清掃
フライトはじんわりと現状を肌で感じ始める。
彼女を見下ろすのは敵国の精鋭セブンズの五人。
この先に待つ未来は言うまでもないだろう。
ワンコが一歩前に出る。
「アシロの帝王代理フライト様ですね。我々と一緒に来てもらえますか」
言葉の上でこそ尋ねる形だが、そこに拒否権は一切なかった。逆らえばその場で殺す。それだけだ。
「駒風情が」
フライトはぎりりと歯噛みする。
「その言葉自身の部下たちにも聞かせてあげてはいかがですか?」
ワンコは特に気にした様子もなく、落ち着いて言葉を返す。
フライトに返す言葉はない。ワンコがそれを見て、分析するようにフライトに敗因を説明した。
「あなたは自身の部下たちを駒として計算しなかった。自身を守るため、戦いを有利に進める為、やりようはあったはずだ。だが、自身を守るのにも味方の負担にならない為か、同盟国の主戦力の元へ隠れた」
「……どこが間違っているのよ」
「間違ってはいません。ただ結果として別の選択肢を選ぶべきだった。あなたがここにいることは誰が知っているのですか?」
フライトがここに潜伏していることは側近のキースやノーボスでさえ知らせていない。
ただ、最適な潜伏場所を見つけたからと誰の負担にもなる前と多くの反対の声を押し切って今ここにいた。
そこまでワンコの読み通りだった。
「あなたの振る舞いは王ではない。私の王ならこのような愚行は犯さない。王とは最も価値のある者であり、自身の見た理想を民に見せる為に生き続けなければならない」
彼はルークの顔を思い浮かべた。
初めて出会ったあの日から自身を最高値まで使いこなせるルークに心酔した。退屈なあの場所で燻っていた火を灯してくれた。
「さぁ、ネズミはあと一匹だ」
現時刻をもってメアリカ、アシロ同盟は半壊した。
「パンプキンケーキを、パンプキンケーキをくれぇ」
老人は喉を掻きむしりながら叫ぶ。
「……惨いな」
ハレルは暗いその場所で呟く。
華やかで栄えている表通りが嘘のように裏路地では見るに堪えない光景が広がっていた。パンプキン祭以降無差別に麻薬を撒きまくったせいでホイホイ内でもかなりの数の中毒者が出ていた。
国内の流通を絞り殆どは国外向けにシフトさせても完全に流通を止めることは出来ない。また、中途半端に絞った分中毒者の末期化は他の国以上の速度となっている。
「こいつでもう八人目か。まだかなりの数がいるのだろうな」
「……俺がいた時はここまでじゃなかった」
ハレルに同行している人物は深いフードの中から言葉を発した。
「そうか、だがこれでお前の言葉に真実味が出て来たな」
「はっ、はい」
「しかし、いくらなんでもこいつらをこのまま放置しているればあっという間に国民たちから不審の目を向けられそうなものだけどな」
「確かにねぇ」
ハレルの肩に乗る小人のアメも同意する。
その時だった。
まだ更に奥の路地裏から複数の足音が聞こえてきた。
「待て! それ以上の勝手はいくら姫でも許されねーぞ!」
「早く、早く逃げてください」
「もう無理だ。姫様、ありがとなぁ。死ぬめぇにもう一度だけパンプキンケーキが食べたかったなぁ」
人影は三人。
獣族のような鋭い爪と牙を持つ男。
その男から逃げる姫と呼ばれるどこか気品のある銀髪の女。
そして、その女に手を引かれ一緒に逃げる身なりの汚い男。
「……あれは獣族じゃないな」
「そうね……人族よね?」
ハレルたちは数々の旅路を歩んでいたが、その中でも特別奇異な場面に出くわした。




