揺れる少女性
そんな麻薬ワントの対処法のことなど知らずにルークは凄む。
「どうする? 同盟に入るのか、入らないのか?」
アシロの帝王代理であるフライトは苦虫を噛み潰したように言葉を捻りだす。
「……これは明らかな犯罪だ」
「国単位で起こす犯罪は犯罪にあらず、法で裁く罰など存在しない。それに対してとれるリアクションは泣き寝入りか戦争だけだ」
メアリカの最大主ウーノはルークではなく、華中の天王フゴルに尋ねた。
「ようようようよう、華中はいいのかい? ろくなことにならないと思うけどね」
「僕珍を君たち飾りと一緒にしないでよ。僕珍ならあれを完全にコントロールし、国自体も制圧できる」
「ははははっ、この中で一番のお飾りがよく言うね」
「……上手く使えば莫大な利益が出せるのにこの手に乗らない君たちの方が僕珍は不思議だよ。ビビってるの?」
会場の空気は最悪なものとなっていた。
明らかな対立。
ホイホイ、華中対メアリカ、アシロ。
その図式が出来つつあった。
ルークの百点満点の事の運びとしては、ここでアシロだけが同盟に加入してくれることだ。
現在の兵力で奥の手込みで計算しても、メアリカとアシロ同時に潰せるかと言われれば果てしなく微妙。
だが、このタイミングでメアリカ、アシロ同時に同盟に乗ってこられても上下関係があやふやなままになり、今後の同盟運営の立場が微妙になる。
これだけのことをやらかしているのだ戦争は確実に起こる。
そこで上下をはっきりさせることがこれからの世界征服にとって必要でもある。
しかし、負けては何もならない。
だから、ここでアシロが欲しい。
アシロまでルークの同盟に加われば、勝利はかなりルークの方へ近付いてくる。
アシロの帝王代理、フライトは目まぐるしく変わっていく状況に圧倒されながら、考える。
どうすればいい。
どうすれば、自国を、父の愛した、祖父の守ってきてくれたアシロを守れる?
最も被害の少ない選択肢は?
「「……フライト」」
双子の側近、キースとノーボスは不安そうにフライトを見つめる。
答えは誰も用意してくれない。
ダンッと鈍い音がなる。
フライトはびくりと小さく肩を震わせると、そこには会議のテーブルに足を乗せるウーノの姿があった。
「いやいやいやいや、当然ね、私はその同盟に参加するわけにはいかない。つまり、この場で君たちがケーキの蔓延を止めなければ戦争になるんだ。覚悟はいいかい?」
人類最大兵力を持つ国メアリカのトップはこの同盟を跳ね除けた。
ならば、自分もそちらに乗った方がいいのでは?
フライトの思考が揺れる。
「……理由を聞いても?」
ルークは想定内の反応だが、ウーノの答えの正確な真意が知りたかった。
ウーノは当然の事を聞くなとばかりに深い笑みを作る。
「ふふふふ、ルーク殿、君のやり方が気に食わない。それだけじゃダメかな?」
「……十分だ」
ルークは机の下の拳を強く握った。
それをバレッタは面白そうに見つめ、強華は不安そうに見守った。
当然、こうなれば最後の回答者、フライトの自然と全員の視線が集まる。
そして、その回答がこれからの人類の運命を決めると言っても過言ではなかった。
フライトはこの首脳陣の中で言えば二番目に年齢が高い。
上からウーノ、フライト、ルーク、フゴルという順だ。
だが、本人自体はまだ二十半ばの世間的に見れば小娘と言っても差し支えのない年齢。それが人類の命運を握っているのだから、肩にかかるものが重すぎる。
キースとノーボスは知っていた。
普段、公の場では気丈に振る舞い、決して隙を見せまいとしている彼女だが、その実、優柔不断で、慎重で、臆病で、面倒くさがりで、普通の人だと言うことを。
彼女を支えているのは、王族としての誇り、責任感、それだけを糧に一国を背負ってきたのだ。その彼女にはあまりに荷が重いのではないか、キースとノーボスは、今にも助言を挟もうと口を開きかけていた。
「……おじいさま。現帝王のおじいさまは確か大変な不治の病に罹られているとか」
しかし、この場で次に口を開いたのは、キースでもノーボスでもなかった。勿論、フライトでもない。
今度は視線が口を開いたルークに集まる。
「うちの国にはかなり優秀な研究者が二人もいてね。今回の中毒性のある薬を作ったのもその一人なんだ」
フゴルは一人は自国から追放せざるを得なかったステニーだと分かったが、もう一人に心当たりがなく、心の中で静かに首を傾げた。
「確かに今回の薬は害になる。しかし、これだけの薬を作り出す人間だ。もし、あなたのおじいさまの病の治療に専門的に取り組めば、特効薬を作れるやもしれない」
キースとノーボスは大きく目を見開いた。次にルークを睨みつけた。
ここで、その名を出してくるのかと、彼女をこれ以上なく揺さぶる悪魔の言葉だ。
口ではどれだけ冷たく言い放っても、誰よりも身内に甘いのがフライトだ。それを双子のお付きは身をもって知っている。
双子はメアリカを敵に回す覚悟を決めた。
おじいさま、現帝王の名を出され、その上快方の可能性まで提示されては断れるはずもない。あのケーキの威力を国内を見て思い知ったからこそ、逆の可能性、プラスへの転化した場合も頭によぎる。
「わっ、私は―」
その声は最初にここを訪れた時のような冷徹さや冷静さはなく、年相応の青い少女のような震え声だった。
「わっ、私は嫌々帝王代理になった!」
周りの者たちは例外なく皆、怪訝な顔をした。
「大体、仕方なくやってたんだ! 皆が私にしか出来ないって煽てるから! 私なんて頭もたいして良くないし、戦闘も出来ない。本当に家柄だけの人間なの!」
フライトは両手を頭につっこみ髪をぐしゃぐしゃと掻き回した。
「でも、でも、おじいちゃんにお父さん、お母さんもおばあちゃんもキースにノーボス、メイドに執事、守衛に隊長、パン屋も魚屋も、友達や先生、みんなみんな、アシロにいるの! ……別にアシロの誇りとか領土とか、人類三番目にデカい国とかどうでもいい」
フライトが立ち上がった。
そして、見下ろす視線はしっかりとルークと対峙していた。
「でも、みんなのいるアシロは誰にも渡さない。パンプキンケーキや同盟だけの話じゃない。あなたの手を一度取れば、これから先ロクな未来が待っていないことぐらい馬鹿な私にでも分かる」
「……守るだけでは奪われ続けると言うことも分からないのか、頭お花畑め」
ルークは歯を剥き出すように吐き捨てた。




