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異世界から来た奴がモテモテチート過ぎてウザい  作者: 痛瀬河 病
第四章 人を喰らえ、人共よ
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眠れ人の子よ

 充分な時間を稼いでもらったバレッタは城を抜けると、発煙弾で外に待機させていた兵士に知らせ、その兵士たちは続々と四方へ散っていく。

 彼等には事前に交渉が決裂した場合、自国や自分たちの息のかかった商人たちが駐在している国へ報告へ行くよう指示してある。

 もう彼らを止める手立てはもうなくなった。


「へっ、戦争の始まりだ」


 バレッタは散っていく荷馬車を満足そうに見つめた。




 ティグレは今日も今日とてホイホイの城内にてモンブランを食べていた。

 流石に四国会議には興味があったが、前回鬼々や吸血鬼の件で黙っていた借りがあり、仕方なく居残り組となった。


「鬼々の奴、大きくなってたな」


 ティグレはぼそっと呟いた。

 ルークはティグレの与えたスキルを使い、現在四体の異世界転生者を呼び出した。スキルを発動するごとにレベルは上がっていっている。

 スキルのレベル上限は9。このまま順調にいけば、あと五体もの異世界転生者が呼び出されるはずだ。

 ティグレはその中でルークがどう変化していくのかを見守らなくてはならない。いや、そんな義務感のようなものではなく、興味がある。単純にそれに尽きる。


 ティグレは元吸血鬼だ。

 そして、今はただのか弱い人間となった。


 その部分をルークは聞きたがったが、今はその時ではないとティグレは判断した。夏休みの宿題を最終日まで残す子供のような気持ちでだ。


『それを使いこなせるものなんていない。君も含めてね』


 脳に亡霊の声が再生される。

 ティグレは肌身離さず持っている『名前のない異本』をパラパラとめくる。ルークに出会う前には空白だった最後の十ページのうち現在では四ページまでもが新たな文字が浮かび上がり埋まっている。


「ふん、ざまあみろ。順調だよ」


 ティグレは参謀室のソファに寝転がり、照明に手をかざす。

 手の平が真っ赤に色付き、己の血の色を思い出した。

 ティグレはルークに渡した小瓶の中身のことを思い出すと、手の傷口に鋭く短い痛みが走った。




 ルークがオストリアに会合に旅立つ直前、ティグレは彼を呼び止めた。二人きりなりたくて時間を取らせた。

 参謀室に二人きりになると、ティグレはルークに中身の入った小瓶を渡した。


「なんだ、これは? 臭いな」

「臭くない、決して臭くない。それはお前の鼻が腐っているだけだ。臭いわけがない」

「いいから、中身の話をしろ。この小瓶には何が入っているんだ?」

「私の血だ」

「は? そんな汚いもの入らんぞ」

「汚くない、断じて汚くない。それはお前の目玉が汚いからそう見えるだけだ。汚いわけがないだろ」

「で、早くしろ。これからオストリアに向かわないといけないんだ」

「それを飲めば吸血鬼になれる。まぁ、選別だ。最終手段程度に考えて持っておけ」

「……やっぱり、臭いし汚いな。捨てるか」

「おい、こら、窓から投げるな。ナイフで指を切るの痛かったんだぞ」

「デメリットは?」

「なったら最後、もう二度と戻れないし、すぐ死ぬ」

「すぐとは?」

「分からん、すぐだ。一ヶ月ぐらい持つ者もいたし、五分で死ぬ者もいた」

「はっ、五分だけ世界最強ってわけか。話にならないな」

  

 ルークの心底意地の悪そうな顔がティグレは今でも忘れられない。


「それにな、ティグレ。これは俺が人間であることに意味があるんだよ。最底辺が世界を牛耳る。世をひっくり返す。弱い者が最強を名乗り、全てを踏みつける。俺はその快感を味わう為に今ここにいる」


 世界最強の力に彼は心底興味がなさそうだった。

 だが、ルークは小瓶を捨てることはせずに胸ポケットにしまった。


「俺には俺の矜持があるように、お前にも何かしらの考えがあるんだろ。一応、持っておいてやる。使うことは絶対にないがな」

「ふん、もう勝手にしろ。呪いのお守りにでもするがいい」

「それは怖いな」


 そういうルークはいつも通り不敵に笑った。




 ティグレは血が少し抜けたせいか、その会話を思い出した後に静かのそのままソファで眠った。深く深く、これからの戦いを最後まで見届ける為の力を蓄えるように。



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