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異世界から来た奴がモテモテチート過ぎてウザい  作者: 痛瀬河 病
第四章 人を喰らえ、人共よ
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この日、人類は堕ちた

 咆哮。

 それは獣の咆哮のようだった。

 ブチブチと繊維の切れていく音が同時に室内に響く。


「坊ちゃん、もう限界」

「そうか、じゃあそろそろ帰るか」


 ケスバの伸びた髪が拘束していたオセロムはいつにそこから解き放たれた。


「いやいやいやいや、この状況で大人しく帰すと思うかい?」


 メアリカの最大主ウーノはまだケスバの髪による拘束の中だが、口だけを動かしフゴルを制止した。


「ウーノ珍、この国で殺し合いはマズイよ」

「オセアニアはもうないだろう。オセロム、絶対にそいつらを殺せ。どうせ戦争はもう止められない。なら、根っこだけでも先に処理しておこう」

「せめて頭と言って欲しいな」

「なに根っこであっているさ。君たちは諸悪の根源だろ」


 十分間、それはあまりに大きな時間だった。

 もしかすれば、散り散りになったルークたちの配下のいくつかには追いつくことは出来るかも知れない。しかし、いくつかでは駄目なのだ。全てを抑えなければ、世界への麻薬ワントの蔓延は止められない。

 ルークたちは事前に準備を整えている。

 だから、いくつかのルートを潰されたところで第二、第三のルートを使って人類へワントを蔓延させるだろう。これは後出しでは絶対に追いつけない決定的な事実。これまでの比ではないパンプキンケーキが人類の住むあらゆる場所に広がる。

 勿論、もう水面下に留めておけない事態にメアリカやアシロは表立ってホイホイ、華中と対立する。輸出入の完全な停止に波が経たないわけがない。

 後は戦争でどちらの意見を通すのかのマウントの取り合いだけが残される。


 ならば、その戦争が前倒しになる原因になるかもしれないが、それでも諸悪の根源をここで絶やしておくのは悪い選択肢ではない。


 強華、ケスバはオセロムのスキルによって床に張り付いたままだ。

 二人はぎりぎりと床に吸い寄せられるように体が落ちていくことに必死に抵抗している。


「ルーク珍、なんか帰してくれないっぽいけどどうする?」

「さて、どうしたものか、なっ!」


 ルークは右手の義手の手首の部分を引き抜いた。

 そこからはもくもくと煙幕が上がりあっという間に室内を覆い尽くした。


「逃げられるわよ! キース! ノーボス! 入り口を塞いで!」

「「もう塞いだわ、フライト!」」


 ケスバの髪の拘束からやっとのことで自力で抜け出した双子は、煙幕を見ていち早く入り口に向かい逃げ場を塞いでいた。


「落ち着けアシロの、こいつらの従者は既に俺のスキルで動きを奪っている。逃げることはまかり通らない」


 オセロムは落ち着いた口調で煙幕の晴れるのを待った。

 煙幕が晴れるのは予想より早く、そしてその原因は誰の目にも明らかだった。


「ちっ」


 ウーノは舌打ちをした。


「……俺は床に抑えつけた。ならば、それに無理に逆らわず、俺のスキルに自身の力まで加えて床に身体を叩きつければこうなるな」


 オセロムはどこか感心したようにその様子をまじまじと観察した。

 その呑気な様子にウーノは声を荒げた。


「ぼけっとしてないで、さっさと追うんだよ! 外に待たせている奴等もさっさとメアリカ合衆国に伝達させろよ!」

「やれやれ、人使いが荒い」


 オセロム以外のこの場に残った者たち全員が歯噛みした。

 煙幕は一点に吸い込まれていたのだ。

 会場の床には大穴が開き、ルークたちは既にその場にはいなかった。


「ここが一階だったら良かったな」


 オセロムは穴の下を覗き込む。当然、そこにも彼らはいない。

 オセロムは少し反省した。自分のスキルをこんな方法で攻略されたことはなかったからだ。完全に発想の外だった。

 しかし、それも当然と言えば当然だろう。

 そもそも人は床に抑えつけられて身動き出来ない状態で数メートルの石床を砕くことなんて出来ない。

 たまたま今日はいただけだ。

 床に穴を開けられるほどの威力を秘めている人間がだ。




 額から血を流す強華をルークは心配した。

 心なしか足元が覚束ない様にも見える。


「強華、大丈夫か?」

「うん、大丈夫。床が抜けたら拘束も解けたみたい」

「そこだけが唯一の賭けだったな」


 ルーク、フゴル、強華、ケスバの四人は会場の床を強華の頭突きによってぶち抜くことであの場から逃げ出すことに成功していた。

 人目を避け、彼らはそれぞれの国へ戻っていく。

 狡い奴ほど抜け目なく長生きするものだ。


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