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ゴローさんの月

「ほら、今月分の報酬だ」

「悪いね、ルークさん。今月もこんなにたっぷり貰っちゃって」

「別に働き分やってるだけだ。それで? 今回も五日の休みでいいのか?」

「あぁ、頼んます」

「わかった。いつお前の力が必要になるかわからんから、なるべく早く帰ってきてくれよ」


(相変わらず人使いは荒いが、詮索が少なくて助かるぜ)

 ゴローはルークに今月分の報酬を貰い、五日の休みを取り付けた。

 誰も連れずに、一人城の前で待機させていた馬に乗る。


「頼むぜ相棒」


 城の前に待機させてもらっていた馬はゴローの愛馬で、ホイホイに来る前からあちこちの国や街へ雇われの兵の仕事をしながら一緒に旅をしていた。

 左右の頭で嘴の色が違う突然変異した馬だ。


「ホイホイのはずれに丁度良い場所があって助かったぜ」


 馬を南に一日走らせると、そこには小さな村があった。ゴローは村の入り口の馬小屋に馬を繋ぐと、幾人かの村人がゴローの元へ集まってくる。


「ゴロー、いらっしゃい!また、遊びに来たの!」「ゴローさん、いつもご苦労様」「ゴロー、上手い酒が出来たんだ! 呑んでいくだろ?」


 次々と歓迎の声が上がり、ゴローは珍しく対応の仕方がわからないのか、恐縮しながら手土産を渡した。


「いつも悪いね。都の方でしか、手に入らないものばかり助かるよ」


 村長らしき老人がそれを受け取り、深々と頭を下げる。


「いいってことよ。こっちこそアイツを受け入れてもらって助かってる。こっちは金だ。アイツの生活費以外は好きに使ってくれ」


 そう言うと、ゴローはルークから受け取った報酬の大半の入った布袋を村長に丸ごと渡してしまった。

 村長の顔が曇り、ゴローの顔を覗き込む。


「……いいのかい、こんな大金を毎月毎月。身を粉にして死にものぐるいで稼いでるんだろ? そんな大事な金なのにワシらにポンと預けちまってな。こんな生活じゃ、ワシはそのうちアンタがおっ死ぬんじゃないかって気が気じゃないよ」

「気にすんなよ、村長。俺からしても、この村は本当に有難いんだ。色々巡ったが、この村が一番だ」


 ゴローは周りの村人たちの顔を一人ずつ確認すると、村長にある人の居場所を訪ねた。


「村長、ニコラは今日どこにいるんだ?」

「ついさっき作り過ぎた料理を村まで持ってきてくれたんだがな。もう、上に帰ってしまったのかもしれん」


 ゴローは「そうか」と短く告げてニコラの住む家屋のある丘の上を見上げる。

 ここはホイホイの海沿いの端にあるマリネ村と言う名前の小さな村だ。ルークが神崎と会う以前に住んでいた小屋やリオンの実家がある元ホニン都市部から少しはずれた所にある。

 ここにはニコラというゴローの婚約者が住んでいてゴローは彼女に月に一度会いにくるのだ。


「ゴロー!」


 若い女性の声がした。ゴローの耳をくすぐり、その優しい声音にゴローの表情も珍しく柔らかくなる。


「ニコラ!」


 ゴローが振り返ると、そこには空のバスケットを持ったニコラが今にも抱きつかん勢いで駆けてくるところだった。


 バターのようにほんのりと黄色のかかった白髪は背中の辺りまで伸ばし、品を感じさせるおっとりとした垂れ目、口元は常にニコニコとしているのだろうと思わせるほど自然な笑み。それが大まかな彼女の外見だった。


 二人は互いに抱き合い、再開を喜ぶ。


「今回は何日居られるの?」

「いつも同じだよ」

「そう、嬉しいわ」


 村人は二人の様子を微笑ましく見つめた。

 二人は村長に挨拶を済ませると、丘の上に建てたニコラの家へ歩いて行った。


 その様子を村の子供は無邪気に指差し笑った。


「ゴローが来てくれたなら、もう安心だね」


 村人はその言葉に皆が顔を伏せた。

 そして、その中の一人が子供の言葉を静かに肯定した。


「……そうだね」

「こら、子供たちはまだしも、ワシら大人がそんな言葉を口にしてならん。ゴローのお陰でこの村も随分豊かになったじゃないか」

「……すいません」


 子供たちは大人の顔を見渡し、何故怒られているのか分からずにキョトンとした顔をする。


「みんなどうしたの? みんなもいつも言ってるじゃん」


 大人たちは決して表に出さないように気をつけていた。でも、やはり言っておかねばならない最低限のルールはある。

 子供はそこの線引きは難しいだろう。


 子供の純粋なその言葉に、大人たちはどう対応していいのか分からない。

 だから、その言葉は止まらない。


「ニコラの家には絶対に近づいちゃダメだって」



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