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流浪少女と非行青年のオークワードライフ ~Awkward Life of a Lost Girl and a Lonely Boy~  作者: 二核
仮初の生活

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初めてのカラオケ

【秋山海斗】

 涼花が行こうとしている所には、電車を使わなければいけないらしい。

 カードなど気の利いたものを持っていなかった俺と由紀は、涼花に降りる駅を教えてもらって券売機でそこまでの切符を発券する。

「由紀、これ」

 お金を持っていないであろう由紀に、俺は二枚の百円玉を差し出した。

 これまでお金は俺が出してきたのだから、今回も例外ではない。

 しかし、由紀は受け取りを拒否し、制服の内ポケットから一万円札をそっと取り出した。

「海斗君ごめん、本当は多少なりお金持ってたんだ。でも、言い出せなくて……。ごめんなさい。海斗君のこと教えてほしいって言った手前、私も自分のこと隠してた」

 由紀の表情がまた陰りを見せる。

 どうして隠していたのか――。

 誰から貰ったのか――。

 そんなのを聞いたところで、どうするわけでもない。

 それどころか吐かせることが、由紀にとっては負担になるのではないだろうかと思うと、かける言葉は考えなければいけないと思った。

「気にしてない」

 この先、由紀にお金を渡している所を涼花に見られたら、怪しまれるかもしれない。

 幸い涼花は改札の柱に隠れていて、お互い見えない位置関係だった。

 今のうちに目的の駅までのチケットを二枚買い、片方を由紀に手渡した。

「いくらだった?」

 持っていた一万円札を出そうとする由紀に、いらないと顔の前で手を振る。

「そのお金はとっておいた方がいい」

「でも、これは私のだし……」

「この関係、いつまで続くか分からないから」

 すると、由紀はハッと、現実を気づかされたように目を見開く。

 そう、この関係がずっと続くとは限らない。

 だからこそ、由紀が一人になってしまった時に使うべきだ。

 由紀はもの悲し気に一万円札を引っ込める。

「ポケットだと危ないから、財布代わりにこれを」

 そう言って、俺は鞄から小さなポチ袋を取り出し、こっそりと由紀に手渡した。

「これ、お年玉の袋だよね? 誰から貰ったの?」

「それは……」

 どう答えようか考えていると、待ちきれなかった涼花が俺の後ろから飛び出てきた。

「お二人とも切符は買えました?」

「うん、買えた。行こうか」

 結局、話は有耶無耶に終わってしまい、俺たちは駅のプラットフォームへと向かった。



 電車に揺られて二つの駅を通過し、目的地の最寄り駅に下車した。

 駅を出てみると類を見ないほど人で溢れ返っていて、上を見上げれば高い建物たちが、至る所にどっしりと構えていた。

 そんな喧噪な街で対向者を避けながら、俺たちは中心部に進んでいく。

「海斗君、こっちですー!」

 人混みに埋もれていた涼花が目一杯細い腕を上に伸ばして、俺はそれを頼りに対向者を避けながら歩き進める。

 由紀もついて来ているか後ろを振り返ると、由紀の姿がどこにもなかった。

 背伸びしてあたりを見回すと、遠くで立ち往生している由紀を見つけた。

 そして、反対側では俺たちを待っている涼花が頑張って目印になってくれているが、伸ばした腕は人の波にのまれそうになっていた。

 そこで、俺は人の波を渡り、涼花が伸ばした腕を掴んで救出した。

「か、海斗君!?」

「春香さんがまだ来てない。一旦戻ろう」

 俺は涼花の手をしっかりと握り、今度は由紀の方へと戻る。

「春香さん、大丈夫?」

「大丈夫。ごめんね、かい……秋山君」

「はぐれると危ないから」

 そう言って、俺は空いている手を由紀に差し伸べた。

「え、えーっと……私もあれぐらいがっちりしてる方が良いのかな?」

 由紀の指さす方に目を向けると、いつの間にか涼花は俺の腕ごとしがみついていた。

「これなら、絶対はぐれないと私は思うのですよ!」

 涼花は大きく鼻息をつく。

「じ、じゃあ私も失礼して」

 由紀は俺の断りも無く、涼花と同じようにべったりと俺の腕にしがみついた。

 この状態でしっかりと歩いていけるのだろうか……。

 俺はそこに不安を覚えつつも、二人の歩幅を気にしながら改めて目的の場所に歩みを進めた。

 心なしか、周りから多大な注目を浴びている気がした。



 人混みを過ぎたあたりで俺の両腕は自由になり、案内役の涼花は俺たちの前を歩いた。

 そして、目的地の近くまで来ると、涼花が「ここです」といって建物に指を指す。

 建物の看板には「カラオケ」という文字が書れていた。

「ここ、友達とよく行ってるんですよ~」

「私、カラオケに入るなんて初めて」

「俺も、実物を見るのは初めて」

「とっても楽しいですよ!」

 俺たちは建物に入り四階のフロントで受付を済ませ、指定されたカラオケルームに入る。

 室内はスポットライトがカラフルに光っていて、まるで違う世界に迷い込んだようだ。

「何歌いますか?」

 まずは経験者の涼花が、曲を入れようとパッドを握る。

「何と言われても……」

 音楽に疎い俺は頭を悩ませていた。

 対して由紀は最近の曲に知識があったようで、涼花と二人で盛り上がっている様子だった。

「私この曲知ってる。前にテレビで聴いた」

「この曲最近流行ってるんですよ! 一緒に歌いませんか?」

「うん!」

 涼花はデンモクに曲を入れ、由紀と一緒にマイクを持って立ち上がる。

 イントロが始まると、涼花はリズムに合わせて腰を振った。

 由紀は緊張をほぐすように、深呼吸をして息を整える。

 イントロが終わると二人は阿吽の呼吸で歌い始めた。

 それから、お互いに音を外すこともスピードがズレることも全く無く、完璧に合わせる。

 そして、パート分けの部分に差し掛かると、二人は打ち合わせもしていないにも拘わらず、涼花は赤いテロップを、由紀は青いテロップを歌って見せた。

 そんな息ピッタリな二人を俺は店から借りたタンバリンを叩いて盛り上げる。

 そして、カラオケというのは、曲の後に歌唱力の採点をするらしい。

 今回の二人の採点結果は九十六点だった。

「由紀さんすごいです!」

「そ、そうかな?」

「はい! 私なんて九十代とったことないんですよ? これは間違いなく由紀さんの実力ですよ!」

 涼花は嬉しそうに由紀の手を握って、ピョンピョンと飛び跳ねていた。

「う、うん。ありがとう」

 由紀はこの凄さに実感が湧いていない様子だ。

「じゃあ、次は海斗君の番ですよ!」

 涼花が俺にデンモクを手渡し、俺は適当にタップする。

「海斗君これって……」

「うーん……」

 次の曲を見た二人はとても渋そうな顔をしていた。

「学校で聞いたことあるから選んでみた」

 悩みに悩んだ末、俺が選んだのは『ふるさと』という曲だ。

 小学生の頃、音楽の授業で歌った記憶から引っ張ったのだ。

「なんというか、海斗君らしいですね……」

 そう口にする涼花の顔は、どこか引きつっているように見えた。

 由紀に至っては目も合わせてくれない。

 しかし、そんなことは気にせず、俺はマイクを手に取って曲が始まるのを待った。

 歌詞テロップに合わせて、息を大きく吸って歌い始める。

 歌ってから気づいたがカラオケのキラキラとした空間に、この曲は向かないような気がした。

 その証拠に二人の顔もお通夜のようになっている。

 この空気はまずいと俺は機械の前に立って、中止ボタンを押した。

 そして、静かに反省しながら、マイクを由紀に手渡す。

「なんかごめん」

「ま、まぁ海斗君は初めてですし……はい」

「なかなか個性的で良いと思うよ……うん」

 完全に気を遣っている時に見る笑い方だ。

 次はそんな空気にはさせまいと、俺は二人が歌っている曲をしっかりと聞き歌詞を頭の中に叩き込んだ。

 そして、俺の出番になり今度は二人のように採点機能も付けたうえで、さっき二人が歌ったのと同じ曲を入れた。

 歌詞はさっきの一回で完全に覚えたし、この曲なら先程のような空気にはならないはずだ。

 それなりに自信をもってマイクを取り、深呼吸を入れてから歌い始めた。

 ……。

 …。

「ふぅ……」

 曲を歌い終え、俺は静かにソファに腰掛ける。

 歌詞は間違えなかったし、今回は二人とも楽しんでくれただろうか。

 そう思って二人の方に目を向けると、何故か今度は両手で顔を抑えているのが見えた。

 よく見たらプルプルと、震えている。

「大丈夫?」

 どこか具合が悪いのか、俺は少し心配気味に声をかける。

「う、うん……大丈夫……」

 由紀はそう言っているが、やっぱり心配だ。

 そんなことを思っていると、採点結果が出た。

 結果は四十八点と表示されている。

「……あれ?」

 まさかのダブルスコアだ。

 すると、ずっと伏せていた二人が急に笑い出した。

 二人の笑い声は部屋中に響く。

「歌詞も間違えてなかったのに……」

 もしかして由紀と涼花の時は、二人で歌ったからあんなに高かったのだろうか。

「音程だよ。海斗君一つも合ってなかったよ」

「そんな……」

 腕の力が抜けて、持っていたマイクを地に落とす。

 目を閉じながら心を込めて歌っていたので、画面は全く見ていなかったのだ。

「それにしても、半分以下は初めて見ましたかもしれません。私の友達でも、一番低くて七十点台でしたし」

 涼花が無自覚に追い打ちをかける。

「そうなんだ……」

 俺は力尽きたようにソファに座り込み、由紀のソロで歌う姿を眺めていた。

 得点は九十八点と記録の更新が止まらない。

 それと同時に人数は関係ないという事実が、俺の歌唱欲を奪っていく。

「俺……今日はもう歌わないことにする」

「ご、ごめんなさい。何か気に障るようなこと言ったでしょうか?」

 涼花は自分に悪気なさそうに心配する。

 ここまで鈍いと、いっそ清々しい。

「ちょっと疲れただけだから」

 それから俺が歌うことはなく、美声二人が楽しそうに歌っている姿を、タンバリンでも叩いて盛り上げ役に徹していた。

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