ゴローさんの月 4
それどころか見えない何かが加速していくのが分かった。
二コラに周りには異常なまでの変人が集まりだす。
犯罪者、浮浪者、嫌われ貴族、イジメられっ子。
ゴローはそこにある特定の法則を見つけた。
愛されない人達。
愛を極端に貰えない人間が二コラの愛を求める様に群がって来る。
生物が本能的に愛を貰う為に二コラに群がる。いや、二コラのスキルがそれを教えているのかもしれない。
それが第一段階。
次第に彼ら愛されない人達は壊れていった。
齟齬が生じるのだ。
自分たちの行動に誰にも愛されるような部分が見つけられないのに二コラを自分たちを愛してくれる。そして、打算的だったり、今置かれている状況から愛どころでなかったり、そもそも冷めていてそんなものに興味もなかったはずなのに出会ったばかりの二コラを全力で愛す。
何度も言うが彼らは正常なのだ。
朝起きて顔を洗うし、昼は何かしらのルーティンをこなす、夜になれば眠る。
そんな日常の中に二コラが歪んだスキルを差し込みそのままの正常さを保とうとさせる。破綻は目に見えていた。
ならば、第二段階だ。
そして、ここが現在の二コラである。
その破綻に耐えられ、尚且つ憎まれ愛の少ない生物。
それは魔族から疎まれる嫌われ者たち。魔族だった。
彼等には同種はいても親と言う存在のいる生物は少ない。ただ、いつの間にかそこに生まれ落ちている。
よって生まれた時から孤独を抱えている魔物も多い。
いや、普通ならばそれを孤独なんて感じなかったのかもしれない。しかし、それを二コラのスキルは許さないのだ。
ゴローにそれを止める術はなかった。
あの強盗が入った日から、二コラの泣いたところをゴローは見たことがない。比較的感情の起伏の豊かな彼女があの日を境にマイナス方向への感情の変化がほとんどなくなってしまったのだ。段々とゴロー以外の者への感情の起伏が薄くなっていっていることにも気付いていた。
これから二コラがどう変質していくのか予想もつかない。
今の段階が最終だと言う保証はどこにもない。
だから、金とコネが必要だった。
ゴローは月夜に物思いにふけった。
(ホイホイは当りだ。ルークの奴俺たちにはあまり話したがらないが、地下で人体実験の類をやっていることは分かっている)
ゴローはそれを責めるつもりはない。
寧ろ、それを行っている国を探していたのだ。
(人体いじくるにゃあ優秀な研究者がいるはずだ。このまま信頼を築いていずれその研究者とコンタクト取らせてもらえば、二コラの身に起こっている現象の解明も出来るかも知れねぇ)
勿論、それには慎重を要する。
何かのはずみでルークが二コラのスキルを軍事利用のために非人道的に研究材料にしないとも限らない。
「……大概、あの男も読めないからな」
ゴローが草むらに寝転がり月を見上げると、頭の方から足音がした。
「何してるの?」
「月が綺麗だろ」
丸い月が夜空に鎮座する。
満月だ。
「ふふっ、月はいつでも綺麗じゃない」
「そうか? 曇ってたり、角度で欠けて見えたりする日もあるだろ」
二コラはゴローの隣に座った。
「それでもいつも綺麗よ。ゴローが隣にいるならね」
何故、彼女の言葉はこうも胸に刺さるのだろう。
そうだ、彼女が隣にいるならどんな世界だろうと月は綺麗だ。
大丈夫。
これはスキルなんかじゃない。
俺は俺の意思で彼女を愛している。
ゴローは先ほどまで爛れていたはずの二コラの手をそっと視線だけずらし覗く。
もうそこには月のように綺麗な白い肌しかない。
「ゴロー?」
二コラが覗くその顔を見てゴローはハッとする。
その瞳の半分は赤黒く濁りオッドアイと化していた。まるで自分を愛す者たちが周りから受けている憎しみを自身が肩代わりするように。
時間がない。
ゴローはそう悟った。




