思い通りに進むことなど殆どない
籠城の準備は万全だ。
既にホイホイとメアリカ、アシロを繋ぐ森の手前の草原にはホイホイ国内の殆どの兵を配備していた。 ラブジルや配下の国の兵も掻き集め、ここから一歩も侵入させないと言う意志がはっきりと伝わる。
幸いホイホイは森と海に挟まれた国だ。
海側の裏から回り込まれる心配はない。あるとすればホイホイの後方の島国をいくつか所有しているアシロだが、いかんせんホイホイまでの距離がかなりある。航海で疲弊してはまともな戦いにならないだろう。
戦いは至極王道な始まりだった。
草原には多くの兵が列をなし、櫓や柵まで作り、いつでも敵を迎え入れられる体制を整えている。
櫓の一つで見張りをしていた兵士があまりに周辺の状況の変化のなさに欠伸を漏らした。
その時だった。
最前線、第一陣の兵百近くが一瞬で削られた。
先頭に立つ人間は二人。それに続く形で続々とメアリカ、アシロ連合の兵士たちが攻め込んでくる。
当然、この様子はルークの耳にいち早く入って来る。
伝令の兵士は膝に手をつき、息絶え絶えにその様子を知らせた。
「『死双』です! 『鏡写しの死双』が現れました‼」
「そうか、いきなり最重要警戒戦力の二人が現れてくれたか。バレッタたちを向かわせてくれ」
「既に向かってます!」
「それもそうか。あの戦闘狂が駆けつけていないはずもないか。わかった。残りの前線部隊は待機させていた【傷塗れ(ハウ)の(ン)犬】と入れ替わる形でゆっくりと引いていけ」
「了解です‼」
伝令の兵士は直ぐに部屋を出ていき、ルークの指示を伝えに走った。
ルークの後方でのんびりと眺めていたティグレは興味なさげにルークに問うた。
「随分、削られたようだが、想定内か?」
「あぁ、前衛は試験紙みたいなもんだ。どの程度の連中か先鋒か確かめたかっただけだ。いきなり大本命がお出ましてくれたようだけどな」
「双子か。私は一度も見たことがないな」
「俺は会議の時に見たが、どちらがどちらか全く見分けがつかなかった」
「ふーん、勝てるのか?」
「さぁな」
剣が交わり始めた。
ホイホイの兵士の一人はモブ雄は腰を抜かしていた。
こんなのは反則だと怯えていた。
「これが噂の『鏡写し死双』キース、ノーボス。反則じゃねーか」
目の前で繰り広げられる光景に未だに夢の中にいるようだ。
彼女たちが目にもとまらぬ速さで動いたり、信じられない威力の攻撃を放つのはまだいい。それだけ優秀な兵士なのだ、今更驚くだけ疲れると言うものだ。
「まるで自軍の兵士にパワーを与えてるみたいだぜ。いや、それがあの双子の噂のスキルってわけかよ」
そう呟いたところで、モブ雄の前にアシロの兵士が現れた。キースに肩を叩かれ、目にもとまらぬ速さで迫ってくると一瞬でモブ雄の首を切り落とした。この兵士は先ほどまでモブ雄と大差のない動きで戦場を駆け回っていたのに、今の一瞬はキースやノーボスに肩を並べるほどの動きをみせた。
「まだ敵さんは様子みたいね、キース」
「関係ないわ、今の内に殺せるだけ殺しておきましょう、ノーボス」
二人は相手の顔の高さに手を上げ、合わせた。
その瞬間、二人は左右に割れる。そのスピードを目で追えた兵が敵味方の中に何人いるだろうか。
彼女たちはそれぞれが手に持つ、斧で敵兵を紙切れのように引き裂いていく。
兵士の損害が三百を超える手前だった。
((これで前線はあらかた片付く!))
二人が鋭く斧を振り下ろそうとしたところでそれぞれに対応する者がここにきて初めて現れた。
「これ以上は進ませられません」
「よぉ、自分たちばっかり楽しむのは狡くないかい?」
一人は全身真紅のラブジルの第一継承者、バレッタ。
一人は全身を改造塗れにしてまで力を得たホイホイの元一般兵、バルゴス。
キースとノーボスは自身の攻撃が止められても特に動揺した様子はない。
「一人は見覚えがあるわね、キース」
「そうね、あの会議にもいたわ。確かラブジルのイカれた姫君よ、ノーボス」
バレッタは愉快そうに笑う。
「おいおい、否定はしねーが本人の前で酷いな」
二人はその言葉を無視してバルゴスに目を向ける。
「あの子は完全に知らないわ、キース」
「えぇ、でもあなたの斧を弾いたわ。油断は禁物よ、ノーボス」
バルゴスは二人の視線を受けながらも落ち着いた様子を見せている。
以前、トライがホイホイを襲撃した際にみせた暴走状態も今は鳴りを潜めているようだ。これが彼の今の素の状態なのだろう。
バレッタが無視された仕返しか、二人の会話を聞こえないふりして背後の数人の部下に大声で声を掛けた。それはまるでキースとノーボスに聞かせるようにだ。
「おい、お前らは手を出すなよ。向こうさんは二人なんだ。なら、こっちも私とこの坊主でいいぜ」
その言葉に一番動揺したのは背後にいたバレッタの側近の一人ジャッカルだ。
「ちょっと! また勝手なこと言いださんでくださいよ。ルーク様との話し合いで、俺たちラブジルの精鋭部隊でその二人は倒す又は足止めって手はずだったでしょうが! ってか、隣のあんたは誰だよ」
「ジャッカル、動揺、禁止。手の打ち、オープン」
もう一人の側近リールはあくまで落ち着いたままジャッカルにツッコミを入れる。
「あーあー、聞こえねー」
「子供みたいなことしないで下さい!」
バレッタはあくまでマイペースで隣りのバルゴスを見た。
「まぁ、そういうことだ、坊主。私の隊も他の敵さんの先行部隊にぶつけた方が戦争の終結が早まるとは思わねーか? まぁ、私としちゃこいつらを喰えれば戦争の終わりなんて早くても遅くてもいいんだけどな」
「……構いませんよ。どのみち彼女たちは自分だけでも倒す気でいました」
「おぉ、そりゃ頼もしい。流石、ダーリンの秘蔵っ子だ。でもお前、他の隊の指揮を任されてなかったかい? それ放棄してこの死地に乗り込んでくるとは、私と同族か?」
「いえ、自分は倒せると判断したのでホイホイの国の繁栄の為に一番力になれる役割を希望しただけです」
バルゴスは背後の兵士たちに他の場所を頼むとばかりに敵に剣の照準を合わせた。
「ちっ、どいつもこいつも理解できねー。行くぞ、お前ら」
「ジャッカル、ラブジル王、大目玉」
「あぁ、そうだよ! こんちきしょう!」
ラブジルの精鋭部隊をジャッカルが引き連れて他の戦場へ向かっていく。
それをキース、ノーボスは逃がすまいと目を剥いた。
しかし、次の瞬間にはバルゴスの剣とバレッタの拳が自分たちに目掛けて飛んできていたのだ。




