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乙女の覇権安定論 ~力を求めし者よ、集え!~  作者: 内藤ゲオルグ


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雇用強化大作戦、経過

 朝の短い訓練を終えて事務所に戻ってみれば、キキョウ会の面々とリリィが楽しそうに騒いでる。

 みんなが白い女を取り囲んで、質問の集中砲火を浴びせてるようだ。


「ユカリ、この新入り面白い奴だな!」

「花魔法ってなんだよ、すげえな」

「とても珍しい魔法ですよね。興味深いです」

「新しい人、嬉しいです!」


 特に新入りで見習いのロベルタとヴィオランテは、後輩に興味津々で嬉しそうだ。

 リリィのほうが年は上だろうし、ああ見えて魔法を含めた総合的な戦闘力は二人より上かもしれない。いずれにしても、キキョウ会に入ったからには基礎的なところから鍛え直すことになる。


 リリィは魔力はもちろん体力も意外とありそうに思えた。これからはソフィたちのように最低でも護身術程度の戦闘技術を身につけたり、身体強化魔法のレベルアップを図ったりと、ガンガン強くなってもらう。キキョウ会の一員として、私たちの求める最低限のレベルになるまで。

 最低限と言っても、一般的なレベルから考えれば相当に高い水準なんだけどね。


「話は後にして朝食に行くわよ。今日の本部待機はアンジェリーナよね? 食後は見習いの訓練と、リリィに色々教えてやって」

「ああ、任せろ」

「リリィのほかにも誰かくるかもしれないから、その対応は私がやるわ。みんなは街で元気が有り余ってそうなのを見つけたら、スカウトも試してみて」


 今日の方針を簡単に決めてから、いつものおばちゃんの食堂に向かった。

 朝から幸先がいい。この後も上手くいってくれるといいんだけど。



 いつもより賑やかさが増した朝食の後、本部に戻ってから少しゆっくりしようとお茶の準備を始める。

 毎度おなじみ紅茶フレーバーの回復薬を準備してると、表が妙に騒がしい。リリィに続く応募者だろうか。

 さっと墨色の外套を羽織って、いそいそと外に出てみれば予想外の光景に閉口した。


「お、女が出てきやがった」

「早くメシ寄こせっ」

「呼びつけたのはおめえか? こっちは忙しい中わざわざ足を運んでやってんだ。早くメシの用意しやがれ!」

「あんがとよ嬢ちゃん。メシ食わせてくれるんだって? それから宿もな。ついでに一晩相手してくれよ、ふへへ」


 汚らしい男どもが意味不明の要求を繰り返す。こっちは炊き出しの広告を貼った覚えはない。

 それにしても、これはなんだろうか。素で妙な勘違いしてるのか、どっかからの嫌がらせか。


 黙り込む私に業を煮やしたのか、一人の愚か者が唾を飛ばしながら迫った。

 もちろん触れさせるわけがない。反射的に殴りそうになるのを抑えて、すっと後ろに下がって避けた。


「……どういうこと?」

「なんだあ?」

「張り紙で募集したのは女だけよ。あんたらみたいな男はお呼びじゃないわ」


 あまりの面倒臭さに殴って追い払いたくなるのを我慢しながら、どういうことなのか聞いてみた。

 キキョウ会には男に対して強い忌避感や嫌悪感を持ってる人もいる。紳士的な人でもお引き取り願うのに、こんな風に粗野な連中なら門前払いにするのも鬱陶しい。


「なんでえ? こっちはメシが食えるって聞いただけだぞ」

「いいからメシ寄こせよっ」

「……募集の条件に女に限るって書いてあったはずだけどね」


 そもそも募集要項を見たわけじゃなくて、もしかして誰かから都合のいい部分だけの話を聞いたってこと?


「んなもん知るかよ!」

「早くしろっての!」

「小娘が生意気言ってんじゃねえっ!」


 はあ、言葉が通じないようね。まともな返答を期待した私が馬鹿だった。


「無駄かもしれないけど一応、言っとくわ。ウチが募集したのは女だけ。あんたら男に用はないから、さっさと帰りなさい」


 最初から態度の悪い小汚い男どもが、より険悪な雰囲気になってもしょうがない。こうでも言わないと理解できないんだから。アホに理解させるには、それ相応の言い方をしてやる必要がある。


「ふ、ふざけてんじゃねえっ」


 怒ってるのはこっちのほうだ。

 近所の目もあるし、さっさと終わらせよう。

 一触即発の空気の中、前に陣取るおっさんに無言で近づく。


「な、なんか文句でも」


 これ以上の無駄口を聞くつもりはない。腹を一発殴って黙らせた。

 今度は隣の男にも無言で近づき、同じように腹を一発殴ってノックアウトだ。

 ギロッと次のに目を向けると、さすがに理解できたのか脱兎の如く逃げ出した。


「帰りなさい」


 呑まれたように黙ったまま私を見る残った男どもに威圧を込めて警告すると、その後はまさに蜘蛛の子を散らすように誰もいなくなった。


 結局、初日のまともな応募者はリリィのみだった。

 早朝からリリィがきて幸先がいいなと思ったら、その後はあの変な男の集団を除いて誰もこないなんてね。張り紙をして昨日の今日だからこんなもんかな。


 そもそもまだ大方に認知すらされてない可能性もあるし、次の指定日にはもうちょっとは集まると期待しよう。

 ひょっとしたら午後に誰かくるかもしれないけど、午後は募集の時間外だ。別に時間外だからって要項に沿った人なら受け付けるけどね、こっちにも予定がある。私は手紙の件で冒険者ギルドに行かなければ。留守をアンジェリーナに任せて外出だ。



 さて、今日もやってきました冒険者ギルド。

 実を言えば冒険者って在り方に惹かれるものはある。ロマン的な? 今はそれよりもキキョウ会やってる方が楽しいから、冒険者にはならないけどね。

 あまり人のいないギルド内を見物しなら、グラマラスな妙齢の美女に近づいた。


「昨日はどうも、さっそく顔を見せたわね」

「うん、首尾はどうだった?」


 受付嬢に頼んでた件をさくっと尋ねる。待ち構えてたっぽいから、きっと成果があったに違いない。


「えーっと、オフィリアさんの所在は分かったわよ。エクセンブラからは少し遠いみたい街になるけど、幸いブレナーク内にいてくれたわ。それから王都支部に問い合わせた際に、傭兵ギルドのゼノビアさんの確認も取れたわ。王都に滞在しているみたいだから、こちらも手紙を送れるわよ」


 なんて気の利くグラマーさんなんだ。仕事ぶりも完璧。ウチに欲しい人材だけど、まあ無理だろうね。冒険者ギルドの受付嬢なんて、女にとっては花形職業だし。


 このままグラマーさんと世間話を続けたいところだけど、だんだんと混み合ってきて忙しそうだったんで諦めた。少々お高い金額を清算して潔く撤収だ。

 その辺をぶらつきながら、アンジェリーナたちの昼食を買ってキキョウ会本部まで大人しく帰る。手紙は送った、果報は寝て待てだ。



 次の指定日までは特別に面白いこともなく、通常営業の日々を送った。

 そして、いよいよ次の募集指定日。この日には想定よりもだいぶ少ないとは言え、十人程度の応募者が集まってくれた。こうして集まってくれるのはやっぱり嬉しい。


 嬉しいと思いはしても気になったのが、どう見ても戦闘力がなさそうな女しか集まらなかったことだ。

 募集要項はきちんと読んでくれてて、それなりの覚悟はあるらしいんだけど、できれば戦闘を生業なりわいにするんじゃなくて、それ以外の職種を希望する人しかいないってのが想定外だった。てっきりじゃじゃ馬みたいなのばかりが集まると思ってたのに。


 まあ予想どおりと言うか、大体が壊滅した王都やレトナークからの難民ばかりが集まった。天涯孤独の身の上で、これまでなんとか日銭を稼いだり、わずかな貯えを使ったりで生き繋いできたような連中だった。ハングリー精神だけはありそうだから、根性は期待できるかもしれない。


 私が見た感じだと性格的に戦闘に向いてるのもいそうだし、訓練の過程でそっちを希望してくれるのもいる気はする。

 あとは研修中に脱落者が出てしまわないかが心配ってところか。


 変わり種としては、元貴族のお嬢様が一人いたくらい。旧ブレナーク王国時代には下級貴族だったらしいんだけど領地持ちじゃないし、王都の屋敷も失って細々と生きてきたらしい。

 貴族としての見識や学はありそうだから、活躍の機会は色々とあるかもしれない。魔法の腕もそこそこで、特に期待してる人材だ。



 そして人を集め始めてから数日後の夕方。

 戦闘班の拡充をどうしようか思案してると、外回り組が帰ってきた。


「おかえり。今日はどうだった?」

「今日は朗報っつーか、面白い話があるぜ」


 グラデーナがもったいぶった話し方をする。ほかの外回り組も何やら楽し気な雰囲気だ。良い話っぽいけど、さて。


「なんだってのよ?」

「スカウトって話があっただろ? 元気の余ってそうなのがいないかと思ってな、帰り際にスラムに寄ってみたんだよ。そしたら面白れえことになっててよ」

「あそこはいくつかの派閥に別れて、年がら年中、若い奴らが争い合ってるって話は知ってるだろ?」


 エクセンブラの住民なら誰でも知ってるし、一時滞在の人でも寄り付かないくらいには危険を感じる場所の話だ。街にいくつかあるスラムの中でも、現状だと特に危険視されてる。

 そこでは主として身寄りのない少年たちが徒党を組んで争ったり、犯罪者が潜伏場所に使ったりする場所で常に争いが絶えない。


「それで? 少年でも男はダメよ」


 今のところキキョウ会は女のための組織だからね。


「そうじゃねえ。実はウチに影響されたみたいでよ、スラムの女が徒党を組んでやがった。それで愚連隊の真似事みたいなことしてやがるぜ」

「ちょうど面白い場面にかち合ったんすよ」

「お姉さま、わたしと変わらないような娘たちが、少年グループと争っていました」


 ふーん、聞いたことないわね。ヴァレリアと変わらないくらいの年齢の娘たちか。さしずめ少女愚連隊ね。


「しかも気合いがスゲェのなんの。同じくらいの人数の少年どもを圧倒してたぜ。ありゃあ、見込みがある」

「ほう、それは興味深いな」


 今日は本部待機だったジークルーネは私と同じく現場は見てないけど、話を聞いてかなり乗り気になってるみたいだ。

 気合いの入った少女たちってのは、たしかに私も気になるところだ。その娘たちを引っ張ってこられれば、戦闘班もひとまずの頭数は揃うかもね。


「面白そうな話じゃない。そいつらがウチに影響されたってのは本当?」

「ああ、最近になって目立ち始めたグループらしいぜ。キキョウ会をモデルにして立ち上がったって、スラムじゃ瞬く間に有名になったらしいな」


 それが本当なら、ウチがスカウトに行けば快く傘下に加わってくれそうだ。

 あれ、でも待てよ。


「スラムには募集の張り紙、掲示したはずよね。その時に応じなかったってことは、脈なしなんじゃないの?」

「……それもそうだな」

「だがよ、今日の様子を見た限りじゃ、命惜しさにどうのって奴らには見えなかったけどな」

「たしかにな。チャンスさえあれば食らいつく気迫があった気はするが」


 ふーむ、よく分からないわね。


「まあいいわ。誘ってみるだけなら損はないし。むしろなんで声をかけなかったのよ?」

「いや、喧嘩中に割り込むのもな。野暮ってもんだろ? しばらく見守ってたんだが、話し合いを始めたと思ったら、またやり合い始めたりで長引きそうだったんでな。帰ってきた」


 だったらしょうがない。私がノリノリでヤッてる時に割り込まれたとしたら、それはムカつくもんね。


「どうっすかね。せっかくだし、また今から行ってみますか?」


 行動を起こすなら早いほうが良い。


「そうだな、いい加減に喧嘩も終わってる頃合いか。じゃあ、ちょっと行ってくるぜ。みんなは先に晩飯食っててくれよ」

「グラデーナ、あんた一人で行く気? 誰か連れて行きなさい」

「お姉さま、わたしが行きます」


 即座にヴァレリアが立候補した。元気があり余ってるらしい。


「わたしも行こう」

「あたしも行くぜ」


 ジークルーネとボニーも間髪入れずに続いた。


「そこまでよ。あんまり大勢で押しかけて、威圧するのは止めたほうがいいわね。あんたたちに任せるわ」

「おう、任せろ!」


 ほかにも行きたそうなのばかりだったから、ここでストップをかけた。

 この四人ならスラムの木っ端どもが、どれだけ束になって襲いかかっても問題ない。後は任せて食事にしよう。

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