表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
流浪少女と非行青年のオークワードライフ ~Awkward Life of a Lost Girl and a Lonely Boy~  作者: 二核
仮初の生活

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/64

帰る場所を許さない者

~old memories~

【淡々とした少年】

「こんにちは!」

 いつものように病室で“その人”の相手をしていると、慌ただしく引き戸を開ける音がした。

 振り返って見てみると、制服姿の女の人が花束を持って僕たちを凝視していた。

「あら~、ミッちゃん。久しぶり~」

 どうやら”その人“の知り合いのようだ。

 しかし、ミッちゃんと呼ばれる彼女は、依然として固まっている。

「ミッちゃん、どうしたの?」

 ”その人“に呼びかけられて、ミッちゃんと呼ばれる人はハッと目を開く。

「その子、前に言ってた……」

 彼女は不機嫌そうな顔で、僕の方へ指を指す。

「そうよ、この子がミーちゃん。そういえば、二人とも名前がそっくりね。なんか姉弟みたい」

 お互い何も分かっていない状況なのに、よくそんな呑気なことを言えたものだ。

「お花持ってきてくれたの? まぁ、綺麗。さっそく飾りましょう」

 “その人”はベッドから降ると、花瓶を借りに病室を出た。

 僕と彼女だけが取り残され、和やかだった空気が一変する。

 彼女は空いたスツールを引いて、腕と足を組んで僕をずっと睨みつけていた。

 お互い牽制しあうような状況に耐え切れず、僕の方から話しかけてみることにした。

「初めまして、僕は……」

「事情は聞いているわ」

 僕の自己紹介は呆気なく切られ、向こうのターンになる。

「でもね、認める気無いから」

 それだけで会話が途切れてしまうと、タイミングよく“その人”が花瓶を持って病室に戻ってきた。

 それから、彼女は“その人”の前では僕と仲良さそうに振る舞うが、近づく度にどこか冷たさを感じる目で僕を見ていた。

 もしかしたら、こういうタイプの人間が、一番苦手かもしれない。


    ◇


【秋山海斗】

「久しぶりね、海斗。帰ってくるまでに部屋をきれいにしてあげようと思ったら、掃除機の使い方がわからなくって」

 俺の家には陽炎以外にも堂々と入り込める存在がいる。

 しかし、それは陽炎のような不法侵入ではなく、合法で訴えることもできない存在。

「おかえり、美奈」

 雨宮美奈――俺の姉にあたる人だ。

「何しに来たの?」

 久しぶりの帰宅ではあるが俺に歓迎の意思はなく、早く帰ってほしいという気持ちを交えながら訊ねる。

「随分な挨拶ね。私、一応ここの主なんだけど?」

 覆しようのない事実に、俺は口を紡いだ。

 そう、今の俺がこうして生活できているのは、目の前にいる美奈の助力があるからだ。

「あなたの様子を見に来たの。ちゃんと学校には行ってるの?」

「おかげさまで」

「おかげさまねぇ」

 美奈は後ろにいた由紀の存在に気づき、呆れた物腰で由紀を見つめる。

「それって彼女のことを言っているのかしら?」

 美奈の視線の先へ振り返ると、由紀が案じ顔で俺たちを見ていた。

「とりあえず二人とも入りなさい」

 そう言われ、俺たちは渋々とリビングに入り、ソファに腰を下ろす。

 美奈は自分にだけ熱いお茶を入れ、テーブルに置いた。

 それから少しの間沈黙の時間が流れ、横では由紀が緊張で握りしめている手を震わせていた。

 美奈がお茶を飲んで一息つき、ようやく口を開く。

「まず訊きたいのは……その子、誰?」

「春香由紀。俺のクラスメート」

「春香由紀です。海斗君とは仲良くさせてもらってます」

 由紀が丁寧に自己紹介をして、美奈の出方を窺う。

「初めまして、由紀ちゃん。私は雨宮美奈、海斗の姉です」

 美奈も大人さながらの落ち着いた自己紹介で、余裕を見せつける。

「雨宮さん……? 秋山さんじゃないんですか?」

「それは、こっちの事情だから、あまり気にしないで」

「う、うん……」

 由紀は腑に落ちない様子だったが、かまわず話を進めた。

「話を元に戻しましょう。由紀ちゃんと海斗は友達同士。そういうことでいいのよね?」

 張り詰めた空気の中、美奈は足を組んで物腰柔らかに話す。

「そう」

「は、はい……」

「でも、お友達にしては距離が近すぎない? いくらお友達でも、異性の家に入るなんて普通は躊躇うものよ?」

「それは……」

 言葉を詰まらせた由紀に、美奈は更に追い打ちをかける。

「それに、さっきここの部屋の鍵を持っていたのって、由紀ちゃんだったよね?」

「あっ……」

 美奈は昔から洞察力に長けていて、今回も遺憾なく発揮されてしまったようだ。

 美奈のこの一刺しで、手詰まりとなってしまった俺たちはもう認めざるを得なかった。

「海斗、どういうわけか説明して」

 矛先が俺に向けられ、拒否権を持たない俺は話さざるを得なかった。

 由紀とは春休みから、この関係が始まったこと。

 そして、二人での生活のこと、全てを打ち明けた。

 一通り話を聞いた美奈は、再び熱いお茶を飲んで一息入れる。

「……なるほどね。事情は大体わかった」

 その言葉を聞いても、素直に喜べなかった。

 腐っても俺たちは姉弟。

 次に出てくる言葉は、なんとなく想像出来る。

「今すぐ出てもらって」

 案の定、美奈からの了承は得られず、代わりに由紀の家出を命じられた。

 俺は抗うわけでもなく、すんなりと受け入れ由紀に支度をさせる。



 美奈は別れ際の玄関で、由紀と話す最後の時間をくれた。

「思ってたよりも短かったね」

「ごめん……」

「どうして海斗君が謝るの? 悪いのは私の方なのに……」

「俺はそんな風に思ってない」

「嬉しい。私ももっとここに居たかったなぁ」

 そう言って由紀が最後に見せたのは、目一杯の笑顔……。

 寂しさが入り混じった笑顔だった。

「ありがとう、海斗君。すっごく楽しかった!」

 由紀は俺に背を向けるまで、その笑顔を崩さなかった。

 そして、振り返ると、扉を開けその場から立ち去っていく。

 春休みから始まった由紀との二人の生活は、一か月も満たずして終わってしまった。

 開いた扉の向こうは暗雲が立ち込め、そのうち雨が降りそうだ。

 今度は玄関先の地面に目を向けると、雨の当たらない屋根の下で、一滴の雫が零れ落ちていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ