贖罪
それを見るのは、決まって雨の日だった。
ぴちゃ、ぴちゃ、ぴちゃり。
「あーそーぼー」
赤い合羽を着て、赤い長靴を履いた女の子。
かえちゃん。
いつもの帰り道、今日は坂に差しかかった所で現れた。
私は、それを無視する。
坂を上り、かえちゃんとすれ違う。
しばらく歩いて、振り返る。
それは忽然と消えていた。
私は社会人2年目になっていた。
その日は会社で上司に詰められ、泣きながら帰っていた。
いつの間にか雨が降り出して、傘を忘れた私は濡れながら歩を進めた。
「あーそーぼー」
それはまた現れた。
私は心が弱っていたので、かえちゃんを無視することが出来なかった。
家に帰っても一人だし、親しい友達もいなかった。
誰かに話を聞いてもらいたかったのだ。
たとえ、それが、この世のものでなくとも。
もう十年以上前の話になる。
私とかえちゃんは友達だった。
毎日のように二人で遊んでいた。
あの日も雨だった。
「あーそーぼー」
いつものように私の家に、かえちゃんがやって来た。
私は母親から宿題をしてから遊びに行くようにキツく言われていた。
「あーそーぼー」
かえちゃんは、しつこいくらいに誘ってくる。
私は宿題をやりながら、かえちゃんを少し疎ましく思ってしまった。
かえちゃんをしばらく無視していると声が聞こえなくなった。
その日が、かえちゃんを見た最後だった。
次の日のホームルーム。
かえちゃんが沼に落ちて死んだことが伝えられた。
「かえちゃん、あの時、無視して、ごめんね!」
私は、かえちゃんの手を取って言った。
冷たい手だった。
かえちゃんは私の手を握って何処かに連れていこうとする。
私は、かえちゃんに付いていった。
連れていかれたのは沼だった。
かえちゃんが死んだ沼。
傘に隠れて見えなかった、かえちゃんの表情が見えた。
とびきりの笑顔だった。
「あーそーぼー」
私は、かえちゃんに続いて沼の中に入っていった。
創作ホラー微百合風味です。




