゃないか?」
「馬鹿、数で押しててもこっちはオセロム様とアシロの『鏡写しの死双』がやられてるんだぞ。前線の士気は削がれている。それに、どれだけ数が多くても向こうが今の草原地帯から少し戦線を下げれば入り組んだ森だ。同時に剣を振れる兵士の数が制限されてしまう。個人の戦闘性能が向こうの方が高いのはオセロム様や『鏡写しの死双』で証明済みだ。なら、まだ向こうが数を減らすのに躍起になって草原地帯で乱戦をやっている今の方がまだマシなんだよ」
恐らく現状このままいけばいくらメアリカ、アシロの最高戦闘員を倒したとはいえ、倍以上の数の差で徐々には押し出すだろう。そうなれば、ホイホイ、華中は戦線を少し下げ、森で丁寧な各個撃破に切り替えてくる。時間はかかるが、単純な兵士の性能差を考えればホイホイ、華中側にとって悪い手ではない。
「……なるほど、森はここみたいに多いしな」
唯一、作戦タイミングに疑問を抱いていた兵士が合点がいったとばかりに落ち着いた口調になる。それを残りの兵士が無言で頷く。
「「「影が」」」
ウーノの影が蜘蛛の子散らすように細かく、四方に、かなりの速度で散っていった。
「影円の庭、ちんけな私のちんけなスキルさ」
ウーノは戦えない。
オセロム曰く戦闘センスが全く感じられないらしい。
しかし、どんな強者も彼女を瞬殺することだけは出来ない。
最前線で敵味方入り乱れ戦う兵士たち。
バレッタは血に飢え、バルゴスは丁寧に敵の兵士たちを沈めていく。
ウーノがスキルを発動させて僅か数分、数キロ離れたそこにウーノの分裂した小さな影、影子と呼ばれるものが数百、数千と到着していた。
その一つがバルゴスの影と同化する。
そんな小さなものに命を賭けた戦闘中に気を割けるものは少ない。
しかし、ウーノの影子が皆の影に馴染めばそんなことは言ってられなくなる。
異変に最初に気が付いたのはバレッタ。
「バルゴス! 後ろ‼」
視線の先には人影。
否、影だった。
影が立体化していた。
バルゴスと似た背丈の影がバルゴスの前に立ち上がっている。
それは戦場のあちこちで起こり、その人影が立体化し対峙している者たちの足元には影が無くなっていた。
敵も味方も関係なく、数千の影が立体化しそれぞれの前に立ちはだかる。
混乱しないはずがない。
しかし、その数秒後さらなる混乱が訪れる。
バルゴスの影がバルゴスを襲った。影で出来ているのか、真っ黒の剣がバルゴスの頬を掠め、血を噴き出させる。
「なんなんだ、これは‼」
【能力名】
影円の庭
【LEVEL】
LEVEL9(Max)
【スキル詳細】
自身の影を他者(生物に限る)の影に張り付かせることが出来る。
張り付かせる影はスキル保持者の影の面積分ならば細分化し、複数人に張り付けることも可能。
張り付かせる対象は相互の了承のない限りランダム。また、影が別の影の中にある対象には影を張り付かせることが出来ない。
張り付かせた影は対象が気絶(睡眠を含む)もしくは死亡した場合、スキル使用者の元へ戻って来る。
その影はスキル保持者の視力をゼロにしている間のみ実体化し、影の持ち主を襲う。実体化した影が攻撃対象とするのはその影の持ち主だけであり、また実体化した影にはその影の持ち主だけしか触れることは出来ない。
実体化した影の戦闘能力は影の持ち主と同等とする。
実体化した影の生命力は影の持ち主と同等とする。
彼女にはたった一つしかスキルがない。分類としてはSランクスキル。
ウーノは不敵さと余裕を取り戻し、口角を左右に裂くのだ。
「みんな、悪いが踊ってな」




