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異世界から来た奴がモテモテチート過ぎてウザい  作者: 痛瀬河 病
第三章 祭りに群がる者たち
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君は何、回帰する騎士 後編

 彼女を守るためにこの拳を使おう。

 ナナキが騎士として蘇った瞬間だった。


「短期決戦だ」

「ナナキさん⁉ その傷で起き上がっては駄目です‼‼」


 ニアリスの悲鳴が聞こえた。

 リオンはバサギと一定の間合いを保ち、背後のニアリスを気にして動けないでいる。

 バサギには自身の匂いで相手を昏倒させることが出来る。意識が曖昧で暴走状態に近い彼女にそのアクションが出来るかは謎だが、それを使われればポケットにまだ先ほどのパンツがあるナナキはともかくリオンとニアリスは昏倒するだろう。そうなれば二人まで守りながらの戦闘になる。つまり詰みだ。時間はかけられない。


 今、立っているのはニアリスのお陰だ。

 彼女が現れなければ、どれだけナナキが気合を入れたところで立ち上がることは出来なかった。身体のダメージだけの問題ではない。心の問題だ。


 だが、万全の状態で二人がかりでも勝てなかったバサギに対して立ち上がったところで、何が出来るのか。


(一つだけあるよ)


「死ね、ブス女!」

「私はブスとは根底から違う存在‼ イケメン、殺されないさい‼」


 ナナキはわざと罵倒し、バサギの注意を向ける。

 もう自分で移動する力もないのだ。向こうから来てもらうしかない。

 杖代わりの剣をふらりと地面から持ち上げる。

 それだけで身体は前方に倒れていく。

 バサギに相対するように、身体の中心が向かっていく。

 倒れ、自身より視線の低くなったナナキをバサギは起き上がらせるようにボディブローをねじ込んだ。


 ナナキが倒れたことで、ナナキの人体の前面は死角となっていた。


 当然、距離を詰めていたバサギにも距離の開いていたニアリス、リオンにもその部分は見えない。


 ボディブローはナナキに確かに直撃した。

 だが、ナナキは倒れない。身体はさほど跳ね上がらない。


 何故なら、バサギの拳がナナキの腹部に突き刺さったからだ。


 血飛沫がナナキとバサギの二人の間に舞う。

 当然、ナナキ一人の血だ。


「何故? 何故、刺さった? パンチは刺さらない?」


 攻撃をしたバサギが一番困惑していた。

 ニアリスとリオンはその衝撃的な光景に声を失っている。

 どくどくと脈打つ血液はバサギの手をつたい、腕へ、肩へと流れていく。

 内臓にダメージを負い、ナナキの口からも血が零れる。


「煽られたお前なら、その角度で打ち込んでくると思っていたよ」


 ナナキは震える手で剣を振りぬいた。

 彼の腹部を刺した剣を胸部にまで振り上げた。


 二人の間で更に信じられないくらいの量の血液が舞う。


 そう、彼は最後の力を振り絞り振るった剣は敵に対してではない。

 自身の腹部を剣で裂いたのだ。

 バサギのパンチはその裂けた穴に刺さった。

 血液のたっぷり詰まった穴の中だ。



【能力名】

 生理的(マジム・)拒絶(リナイワ)

【LEVEL】

LEVEL7  

~次のLEVELまで、発汗八十九リットルが必要。

【スキル詳細】

 自身の肉体から発生する体液を自身以外に有効な麻痺毒に変化させる。

 この毒は一定値を超えると部分的ではなく全身に麻痺をもたらす。

 この毒の抗体はスキルを発動していない時の自身の体液だけである。

 スキル発動中は強制的に聴覚を失う。



 体液とは唾や汗にとどまらない。

(唾や汗でちまちまとこいつに攻撃しても致死量に達する前に殺されてしまう。これなら、そんな細かい量のことなんて考えなくていいな)


 ナナキは今日、騎士として蘇った。

 そして、大切な人を守る騎士として死ぬのだ。


「ありがとう」


 それが最後に出たナナキの言葉だった。


 自分を最後に騎士にしてくれてありがとう。


 スキルを発動する。

 バサギが全身に浴びた血液は身体を蝕む毒へと変わる。


 ニアリスが叫んだ。

 だけど、その声はスキル発動中のナナキには届かない。

 

「ぐあがぁあああああああああ‼‼‼‼‼」


 バサギが慌てて手を引き抜くがもう遅い。

 ナナキの内臓とともに更に毒が振り撒かれるだけだ。

 バサギは悶える、苦しむ、全身が焼けるように熱い。

 地面を這い回る。

 だが、次第にそのもがくことさえ出来なくなる。

 身体中に麻痺が回る。

 そして、最後に小さな痙攣をおこし、彼女は動かなくなった。


「……死んだの?」


 リオンが小さく声をあげた。

 ニアリスがその背中から飛び出した。


「あっ、待って! まだ、危ない!」


 そんなリオンの制止も振り切って、ニアリスはナナキの元へ走った。


「ナナキさん! ナナキさん!」


 彼はもう死んでいる。

 どれだけ声を掛けても、もう言葉を交わすことは出来ない。

 死に際の一言なんて気の利いた演出は起こり得ない。


 ただ、彼が騎士として命を賭して遥か格上であった四老獣の一人を討伐した。

 その事実だけがこの場に残った。


 ニアリスがナナキを抱え上げる。

 だが、彼の身体はナナキ以外を拒絶する毒が全身に塗りたくられている。

 血に塗れた手の平から痛みが走る。


「ぐっ」


 それでも、ニアリスは彼の身体を放さなかった。

 歯を食いしばり、痺れる手の平の痛みに耐えた。

 ニアリスは人生で一番声を荒げた。

 感情、激情に支配される。


「なんで、なんで、自分の命を粗末にしたのですか‼‼‼」


 その答えがナナキから帰ってくることは絶対にない。

 それが死なのだ。


 ニアリスの傍にリオンもやって来る。


「彼は多分あなたを見て変わったと思う。私たちが来た時には、もう立ち上がる事さえ困難に見えた。でも、立ち上がった。彼は決して命を粗末になんかしていない。彼は命を賭してあなたを守った。セブンズではなく、一人の騎士だった」


 だから、生きている者がその先の言葉を引き継ぐしかない。

 例え、それが正解か間違いかなんてわからなくてもだ。



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