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異世界から来た奴がモテモテチート過ぎてウザい  作者: 痛瀬河 病
第四章 人を喰らえ、人共よ
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相対的なもの

 城の廊下を並んで歩くはセブンズのうちの三人、ワンコ、ニニ、ヨハネだった。


「ワンコロ、新メンバーをどう見るですです?」

「ワンコロと呼ぶな。そうだな、リオンさんは昔からルーク様の傍にいた人だ。実力は俺たちに比べるとやや物足りないが、忠誠心でカバーしてくれるだろう。だが、あのアレーニェという少女は未知数だ。ルーク様が大丈夫だと言っていたが、どうもまだ信用できない」

「私ぃも大体そんな感じですです。どうもあの小娘のキングを見る目が忠誠のそれじゃなかったんですです。ってか個人的に言わせてもらえば二人とも私ぃたちセブンズよりキングの傍にいる感じがして気に食わないんですです」

「こら、二人とも新しい仲間の悪口はその辺にしとくんだぁい」

「ニニ、お前も最近は随分常識的な物言いになったな。お前こそ初めて会った時には自由なやつだこんなのがセブンズが務まるのかと怪しんでいたんだがな」


 ニニは「あはは」と愛想笑いをする。

(そりゃ、君たち二人の仲の悪さにニニちゃんまで加わっちゃったら収拾がつかないからだぁい)

 ニニもこの国に来て随分らしくない事もやっている自覚はあった。

 それにニニが最近常識的振る舞いが増えることになったのは、あくまで相対的なものでしかない。

 奇人変人の集団セブンズで最も常識的な男がいなくなったのだから。


「……ねぇ、今日あたりナナキんとミックスの墓参りにでもいかないかぁい?」


 ミックスには悪いが、ニニの主目的はナナキの墓参りだった。

 正確にはワンコとヨハネを連れた墓参りだ。

 ニニはもう何度も街のはずれにあるナナキたち殉職者の墓を参った。

 今回の件で一番責任を感じているムッツリも何度か見かけた。

 そして、姿は見ていないが、お墓にゴローのよく吸っているタバコが一本供えられているのを見た。


 ナナキは周りの他の殉職者の墓に比べてよく人が来ている跡があった。

 彼も彼で変わったところがあるが、セブンズの中で人一倍努力家で修練場にもよく顔を出し、その上他の兵士の面倒を見ることも多々あったそうだ。

 兵士たちの中では別格として恐れられているセブンズの中で唯一まともに接することが出来る男だったかもしれない。


 ニニは多分まだ墓を訪れていないであろう二人を連れていきたかった。

 せめて、ナナキに後の心配はするなと二人の顔を見せたかったのだ。


 ニニの静かな決意にヨハネとワンコはケロッとした顔で答える。


「墓参り、そうですです。すっかり忘れてましたですです。部下に花でも持って行かせておくですです」

「ニニ、悪いが今は緊急時だ。亡くなったものを弔う時間はない。それよりも一刻も早くルーク様の野望を叶えて見せてあげる事こそが死んだ者への弔いになるとは思わないかな?」


 ニニの顔に引きつった笑みが張り付いた。

 駄目だ、こいつら。自分のことしか考えてない。

 そんな思いが頭をよぎる。

 綺麗な建前を浮かべてはいるが、結局は自分のしたいことの邪魔をされたくない。他のことをする時間すら惜しい。そんな幼稚な我儘だ。


「で、でも少しぐらいなら」

「その少しが命取りだ。今は鬼の女の襲来のせいで国もルーク様も傷付いている。こんな時こそ我々がしっかりしていないといけないんだ」

「ですです。珍しくワンコと気が合いましたね。私ぃもそろそろキングの失った右腕の代わりに昼食を食べさせてあげないといけないのですです」

「何! 君にそんな重要な仕事は任せられない。私と変わり給え」

「無理ですです」


 そうこうしている間に、ナナキたちのことなどすっかり忘れたように二人のおなじみの喧嘩が始まる。

 ニニはその場をスッと抜けて、ナナキの墓参りに向かった。




 街はずれには多くの兵士たちの墓があった。

 その多くはまだ周りの土が新しく、最近作られたものだとわかる。

 この国はかつてないペースで戦争をしている。そのことを考えれば消費される兵士の数が多いのも当然のことだろう。


 ニニはナナキの墓に行くと既に先客が二人来ていた。


「ニアリス様、神崎ちゃん、お二人で墓参りとはお熱いんだぁい」

「ニニ、君もナナキ君に会いに来たんだね」


 ニニのボケは軽く流され、ニニもそれを引きずらず軽く返す。


「まぁね」


 ニニが聞いた話だと、ナナキは最終的にニアリスを守るために敵と相打ちを選んだらしい。ならば、当然心優しいニアリスはそれを悔やんでいるだろう。

 墓の前にしゃがみ手を合わせるニニの後ろでニアリスの声がした。


「……ナナキさんは私が自分の身すら守れなかったから」


 その続きをニニは制した。


「ナナキんはカッコよかった?」

「……はい、あの場の誰よりも勇敢でカッコいい騎士でした」

「それは残念だぁい。ナナキん、いっつもニニにもっと騎士らしい振る舞いをしろってうるさかったから、自分が出来てなかったら笑ってやろうかと思ってたのにぃ」

「……ニニ」


 ニニは厳密には戦士ではなかった。

 元々、ススイという小さな国で最高幹部をしていた。

 最高幹部と言えば聞こえはいいが、実際に行っていたことは処刑人だった。

 国の思想に背くものを処分する仕事。

 ニニの心はそこで壊れてしまった。


 ニニの故郷ススイは色々な国が出資して作った人工の国。

 つまり、最高幹部と言っても大国の出資者たちの指示で動かされている公示人程度の役割でしかないのだ。


 だが、ニニはそれすらも最初は誇らしく思っていた。

 誰もが争いではなく話し合いで解決することを目指した国。

 そうなるはずだった。

 そのためにその国は移民はいない。話し合いと最低限の食料の供給以外での他国の入国を許さない。

 その国で生まれ、肉体的な争いを生むことを憎む教育がなされた子だけがその国の住民であるはずだった。

 だけど、現実は違った。

 どうしてもイレギュラー、指向は逸れ、まるで運命によって捻じ曲げられたように争いを好む者が生まれた。

 ニニを含む五人の最高幹部はそのものを秘密裏に国外へ追い出すか、それが叶わなければ処刑する役目を国を運営する為の出資者たちに指示されていた。


 しかし、そんな無理やりな矯正にはすぐに歪みが生じる。

 思想はすれ違い、内紛は起き、最後はニニもそこに加わった。


 現在、ススイでの反省が活かされ、第二の人工国オストリアが作られ、現在まで問題なく運営されている。

 だが、いつまたススイと同じ運命を辿ってもおかしくないとニニは思っている。


「言葉じゃ届かない想いもある。ニアリス様、神崎ちゃん、それを覚えていて欲しいんだぁい」

「「…………」」


 神崎とニアリスは答えない。

 それは大きな力を持った大人たちの妄想につき合わされた彼女の重い言葉だった。

 

「ナナキんはその身をもってあなたを救った。自分の身を、勲章を取り戻した。ニニちゃんも負けてられないんだぁい」


 ニニは立ち上がった。


「もう行くのかい?」

「ま、ニニちゃんがいないとセブンズが機能しないからねぇ。なんせ、ニニちゃんはセブンズの中で一番の常識人だから」


 それはかつて彼のいたポジション。

 それは誰かが引き継いでいかなければいけない立ち位置。

 ニニの目に涙はなかった。


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