彼の手は
室内には並みの戦場よりも重々しく、ドロドロとした殺気が充満する。
「ルーク殿は自国の兵隊の数すら忘れたのかな?」
「勿論把握していますよ。ホイホイは僅か五千」
「うちの国の八千を入れても一万三千ってとこか」
ここで後ろに立っていたラブジル国第一継承者バレッタが口を開く。
「バレッタ殿もそんな数も数えられないあほうにつくなんて可哀想だね。一万三千で十九万の兵を有する私らに何が出来る?」
威圧する眼光を細めたウーノ。
その中では口を開くことさえ困難。
が、そこで口を開くものがいた。
「数え間違いはウーノ珍だよ」
「は?」
口を開いたのは華中の天王フゴルだ。
「十四万対六万三千だ」
「なっ、華中‼ 裏切るのですか‼」
「フライト珍、落ち着いてよ。裏切るなんて人聞きが悪いな。って言うか、いつから僕珍は君と手を組んだんだよ」
ルークとフゴルが目線を合わせる。
「寧ろ、はなっから俺たちが組んでいた」
「まあね」
「「な!」」
ウーノとフライトは目を見開く。
「僕珍の力ならパンプキンケーキは国で有効活用できる。そう確信しているよ。ステニーもホイホイでお世話になっているようだしね」
ステニーとは華中国内で知らない者はいない大犯罪者だ。
正確には非人道的な人体実験を繰り返し、国を追放せざるを得なかったマッドサイエンティスト。しかし、フゴル自体は絶対に彼女が使える人材だと睨み、極刑のところを国外追放に変更し、同じような実験をしていると黒い噂のあったホイホイへ密かに流したのだ。今、彼女はルークの呼び出した三人目の転生者ドロクの研究チームで副主任をやっている。
ここが悪魔同士の繋がったきっかけと言ってもいいかもしれない。
フゴルは現状維持では、院の老人どもに暗殺される。
だから、彼もテーブルをひっくり返すほどの変化を欲している。
ルークと手を組みことが正解かどうかわからないが、確かな変化は生まれる。
「勿論、これから華中だけには正規のルートでパンプキンケーキは流させてもらう」
予想外の事態に慌てるフライト。
しかし、ウーノは胡乱げな目で二人を見ていた。
「でででで、そっちは後、何があるんだ?」
「何とは?」
「とぼけないでくれ、時間の無駄だ。華中とホイホイが組んだところで私らとはまだ兵力に倍近い数の差がある。流石に、もう数も数えられないとは言わない。十倍は無理でも倍ならひっくり返せる何かがあるんだろ?」
「それを話せば、無条件で俺とフゴルの下についてくれるのか?」
「馬鹿言え、あんまり最大国家メアリカ様を舐めるなよ」
「所詮、人族と言う底辺の王に過ぎないがな」
「はははは、ルーク殿はそれにすらなれずに死ぬんだね」
ルークは改めて提案する。
この場の自分以外の三国に、
「あなたたちがご存じのように、ホイホイからはパンプキンケーキという高い中毒性のあるケーキがあなたたちの国の民を犯している。ケーキの中に忍ばせたハーブは全く市場に出回っていないホイホイ独自のものだ。治療法なんて見つからないと思え。
そこでだ。
提案だ。
このパンプキンケーキの輸出量をコントロールする権利を売ってやってもいい。
今は非正規のルートを使っているが、正規のルートで流そう。
勿論、輸出量をゼロにしたいのならそれでも構わん。
ただし、その権利はお前たちが俺の今、この場を持って発足するホイホイ人類連合に入ることと引き換えだ。
この連合に入った場合、お前たちの国の兵士を俺の支配下の元、従順に動く駒になってもらう。その代わり、その他の領地や一般市民には一切の不干渉を誓おう」
麻薬。
人を堕す悪魔の所業。
使ったものの人生を汚し、中毒になり、その身を縛る。
それ故にそれを扱うものは金と支配力を持つ。
ホイホイの持つ広大な森でとれた沢山の薬草。
そして、それを品種改悪するマッドサイエンティスト、ステニーを華中より拾い上げていた。
そこで生まれたのが、悪魔の麻薬ワント。
ルークは前々よりこれを上手く蔓延させる方法を考えていた。
(鬼々に祭りを邪魔され、予定通りとまではいかないが、交渉のテーブルが生まれるぐらいには蔓延した。あとは、向こうがのって来るかどうかだ。こちらはまだ切り札があるぞとチラつかせている。無血開城になるなら、それが一番だ)
この麻薬ワントに特効薬はない。
一度中毒を起こせば、根気強い治療か、命を絶つしかない。
始めは何となく甘味を欲する。
しかし、パンプキンケーキ以外の甘味では物足りなさを覚える。
次に気が付けば何度も何度もパンプキンケーキが頭に浮かび、それを食べずにはいられなくなる。
そして、摂取を抑えると、喉の渇きに苦しみ、周りのものへの破壊行為が止められなくなる。
「はーい、僕珍はその同盟にはいりまーす」
「いらっしゃい、フゴル。一番に同盟に参加してくれた国のトップには同盟内において俺と同等の権利を与えよう」
「わーい」
勿論、これも茶番。
事前に同盟のことは話していたし、その権利と引き換えなら参加してもいいとフゴルが条件を提示したからだ。
フゴルとて、これ以上他の者にいいように使われる気はない。
「これで僕珍とルーク珍は同等だ。一緒だね」
その言葉にフゴルの背後に立っていた褐色紳士のケスバがぴくりと眉を動かした。
「あぁ、そういうことになるな」
ケスバはルークの言葉を聞くと、また何事もなかったかのように表情をニュートラルに戻す。
ルークは気にせず、残りの二国に語り掛ける。
「さて、お二人はどうしますか?」




