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乙女の覇権安定論 ~力を求めし者よ、集え!~  作者: 内藤ゲオルグ


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邪竜との激闘

 金色のスケルトンドラゴンから、漆黒の邪竜へと進化した恐るべき魔獣は、最初の攻防と同じようにまずは巨大な尻尾を動かした。

 暴風を巻き起こしながら迫りくる大質量。骨だけの時とは迫力が段違いだ。

 バットで迎え撃つのも一興ではあるけど、さすがに無謀だ。みんなが避けるのに合わせて退避するけど、ただ避けることはしない。


 足元から鋭く頑丈なトゲを生やしまくってからの退避。尻尾がぶつかるのは凶悪な刃って寸法よ。骨まで断ち切れなくてもダメージがあればいい。なんせ魔導鉱物の鎧を貫く鋭さと強度があるトゲだ。

「まずはこいつでどうよっ!?」

 後方に下がりながら激突を観察。鞭のようにしなる軌道で迫る尻尾が突き出たトゲにぶつかると、根元から根こそぎ吹っ飛ばされた。

 ちっ、埋まった部分が浅かったか。


 期待とは違う結果は吹っ飛ばされたところだけじゃない。鱗に覆われた尻尾には、ダメージらしいダメージがなかった。あの結果を見ると、鱗の強度も骨と同程度にはあると考えるべきだ。


 漆黒の鱗と強靭な筋肉、そして金色の骨。どこをとっても破格の防御力。さらに瘴気は魔法攻撃を吸い取ったようにも思えた。その瘴気の塊から形成された鱗や肉体に、魔法攻撃が通用するかは未知数。完全に形を変えたあれが魔法を吸い取るとは思えないけど、試してみる必要はある。もし、通用するなら取れる手も増えるんだ。

「全員で魔法攻撃! 吸われるか、試してみるわよ!」

 中途半端な攻撃で様子を見ることをしたくない。種類や強弱で結果が変わるとしたら、それだって見極めないと。


 打撃を加えようとして前に出てたアルベルトとリリアーヌも一旦下がり、自慢の魔法適性を存分に生かした攻撃を放つ。

 ヴァレリアとミーアも得意な種類の汎用魔法をぶっ放した。グレイリースは変わらずの影魔法で動きの阻害と敵の状態確認に専念し、私はグレイリース同様に観察しながらもトゲを直接、邪竜に突き立てるべく魔法を放った。


 ところが強力なはずのトゲの魔法は硬い鱗に簡単に阻まれた。なんちゅう硬い鱗なんだ。あまりにもぶっ飛んだ防御力の高さは、なにか未知の要素があるように思われる。それはいいとしても、みんなの魔法も効いた様子はない。

 最悪のケースの魔法吸収能力はないみたいだけど、全身が完全魔法耐性ってわけ?

 もしそうなら凄い化物もいたもんよね。


 でもちょっと困った。あのアホみたいに硬い鱗を打撃で割る作業は、体力的に心配がある。攻め方を考える必要があるわね。

「ユカリ、どうする!? 埒が明かないぞ!」

 やっぱり考えることはみんな同じよね。

「もしかしたら割るよりかは剥がすほうが楽ですかね?」

 剥がす?

「お姉さま、それでいきます! ミーア!」

 ナイフを得意武器とする二人は、息を合わせて踊りかかる。


 当然、黙って見てる魔獣でもない。襲いくる敵には容赦なく攻撃を浴びせる。

 骨から肉体を得た邪竜は、ドラゴンの口を大きく開く体勢を取った。口の中の奥の奥、黒いエネルギーの輝きのようなものが見えた。

「ブレスがくるわよっ!」

 ドラゴンと言えば、というような典型的な攻撃方法だ。ドラゴンに限らず、そういった攻撃を使う魔物はいるから驚くことはない。ヴァレリアとミーアは突っ込むコースを大きく変え、私は盾の準備を急ぐ。避けるよりも受け止めて威力を確認したい。

 挑発のためにちょっとした実験も兼ねた攻撃を加えると、誘いに乗って私を見下ろす邪竜。普通の生物相手なら十分な攻撃のはずの実験は残念な結果に終わってしまったけど、今は引きつけられればそれでいい。


 見るからに強力な黒いエネルギーが解き放たれると、激流のように吹き荒れて盾を飲み込まんとする。

 凄まじい風圧と冷気。だけど、それだけだ。

「瘴気のブレス? これなら!」

 強い風が吹いたようなもんだ。


 猛毒の瘴気を平然と突き抜け、切り込んだヴァレリアとミーアはナイフを全力で体当たりでもするように鱗に突き立てる。すると、

「やりました! 鱗の継ぎ目なら入ります!」

「アルベルト、雷撃を!」

 叩き割るんじゃなく、鱗の重なる隙間に差し込んだか。ヴァレリアはナイフを差し込んでからその下の肉を抉って引き抜き、別の鱗にも同じようにして堅牢な守りに綻びを作り出す。ミーアは深々と差し込んだナイフをそのままにアルベルトへ呼びかけた。


 打てば響くようにアルベルトはミーアの要望を汲み取って行動する。

 空を走る一条の雷光。ミーアが突き立てたナイフに向かって瞬時に着弾。電撃は巨大な邪竜を確かに痺れさせた。


 電気ショックによる強制的な筋肉の収縮。人間なら絶命しただろう強力な電気ショックにも平然としたものだけど、短時間でも確実な効果があったのは間違いない。

 つまり鱗や骨はともかく、内部の肉なら通用する攻撃もある。なるほど、活路は開けた。



 まともに受ければ即死、掠っただけでも手足が飛ぶような邪竜の攻撃は緊張と慎重さを強いる。

 連携してかく乱しながら立ち回り、力強くも精密なコントロールでナイフを鱗の継ぎ目に差し込むヴァレリアとミーア。一か所に拘らず、邪竜の体中に少しずつ綻びを作り出す。

 開いた活路にはアルベルトの雷撃とリリアーヌの風撃が襲いかかる。強力な一点に集中する風圧が鱗を引き剥がそうとし、雷撃は邪竜の動きを鈍らせる。


 鱗以外の部位に攻撃が通るなら、試せるところはいくつも出てくる。誰でも思いつくのは眼だろう。眼球があるからには目つぶしは効くだろうし、口が利けるなら耳だって機能してる可能性はある。できればスタングレネードを試してもらいたいところだけど、みんなが必死に攻撃中だからそれは試せない。

 だから、直接狙ってやる。


 動きまくる頭部の眼を狙うのは難易度が高い。激しく動く的には、私の投擲でも百発百中とはいかない。だったら、止めてやれ。

「ミーア! 首の後ろに楔を!」

 金の骨の状態の時に削ってたあの辺りに、ミーアはナイフの楔を打ち込む。すかさずアルベルトの雷撃が命中して行動力を奪い、グレイリースが私の意図を汲んで影魔法を行使、強引に邪竜の顔を正面に向かせた。


 完璧な連携に満足感を覚えながらの投擲。

 トルネードで振りかぶって投げたタングステンの塊が、金色の瞳を宿した眼窩に吸い込まれる。

 眼球を破壊し、その先の脳もただじゃ済まない一撃だ。本来ならこれで一撃必殺。だけど、相手は邪竜だ。生きてるのかアンデッドなのかも曖昧な存在はやっぱりアンデッドなのか、より激しく暴れるだけで倒せない。

 ただ、眼球潰しの攻撃は一定の効果があったらしく、急に挙動を変えた。


 邪竜が翼をはためかせるように動かす。これまでにはない動作だ。

「まさか、飛ぶつもり!?」

 徐々に激しくなる羽の動きは、唐突な異音と共に終わりを迎えた。


 飛び上がる前に羽が大きく折れ曲がったんだ。異音は羽が折れた音だろう。

「ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」

 アンデッドが痛みも感じないだろうに、特大の咆哮を響かせる。

「よっしゃー! 羽をぶっ壊しといて良かったぜ!」

 そういやアルベルトが羽の部分の骨をひたすら叩きまくってたわね。脆くなった羽で力強く羽ばたこうとして、止めを自分で刺してしまった格好か。

 ということは、破壊した骨はそのままで修復はされてないことになる。ダメージは確実に蓄積できてる。

「アルベルト、ナイスですよー!」

「でかしたです、アルベルト!」



 喜びも束の間、分かりやすく敵意を膨らませた邪竜は更なる冷気を噴き出しながら、またもや大きく口を開く。

 また瘴気のブレス? 瘴気なんて私たちにとってはただのそよ風と同じだ。脳が腐ってるのか、破壊したからか、学習能力がないわね。


 奴を倒すには鱗を剥がして内部を削って動きを鈍らせる。そんでもって骨を叩き折る。正直なところ、どうすれば倒せるのか不明だけど、とりあえずはそれを試してみるしかない。気が遠くなるほど先の長い道のりだ。だけど、そうしないと倒せそうにない。だから、やる!

 決意も新たに正面からぶつかろうとした時、猛烈な嫌な予感に背筋が凍る。

「さっきと違うっ!? 避けなさいっ!」

 ばらけて戦うみんなに向かって叫びながら即席の盾を展開。襲いかかるブレスの直撃。さっきのブレスとは重さが違う。

 そして、ジュウジュウとなる嫌な音。猛然と上がる煙。


「溶かされる!?」

 瞬時に答えにたどり着く。気体の瘴気じゃない。これは、液体だ!

 ヤバいっ!


 追加装甲を展開。前面はもちろん、横と上までカバーする分厚い装甲だ。

「うあっ、痛っ」

 ブレスを受け止めた時に飛び散ったらしい液状の瘴気が、外套を溶かして少しだけ皮膚に達したらしい。

 ああっ、お気に入りの外套なのに!

 怪我は大したことないしすぐに治したけど、いくつも小さな穴が空いた外套に愕然とする。標準機能として持たせてある腐食耐性じゃ、全然効果がないらしい。それにしてもだ。

「こんちくしょうがっ!」

 つい、はしたない叫びが出てしまった。


 お気に入りの外套の破損に憤慨するけど、それよりみんなの様子だ。

 浄化刻印はガスにしか効果がない。こんなのが直撃したら絶対に死ぬ。

 散開してたしブレスは私に向かって吐かれてるから大丈夫だと思うけど、液状の物体を撒き散らされると完全に避けるのは難しい。ちょっと飛沫がかかっただけでも外套を溶かす威力だから、気づかぬ内にダメージを受けてしまう可能性もある。


 思った以上に長いブレスを受けながら様子を探る。

 ……みんなの魔力反応は健在。問題なさそうけど、何人かは盾に直撃して盛大に飛び散った液を外套に受けてしまったらしい。騒がしい声が聞こえた。ついでに後方、ヴェローネたちのほうも騒がしいみたいだけど流れ弾でも飛んだかな。まあ我がキキョウ会が誇る技巧派ならなんとかするだろう。

 しっかし、種が割れればやりようはあるけど、まったく面倒な奴だ。

 より慎重な立ち回りが求められた私たちは、長い時間の戦いに没頭することとなった。



 戦闘開始から数時間は経過した。疲れはもちろんのこと、お腹が減って集中力も欠き始めた。こんなにも長時間に及ぶ戦闘は初めてだ。

 しかも猛烈な寒さが体力を奪う。外套の温度調整機能も穴だらけじゃほとんど意味がないし、もう機能そのものが失われてるかもしれない。

 身体中を巡る魔力で凍え死ぬことは無いと思うけど、冷凍室に閉じ込められたような寒さはいかんともしがたい。戦闘中で激しく身体を動かしてるにもかかわらず、凄まじい冷気に息も凍りそうだ。


 ただ、確実にダメージは与えてる。全体から見れば少ないけど、鱗は何枚も剥がせてる。アルベルトの雷撃とリリアーヌの風撃によって、大きく肉を抉ってる場所だってある。明らかにバランスを欠いた邪竜は動きも鈍くなってきた。


 だけど削り切るにはまだまだ時間が必要だ。火力担当のはずの私が液状ブレスの警戒を厳にする必要があって、攻撃に専念できないのが痛い。アンデッドのくせに有効な攻撃は判断できるのか、あれから瘴気のブレスは全部が液体なんだ。しかも頻度が高い。

 我慢の時間が続くわね。これも貴重な経験と割り切るしかない。考え方を変えてやると、不思議と気分もマシになる。


 みんなは少しでも寒さを和らげようと汎用魔法の火魔法をメインに使用してるけど、これが案外効果を上げてるらしい。

 鱗には全然効いた感じはないんだけど、剥き出しになった肉の部分に魔法が当たると怒ったような声を上げるんだ。ダメージはあると思う。

 地道に鱗を剥がして雷撃で痺れさせ、火で肉を焼いてダメージを蓄積させる。まさしく、少しずつ削っていく地味な作業だ。

 だけどもう一手、なにかが欲しい。戦闘をもっと前進させるような、倒すための追加の手が。



 更に時間が経過し、私たちにもミスや疲れが目立ち始める。

 ナイフの一撃が鱗の継ぎ目を外して弾かれ、雷撃や風撃にも威力の減退が見られるようになってきた。

 私の守りだけはミスが許されないから、なんとか持たせてるけどそれもかなりキツくなってきた。防御しきれないちょっとした飛沫でみんなの外套も穴だらけだ。寒すぎて手の感覚も無くなりつつある。ぶっちゃけ本当にヤバい。


 あれから度重なる攻撃を加えて続けて、邪竜の姿もボロボロにはなってる。

 至る所の鱗が剝がれて焦げた肉が剥き出しになり、動きは鈍くブレスにも威力が感じられない。攻撃のパターンも少ないから、避けるだけなら多少集中を切らしてもなんとかなる。だからこそ私たちも持ちこたえられてる状況だ。

 敵が弱まってるのはいいけど、それはこっちも同じこと。疲労がいよいよ誤魔化せなくなってきた。撒き散らされた毒液の地面で足場も悪くなってる。気を付けるべき点が増えると、それだけ余計に疲れも増す。



 疲れた、寒い、眠い、腹減った、身体中が痛い。ネガティブな感情を喚き散らしたくなる。

 いい加減に終われと怒鳴りたい衝動を抑え、心の中で愚痴を零しながら戦ってると、また後方に流れ弾が。

 ヴェローネたちが上手く処理してくれてるみたいだけどって、あれ?

「今のって……」

「あいつ、遅いんだよ!」

「やっと起きたみたいですね」

「ふぅ、手が増えるのは助かりますね」


 後方に飛んで行った毒液の塊は、これまでだったら風で散らすように防いでたはずだ。それが今度は炎の盾のようなのが出現して毒液を一気に蒸発させたんだ。間違いない。

 全力で走ってくる新たな戦力。まったく、遅いっての。

「待たせたなっ」

 抜き身の剣を肩に担ぐようにして笑う姿は元気いっぱいだ。

「おおっ!? なんだよお前ら、ボロボロだな」

「オフィリア! あんた、遅いのよ!」

 こうしてる間にもやってくる攻撃を避けながら、遅れてきた戦力にみんなで八つ当たりしてやった。


そろそろ佳境になってまいりました。

ラスボスっぽい尋常ならざる耐久力で持久戦を強いられてきましたが、いよいよ真打(?)の出番です。

復帰した戦力を加え、激闘の趨勢が明らかになる次話「青き炎の輝き」に続きます!


冥界の森もそろそろ脱出したい頃合いです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] なんとココに来て遂に無敵外套を貫通してダメージを与える攻撃が登場! しかもこれは対女性限定で追加ダメージの「服が溶けてイヤ~ン♡」効果!? ―――いや皮膚だの肉だのまで溶ける大ダメージなの…
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