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異世界から来た奴がモテモテチート過ぎてウザい  作者: 痛瀬河 病
第三章 祭りに群がる者たち
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君は何、回帰する騎士 前編

 銃弾は確かに頭蓋を貫通した。

 そこに一片の間違いもない。

 ムッツリはバサギに向けて銃弾を放った。

 それも己のスキルと味方であるナナキの最大のサポートを得て、最も不意を突く形でだ。

 相手の油断もあったかもしれない。

 人族は常に見下され、相手は獣族の頂点の一人四老獣バサギ。


 勝利だ。


 拳銃で頭を打ちぬいたのだ。

 そこまでされて生きている人間がどこにいる。


「人間です、だけ」


 ムッツリとナナキは耳を疑った。

 死骸が口を開いたのだ。

 マネキンのように立っているだけだと思っていた死骸がだ。

 額からは血が今も流れ続けている。


「獣、超、天才だです。生命力のものです」


 バサギの目は光が点滅するように焦点が合わずふらふらしている。

 震える唇から零れる言葉も正常ではない。

 でも、生きている。

 これが全種族の中でトップの生命力を誇る獣族。


「死が分かつ、世の最高なさい」

「まずい! ムッツリ、逃げろ‼」


 目の前のあり得ない光景に放心状態だったムッツリが、ナナキの言葉を受けてようやく体を回転させ、回避に入った。


「全て鈍間な民よ!」


 これが一般兵程度の獣族だったら、あるいは殺せていただろう。

 しかし、目の前にいるのはふざけているようでも獣族頂点の一人だ。

 通常の獣族と同じ想定の致死量攻撃で済むはずがなかった。


 バサギの鋭い足の爪がムッツリの腹部に刺さった。

 衣服の上から血が滲む。


「赤、可愛いですからね」


 バサギは容赦しない。

 足元のムッツリの腹部を執拗に爪で刺し続ける。

 右足の脛の骨が折れているナナキは数メートル先の彼らの間に入ることができない。

(敵う相手じゃなかった。このままではムッツリが死ぬ)

 ナナキはとにかく状況を変えるべく、剣を拾い、バサギに投げつけた。


「それだけですそれ?」


 バサギはその剣を手で払い地面に叩きつける。

 本当にそれだけ。

 二人の死が一秒伸びただけの行為。

(何かないか、生理的(マジム・)拒絶(リナイワ)によって汗や唾であいつを麻痺させる? いや、あの生命力の化け物相手に適量がわからない。そこに達するまでに死ぬだろう。なら、溶接(ヒョウリュウ)加工(サッカ)で手元に落ちている物を手当たり次第投げて衣服に接着して動きを止まるか? いや、あの身体能力の前には無意味かもしれないな。せいぜい死ぬ順番が変わるだけか)

 この思考の間にもムッツリはいたぶられ、悶え、苦しんでいる。

(ムッツリ、僕の足掻く時間に逃げられるのなら逃げてくれたまえよ)

 ナナキはせめて敵意を自身の方に向けようとスキルでバサギに牽制を入れる。

 当然、立ち上げることも難儀する不十分な体勢ではバサギに明確なダメージを加えることは出来ない。

 だが、バサギの注意がナナキに移ることにだけは成功した。


「さっきから目障り攻勢! 天誅変更!」


 バサギに足がナナキの左腕を踏み抜く。

 ナナキは地面に伏しているムッツリに視線をやるが、彼はもはや意識があるかも怪しい。下手すれば、もう死んでいる可能性もある。

(これはどうやら二人ともここまでのようだね)

 この瞬間ナナキは死を覚悟した。

 怨敵とはいえ、相手は獣族のカースト上位、元々勝てる相手ではなかった。そんな敵に深手を負わせられた。それだけでも大したことじゃないか。ナナキの中にはそんな不思議な満足浮かんで満ちていた。

(ふっ、何が死ぬまでに好き勝手やってきた連中を一人でも殺すだ。やっぱり僕は大したことも出来ずにここで死ぬんじゃないか。今更、死に恐怖はない。あの国で姫を殺された時に騎士として一度死んだ身だ)

 ナナキは廊下でのニアリスとの会話を思い起こした。


『あなたは振り上げる拳を失った子供』


 そう評された。

(その通りかもしれないな)

 ナナキは自嘲気味に笑った。

 

「獣は神です。私は神です。敵う者なし!」


 バサギが散々いたぶり続け、ついに止めを刺すために足を大きく振り上げた。

 ナナキはもはやバサギを見ない。

 朦朧とする意識の中、ただ虚空を見つめた。


「なんなの、これ⁉」


 その時、女性の高い声が聞こえた。

 逃げ遅れた市民か、事情を知らずにこんなところにはぐれてしまった観光客か。

 いずれにせよ、もうナナキには助ける力は残っていない。

 そのことに自責の念を感じる。

 そして、深く目を閉じようとした。


「ナナキさん⁉」


 だが、そんな彼を呼ぶ声がした。

 彼はその声に聞き覚えがあった。

 先ほどの声とはまた違う別の声だ。どうやら、二人いるらしい。その時ほど、ナナキは聞き間違いであってくれと願ったことはなかった。

 彼がよろよろと首を声の方に向けると、彼女はいた。


 この国の王、ニアリスが。


「……どうして、ここに」


 その隣には、ルークの右腕として何度か目にしたことがあった女性、リオンもいた。恐らく最初に声をあげたのは彼女だろう。

 彼女たちは鬼々との戦闘から逃げ、城に応援を呼びに向かっていた。

 しかし、鬼々たちの戦闘があまりに激しく、多くの建物の破壊で地形が変わり、迂回する形でここにやってきてしまった。


「そこでパンツを被っているのはムッツリさんですか⁉ 何があったんですか⁉ まさか、その方にやられたんですか」


 パンツは自己責任だ。


 ナナキはまずいと確信した。

 リオンがどの程度戦えるかは知らないが、よくても自分たちセブンズと同程度、おそらくそれ以下である可能性が高い。自分たち以上なら、ルークはリオンを小規模の抗争、戦争に彼女を駆り出したはずだからだ。

(日頃から駒不足を嘆いていたルークさんだ。あの女が神崎さんや強華さんほどまでに戦えるのならば、もっと前線に出していたはず)

 つまり、このままでは四人まとめてバサギに殺されるのだ。


「リオン! ニアリス様を連れて早く逃げろ! こいつは獣族だ! 敵だ!」

「二人とも綺麗可愛い、ならば死ぬが幸せ!」


 ナナキは声を振り絞り、彼女に願いを乞う。

 逃げ切って欲しい。

 彼の心からの願いだ。

 だが、同時にそれは叶わぬ願いだとも知っていた。

 自分やムッツリのような実力者でもバサギのスピードの前では赤子も同然。ニアリスを連れてリオンが逃げ切れる可能性は果てしなく低い。


 ならば、戦わなくてはならない。

 

 リオンやニアリスがではない。

 自分がだ。

 まだ、折れていない左足を軸に地面に落ちた剣を杖代わりにして、なんとか立ち上がろうと力を入れる。


 ムッツリはもう戦えない。

 ならば、自分が倒さなくてはいけない。

 

「ははっ、ようやく拳を振り上げる場所が見つかったよ」



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