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乙女の覇権安定論 ~力を求めし者よ、集え!~  作者: 内藤ゲオルグ


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キキョウの花びらは風に吹かれ海に至る

 遥か頭上から降り注ぐ陽光が墨色と月白の外套に身を包んだ女たちを強く照らす。

 一行の先頭を堂々進むのは、黒の塗装に銀のパーツが輝かしいモンスターマシンを御する私だ。ブルームスターギャラクシー号は爆音を轟かせ、周辺一帯を威圧する。


 そしてちょっとずつ間を空けて続くのは旅の道連れたち。各々が車両を駆る。


 ヴァレリアは白の塗装にウサギっぽい絵が入った可愛らしい中型のレーサーレプリカ。

 ジークルーネは大型のスーパースポーツタイプで、元青騎士だからか単に好きだからか、青を基調としたスタイリッシュなマシン。

 メアリーは私と似たようなクルーザータイプだけど真紅の塗装がカッコ良く、意識したのか偶然かブラッディ・メアリーの異名にマッチした色合いのマシンに乗ってる。


 ほかにもバイクにまたがったメンバーは第二戦闘団のヴィオランテ伍長以下、十数人にもなる一団だ。そんな集団がのどかな草原に伸びる街道を爆走する。


 あとはローザベルさんがハンドルを握った超大型装甲車のデルタ号を最後尾に小型装甲車が二台、大型から中型のジープが計十台ほども連なる集団になってる。これが私たち旅の一行だ。

 総勢で六十人くらいの結構な大所帯。商隊のキャラバンはバイクを使うことはないだろうから、余所からみたら異様な集団だと思う。



 今回の遠征メンバーは、メアリー率いる第二戦闘団を主軸に、私とジークルーネとヴァレリア、治癒局からローザベルさん、それと戦闘支援団から選抜されたメンバー構成で行く。


 遠征メンバーを決める際には、どの戦闘団を出すか事前にハリボテ船を使った演習結果を考慮しつつ、総合的にメアリーの第二戦闘団にすると決まった。


 メアリーの盗賊に対する苛烈な姿勢は、きっと海賊に対しても変わらない。でも今回の海賊を味方に引き込むって仕事を忘れて暴走するような素人じゃあ、もちろんない。気持ちを抑えて必要なことを必要なだけやってくれると信頼してる。

 それにメアリーの『賊』を嫌悪する迫力は、相手側に十分伝わるはずだ。もしかしたら調子に乗った海賊どもを、気合だけで黙らせる迫力があるかもしれない。


 第二戦闘団はメアリーを筆頭に得物を使った戦闘より、素手で戦うことを好むメンバーが多いことも選抜理由に上がる。これは相手を殺さない戦闘で加減をしやすい利点になる。今回ばかりは、うっかりでも殺しは避けたいミッションだからね。


 ジークルーネは主に交渉役として頑張ってもらうつもりだ。今回は特に会長の私よりも適役だと予想してる。

 海賊は元軍人ってことらしいから、同じ元軍人のジークルーネなら少しは話が通じやすいと期待できる。

 カッコいい系美人のジークルーネは見た目の迫力もあるし、元エリート騎士にして、現エクセンブラ裏社会三大ファミリーの大幹部となれば、海賊だって交渉相手としてナメられてるとは思わないだろう。

 まあ、こっちは余所者の上に女の組織だからね。その時点で見下してくる可能性は否定できないけど、それならそれで実力で分からせる手順に進むだけだ。


 ローザベルさんもジークルーネと同じく交渉役の一人として同行する。

 キキョウ会の相談役でもあるローザベルさんには、治癒局で一定量の回復薬を作る仕事や闘技場での治療行為以外はほぼ自由な立場にしてるんだけど、今回はそのネームバリューと年の功を期待して遠征に加わってもらった。


 悪名においては随分と名高くなったキキョウ会の中でも、一番の有名人は間違いなくローザベルさんだ。それもキキョウ会とはあんまり関係なく、しかも大陸東部に限らずに全土に渡ってかなりの知名度を誇る。


 ローザベルと言えば、当代一の治癒魔法使いで名が通った生きる伝説だ。

 そんな有名人が縁あってウチの相談役に収まってるわけで、絶大なネームバリューを使わない手はない。なんせ港の利権確保がかかってるんだから、たまには治癒魔法以外でも活躍してもらいたい。このばあさんは『交渉官徽章・金』だって持ってるし。

 でかいシノギになる飯のタネだ。逃すわけにはいかないから、使えるものは使っておく。



 副長と相談役が交渉を担当し、メアリーたち第二戦闘団が威圧と暴力を担当、私とヴァレリアはイレギュラーへの対応が役回りだ。

 海賊との交渉はまだ事前の情報収集の段階で、作戦は想定に想定を重ねたものだから、実際にはどうせ色々と考え直さないといけないし、イレギュラーだってきっと起こる。交渉自体は任せるつもりだけど、私も暇にはならないだろう。


「こちらジークルーネ。ユカリ殿、そろそろ昼食にしないか」


 耳元から聞こえた声はクリアだ。即座に返す。


「じゃあ、前方の林のところで休憩しようか。みんな、聞こえたわね?」


 呼びかけると一斉に適当な返事が聞こえてきた。

 普通に会話しちゃってるけど、個別にバイクや車に乗ってる状態で、しかも爆音轟く中でも会話可能な道具を私たちは手に入れた。

 耳に着けたイヤリング型短距離通信の魔道具のおかげで、こうした移動中での意思疎通もやり易くなってる。バカみたいに魔力を消費するから、移動中に無駄話をしながらとはいかないけど間違いなく便利だ。


 無人の街道脇に車両群を停止すると、大型ジープから必要な食材や器具を取り出して昼食の準備に取りかかる。

 料理好きで食へのこだわりのあるメンバーが中心になってやるから、手際はいいし手間暇かけられない旅の料理でも味は保証されてる。


 主要な街道沿いを進んでるから、普通ならどこかの町に寄って宿泊やら食事やらをできなくはないんだけど、私たちは異様な集団だからね。単なる移動中に余計なトラブルを抱えたくない理由もあって、目的地までは慎ましやかにキャンプ生活を続けてるんだ。


 ただし、ここ旧レトナーク王国領は激しい内戦を経た後で、小勢力が分離独立した非常に不安定な地域になってる。主要な街道とはいえ、人里離れた場所をのこのこ出歩いてる奴はほとんどいない。

 もしそこらで人を見かけるとしたら、町から夜逃げした奴か逃亡中の犯罪者か、人里や数少ない旅人を襲う盗賊かって感じだろう。


「お姉さま、取ってきました」

「ありがと」


 カップに入ったポトフっぽい具沢山スープと、生ハムとチーズのベーグルサンドが今日の昼食らしい。メニューとしては定番もいいところだけど、珍しければいいってもんじゃない。

 スープとサンドイッチのパターンは多くても、具材の種類は意外と多いからなかなか飽きない。香辛料も調味料も色々とあって、味付けが一辺倒にならないのはいい。


「ユカリ会長、ちょっと聞いてもいいですか?」

「なに?」


 草原でのピクニックよろしく、そこらに座って食べてるメンバーの一人が雑談のノリで質問してきた。


「港の利権を確保するって話でしたけど、クラッド一家やアナスタシア・ユニオンはどうしてるんですか? ウチだけ港取っちゃって、あとで文句言われませんかね」

「そういやウチの目的については話してたけど、ほかの組織のことはあんまり言ってなかったわね。そっちは調整済みだから心配ないわ。なんにも知らせないでいて、もしあいつらが海賊と手でも組んだら最悪だからね。その辺の根回しはロスメルタの陣営がやってくれてるわ。それに港はいくつもあるからね、欲しけりゃどっか別の場所を確保するわよ。むしろ、すでに動いてると考えるべきね」


 力を持ってる強欲な連中が、黙って状況を眺めてるはずがない。エクセンブラは三大ファミリーの体制に落ち着くまで時間を要したけど、それに目途がつけば色々と金になる話を進めていくのは当然だ。


 三大ファミリーはエクセンブラにおいて協力関係にあるけど、ライバル同士でもある。なんでもかんでも情報共有するわけじゃない。

 互いのことを探り合い、利益がぶつかり合いそうなときには避けて通るか、交渉するか、あえてぶつかるかを選択する。本気で潰し合おうとはどこも思ってないから、今のところは良い緊張感をもったライバルであり同業者といった関係になってる。


「五大ファミリーの時代から今に至っても、河川の利権はギルドが牛耳ってますからね。海の利権を確保できるかもってなれば、早々に動いてそうなもんです」


 会話に入ってきた別のメンバーが指摘したとおりだ。

 街の中には大小の河川があって、各ファミリーが河川でもシマを主張すると非常に不便になってしまう事情がある。

 この道を通りたかったら金を払え、みたいなことが河川のあちこちで発生してたら、せっかく街を流れる河川を使った物流が機能しない。歴史的に色んなやり取りを経た上で今があるんだろうし、私たちもそこに手を突っ込む気はない。まあ河川と港じゃ、全然違うと思うけど。


「レトナークって、港はたくさんあるんですか?」

「大陸側と点在する島々に存在する港を合わせれば、数は百や二百どころではないです。ですよね、お姉さま」

「うーん、私も具体的な数まで知らないけど、小さいのまで含まればかなり多かったはずよ。漁船が出入りするだけの田舎の港も含めれば、だけどね。主要な港は全部ロスメルタの陣営が確保するか、王家の直轄になるらしいけど」


 たとえば国際的な港湾として使用するような、大きく設備の整った数少ない港や、造船所があるような場所は王家直轄の管理になる予定と聞いてる。

 そのほか国内外を問わない海上輸送網で重要な拠点と見なされる港は、上級貴族の管理下に置かれることになる。


 私たちが利権を確保できるのは、そうした重要な港湾から一つか二つはランクの落ちる場所だ。でもそれでいいんだ。

 政治の強く絡む港なんかじゃ、貴族から口を出されて自由なことはできっこない。いくら稼げたとしても、そんな面倒な場所ならこっちからお断りだ。エクセンブラでやってるような政治工作を港町でもやるには、投じるエネルギーに比して見返りがあまり期待できないって理由もある。


「港町の掌握と海賊の懐柔、一筋縄ではいかないですよね……」


 誰かの呟きにはそのとおりと思うしかない。

 港の利権を確保するといっても、ブレナーク王国が保証すればいいってもんじゃないし、そんな保証なんかしてはくれない。王国側は黙認するだけだ。

 私たちキキョウ会は自分たちの力をもって、町の人間に支配者だと認められる必要がある。


 海賊のせいで輸送拠点としての機能は死んでるにしても、小さな漁船は普通に港を出入りするって話だし、漁協みたいなギルド所属の連中にその代表、元は輸出入の商いでデカい顔をしてた連中だって、新入りが威張り散らすのは黙って見てないだろう。


 長い間海賊が跋扈してただけあって、現状の町は海よりも陸の商売が発展してる。そっちで力を付けてる町の有力者たちだって懐柔する必要がある。

 多くの組織、人間に認めさせて初めて、キキョウ会は港町を掌握としたと豪語できるんだ。簡単にはいかない。


「現地で情報集めてるメンバーが手を色々考えてるはずよ。作戦が決まれば、あとは実行あるのみ。ま、どうにかなるわよ」


 面倒な事はきっと多い。だからこそ、あえて気楽な調子で前向きに話す。

 始める前から会長がネガティブ思考じゃ、どうしょうもない。みんなの士気に関わる。それに私は結構、素でテンション高い。


「仕事はどうとでもなるし、するつもりよ。そんなことより、私は海が楽しみでしょうがないわ!」

「お姉さま、そんなに楽しみだったんですか?」


 泳ぎたいとは思ってないけど、海の見える景色となんといっても海鮮料理だ。

 海の幸が私を呼んでる。これだけで行く価値がある!



 出発を再開し、キャンプ生活を続けること数日。

 デルタ号やバイク集団の威容を遠目から観察しては逃げていく怪しい奴らは放っておき、人里も徹底的にスルーしてトラブルを避けた。

 代わりに野生の魔獣は見かける度に殺しておく。湧いて出る魔獣を討伐する部隊のない崩壊国家は、こうした面でも非常に危険だ。私たちは別に奉仕活動に目覚めたわけじゃなく、バイクでの高速移動中にヘッドショットを決める訓練としてやったにすぎないけどね。

 そんな事をしながら旅を続け、ようやく目的地が迫りつつある。


 ひとつ高い丘を越えると、遠目に青い海が広がってるのが見えた。

 なんだか、ものすごく感慨深い。言葉が出ないとはこのことか。

 たぶん、一行の多くも広がる大海原の光景には圧倒されてると思う。

 海に面して広がる港町はオレンジ色の屋根が目立つ町並みだ。実際に訪れた際の風情はどんな感じか楽しみで、そっちにもわくわくが込み上げる。


 自然と速度を落とした一行が進む丘には、訪れた私たちを歓迎するかのように花が咲き乱れる。

 青紫色のこれはキキョウの花だ。丘一面を一色に染める花々は、キキョウが咲くには少し早い季節だと思うのに咲き乱れまくってる。

 まるで私たちを歓迎してくれてるかのようじゃないか。


 いや、まさに歓迎されてるに違いない。

 この土地が、我がキキョウ会を迎え入れたのだ!

 なんてね。


 町の住人はさぞ驚くだろう。

 巨大装甲車のデルタ号を始め、威圧感溢れまくってる車両群だ。港町は田舎にしてはそこそこ人口規模の大きい町なんだけど、外壁や街門みたいのがないらしい。このまま町に乗り込んでやる。


 私たちは目立ってなんぼの稼業だからね、最初から派手に行く。キキョウ会の話題で町中を埋め尽くしてやる。

 初っ端から私たちの存在を知らない奴がいないくらいに、ド派手に決める。


「こっからが私たちキキョウ会の新しい一歩よ、やってやろうじゃないの!」

「おおうっ!」


 つい通信をオンにして叫んだ言葉には、威勢のいい返事が魔道具を介さずとも聞こえた。

なんだか前回の捕捉回のような感じになり、またもや新章への導入っぽい雰囲気になりました。前回と合わせての導入部分ということでひとつ!

文字数の関係でここで区切りましたが、次回はもうちょっと具体的に進むと思います!

というわけで、次話「イチから始める町攻略」に続きます! 割と書けてます!

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― 新着の感想 ―
[良い点] バイク軍団カッケー! でもヴァレリアのマークは兎で狼じゃないのね。 獣人系の人達はあまり自分の血統に拘ってないのかな? そして中型のレーサーレプリカって辺りがピッタリですね! 本人も愛車も…
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