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異世界から来た奴がモテモテチート過ぎてウザい  作者: 痛瀬河 病
第三章 祭りに群がる者たち
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欲しいものは、なに?

 神崎のスキルのことなんて知りえない鬼々は不思議そうに首を傾げた。


「どうして男同士で手なんて繋いでいるの?」


 神崎の偽物(ノーパクリ)技巧師(・オマージュデス)は基本的に視認さえすれば誰のスキルでも模倣出来る。ただ、それは相手のスキルが発動できるようになったと言うだけでいきなり使いこなせるわけではない。単純なスキルなら見て模倣していきなり使いこなすのにそこまで苦労はしないだろうが、癖のあるスキルやややこしいスキル、匙加減を習得する必要のあるスキルは使えるだけで使いこなすのには時間を要するのだ。

 一見無敵に見えてもしっかりと弱点の存在するスキルだった。

 だから、時間のない今はルークが神崎に時間外(オーバー)労働(タイム)を直接かけることで感覚を覚えさせているのだ。


「礼嗣、大体感覚は覚えたか?」

「うん、これならいけるよ」


 二人は手を放す。

 敵を倒す準備が整ったのだ。


 二人は左右に割れた。


 鬼々を挟撃するように、左右に別れ互いの武器を構える。

 ルークは拳銃から弾を放つが、当然これはそこに存在していない鬼々を通過していく。

 神崎は拳を構え、周囲を警戒する。

 恐らく、狙われるのは神崎だ。二人にはその確信があった。


『面倒。先に触ってもいいお兄さんから殺す』


 鬼々の声が空気に溶けて聞こえる。

 二人はよしとしたり顔をした。鬼々は神崎がスキルをコピーできることを知らない。ならば、先に神崎から片付けてしまおうという思考が普通だ。

 神崎は姿勢を低くし、致命傷になりえる箇所だけには攻撃を食らわないように意識を張りつめる。


 首筋に寒気が走った。


 振り向いている時間すらない。

 神崎はその先にあるものに振り返りもせずに手を伸ばす。

(触れるべきは鎌の柄だ)

 僅かにタイミングが遅れ、指先が裂ける。しかし、確かに大鎌の柄を掴んだ。神崎を切り裂くためのこの瞬間だけは存在する、そこにいる、その鎌を。

(チャンスは一瞬しかない)

 鬼々が無防備に攻撃を食らってくれるのは、神崎がスキルをコピーしたことを知らないこの初撃だけだ。

(ルーク、使わせてもらうよ)


 時間外(オーバー)労働(タイム)‼‼‼


 加減はしない。

 この一撃で決める。


「⁉⁉⁉」


 当然、鬼々は面を食らった顔をする。

 それはお前の技ではなかっただろう。明らかにそういう反応だ。

 取り乱し、大鎌の存在をそこから消せばいいだけなのに、思わず手放してしまう。

 そして、神崎に渾身の蹴りを入れる。


 時間外(オーバー)労働(タイム)‼‼‼


「うっ!」


それは誰が見ても悪手。

 いや、一手ですらない。

 取り乱した末の拒絶反応。

 二度目の攻撃にようやく気を持ち直し、鬼々は神崎から距離をとる。

 反対にルークは神崎に現状の確認に駆け寄る。


「礼嗣、どのくらい削れた」

「削った感覚はまだ正確にはわからないけど、僕自身の体力は半分近く持っていかれたよ」

「よくやった! なら、敵は最初に俺が削った分も合わせて残り三割程度しか体力が残っていないはずだ」

「うぅ、本当に燃費悪いスキルだね」

「ほっとけ、今回は役になっているだろ」


 鬼々はうなされる様に頭を押さえた。


「鬱陶しいのが二人に増えた」


 鬼々は二人の命を刈り取る為の大鎌を構える。

 地面を蹴り、一気に間合いを詰めた。

 同じ条件なら身体能力の低いルークから狙われる。

 そこを意識しながら神崎がカバーしていくことで、二人は鬼々に少しずつ触れ、全身に切り傷を作りながら致命傷だけは避け続けた。


「このまま押し切れるか?」

「僕らの体力もそろそろ限界に近いよ」


「……こんなことは許されない」


 最強の一族を自覚する鬼族の頭の自分が最底辺の人族にここまで苦戦していいはずがない。体力は削られたが、本来であれば体力なんて一パーセントも残っていれば人間を殺すのに何の支障もないのだ。

 ここで、この二人を殺す。

 鬼々の身体が存在を不安定するように点滅する。


「触れなればいいだけでしょ」


 鬼々は大鎌を振り回し、辺りの建物を斬りつけていく。

 一見、不規則無鉄砲に振り回しているようにも見えるが、鬼々の大鎌は今建物の壁との間には存在しておらず、大黒柱との間にだけ存在していた。

 つまり、彼女の鎌が引き裂くのは建物の重要な柱だけだ。

 あっという間に周りの建物たちはバランスを崩し始め、ルークたちの立っている建物を挟んだ中央の道の方へ雪崩れ込んでくる。


「ルーク、掴まって!」


 神崎はルークの腰を脇に抱えると、その場で大ジャンプを繰り出す。

 神崎にはこの身体能力があるが、ルークにはこの建物の雪崩を躱す術がないのだ。


「空中で荷物を抱えた標的が固まった」


 鬼々は神崎たちに向かって大鎌をブーメランの要領で投げた。

 回転する大鎌が一直線に向かってくる。

 大鎌は既に鬼々の手から離れている触れたところで体力は奪えない。


「くらえ!」


 神崎は双頭(アクア・)(フレイム)を繰り出し、炎の柱を大鎌に放った。

 だが、大鎌の勢いが弱ることはない。


「当然、その鎌はルークとお兄さんの間にだけ存在している。どんなものも壁になりはしない」


 そう鬼々が指定すれば、どんな強風も大岩もその大鎌の勢いを少しも落とすことは出来ない。


 二人に確実な死が迫ってきた。


(何かないか、何かないか、何でもいい、藁でも蠅でもこいつの不可避の鎌の壁になるものはないのか?)

 ルークの視線が僅かに下に泳いだ。

 そこには今も虫の息で転がる強華がいた。

 この場を切り抜けなければ、おそらく二人の次に死ぬのは彼女だろう。

 何でもいい。鬼々の力に対抗できるだけの力をくれ。


 ルークは望んだ。


 力を。


 ルークは思い出した。死ぬ間際の走馬灯のように。

 その中で重要なシーンだけが違和感として何度もリフレインされる。

 何故、全てが壁になりえない鬼々の大鎌を一度だけとはいえ遮ったものがいた。彼女は止めることが出来たのか。

 神崎が鬼々の大鎌に引き裂かれそうなとき、強華が横やりを入れ、足で大鎌の一撃を食い止めた。

 そう言えば、あの時、鬼々は何か変な事を言っていなかったか。


『あなた、不思議。本当に人間?』


 その時は、強華の異常な身体能力のことを言っているんだと思っていた。

 しかし、強華の頭を踏みつけた時、他にも変な事を言わなかったか。


『うん、なるほどね。もう分かった』


 何が分かった?

 ルークの思考が一つの答えを導き出した。

 回避不能の大鎌をせめてルークだけでも守ろうと、必死にもがく神崎にルークは声を掛けた。


「礼嗣、俺たちは九割がた死ぬぞ」


 だけど、一割に賭けろ。

 正解に保証はない。絶対の答えなんてわからない。都合のいい奇跡を望むしかない。

 だけど、力を欲すれば、それは望みを叶えてくれる。

 しっかりと代償を支払えば。


「俺は欲しいものがある‼‼‼」


 それは世界。

 だから、彼は喉を枯らす。


異世界(ナ・)転生(ロウ)‼‼‼」


 鼻孔の痛覚が刺激される。

 スキルボックスなんて開いている暇はない。

 願え、きっとレベルアップしている。

 そうでなければ、ここで生き残る資格はなかったと言うことだ。


 咆哮は虚しく空に溶けた。


 ルークは目を閉じた。

(……終わりか)


「あれ? 何か込み入ってる感じですかい?」


 空から声が降ってきた。

 神崎とルークは空を見上げた。

 そこには小汚い白衣に分厚いゴーグルを掛けた年齢不詳の男が落下しているところだった。

 成功だ。

 異世界(ナ・)転生(ロウ)は発動していた。

 ルークは叫ぶ。


「何でもいい! 鎌が飛んできている。あれを回避でも防御でもいいから防いでくれ!」


 ゴーグル白衣の男は「ふむ」と顎を抑え、正面を見据えた。

 いざ、呼んでみたはいいものの防ぐ手立てがないでは、それで終わりだ。


「よくわかんないですけど、このままじゃあっしも切り裂かれそうですしね」


 ゴーグル白衣の男は白衣を脱いで、ゴーグル男になった。

 その白衣を自分達三人と向かってくる大鎌の間に投げ捨て、自身の身に着けていたごつい手袋についているダイヤルを捻った。


「物質変換。面積三十アップ&硬度十アップ」


 すると、目の前の白衣が物凄い速度で広がっていく。

 色も変色していき、最終的に焦げ茶色になった。


「もう本当にわけわかんない。なんでもいいけど、鬼々の鎌は防げないよ」


 鬼々は目の前で起こった目まぐるしい変化に動揺しながらも自分の絶対の力に何の疑いも持っていない。

(これが鬼々の鎌を防ぐ保証はない。でも、もうこれしかないんだ)


 大鎌が白衣だったものに触れる。


―キィィン


「……嘘」


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