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エリザベスの事情

「本当に、お見合いさせるつもりなのかしら」

 レディ・メアリが帰宅した後、残された写真を見てエリザベスは嘆息した。

 たしかに、周囲の令嬢達はあらかた将来の伴侶を決定済みだ。行き遅れと言われたくなければ、早めに相手を見つけるにこしたことはないのかもしれないけれど。


 だが、エリザベスには急いで結婚しなければならない理由はない。自分の財産は自分でしっかりと管理できているし、ラティーマ大陸との取引だって順調だ。爵位は王家預かりとなっているものの、マクマリー家の当主としてきちんと勤めている自負もある。


 もちろん当主としては、次代に血を残さなければならないのだろうけれど――それもしばらく先の話で、まだ焦る必要はないとエリザベスは思っている。

 けれど、レディ・メアリはエリザベスが一人でいるのが不安なようで、こうして機会をねらっては結婚相手を押しつけようとしてくるのだ。

 こちらに戻ってきてからまだ三ヶ月だが、エリザベスにも社交界ではそこそこ人気の男性だとわかるような相手だからたちが悪い。


 アディンセル家といえば目立つほどの資産家ではないが、四代遡れば王家に娘を嫁がせたという名門である。リチャード本人にも悪い噂はないはずだ。

 彼と結婚できるとなれば全財産を差し出しても惜しくはないという令嬢も少なくないはずだ。

 私は違うけれど、とため息まじりにエリザベスは見合い相手の写真を放り投げた。


 先代の放蕩で傾きかけた家を建て直したのはエリザベスだ。

暗黒大陸とおそれられているラティーマ大陸に、父とともにわたったのは八年前のこと。

大陸では苦労したけれど、父と共に貿易の道を開きもした。今ではエルネシア王国でもかなりの資産家になっている。

 慌てて結婚相手を決める必要もないのだ。自由を失いたくないという思いも強いのだが、こうして訪れてくる度に見合い相手を押しつけられるのもうんざりだ。

 婚約だけしておけば叔母がうるさく言わないのなら、婚約だけ整えてもいいような気もする。そうなったらそうなったで、式はいつにするのかとせっつかれるのもまた事実なのだろうけれど。


 覚悟を決めて、エリザベスは放り出した写真をもう一度取り上げた。先方から断られるという可能性だってあるのだ。一回くらい顔を合わせてみてもいいだろう、と思ったのはたぶん写真の彼に好感を覚えたから。

「パーカー、叔母様の招待状が届いたら出席でお返事しておいてちょうだい」

「出席、なさるのですか? 途中で脱走――」

「しないわよっ」

 むくれた口調でエリザベスは叫ぶ。そして、

「行くと決めた時には行くんですからねっ」

 と指を振って宣言したのだった。


 ◆ ◆ ◆


 エリザベスがラティーマ大陸にわたったのは十歳の時だった。

 先代のマクマリー男爵、つまりエリザベスの父親が莫大な借金を作ってしまい王国の社交界から追放されてしまったのがその理由だった。

 土地を処分し、家財を売り払い――かろうじて残ったのは今エリザベスが住んでいるこの屋敷だけ。

 ラティーマ大陸で運良く発見した金鉱からの儲けを元手に、先代はエルネシア王国と大陸の間の貿易に乗りだし――それは危険な賭ではあったのだけれど、勝った。


 ラティーマ大陸で生産される香辛料は、エルネシア本土では気候の違いでうまく育てることができない。その香辛料の総取引量のうち四分の一はマクマリー商会が請け負っている。

 それに茶葉。エルネシア本土でも育てられているが、ラティーマ大陸の高山地帯で育てられる茶葉は特に香りがいい。

 そして、宝石類。金だけではく、ダイヤモンドやサファイヤやエメラルドなどの宝石が大陸では算出されるのだが、その取引も手がけている。

 逆にエルネシア本土から大陸へは、家具や仕立てられる前の服地、装身具に加工された宝石類を輸出している。


 三年でマクマリー商会は莫大な利益をあげ、その後父親が死亡した時、エリザベスは後を継ぐことに何のためらいも感じなかった。

 商売を始めた時から父の側にいたのだ。父の尻をたたいて仕事をしているうちに、エリザベスも商売の基礎は身につけていた。淑女たるもの商売などに手を出してはいけないという理屈もわかるのだが、だからといってやめようと思わない。


「私に結婚を申し込もうだなんて、周囲の評判を気にしない人なのかしらね」

 マギーに寝支度を手伝わせたエリザベスは、天蓋付きの立派なベッドに寝転がった。羽布団がふわふわして気持ちいい。

「レディ・メアリにお声をかけられたら断れないんじゃないですか?」

 と入浴をすませた後のタオルを片づけながらマギーが笑う。たしかに、社交界におけるレディ・メアリの影響力はあなどることができないのもわかるけれど。


 爵位を持つ者は、領地からあがる収益で生計をたてるのが一般的で、商売に手を出すのは卑しいこととされている。エリザベスのように女性の身ならばなおさらだ。マクマリー家は領地を処分してしまっているので、叔母の世話になりたくなかったらエリザベスのような選択をするしかないわけでもあるのだけれど。

 いくら財産を持っていようと、エリザベスに近づくということはその悪い評判をも受け入れることになる。

 今まで叔母が話を持ってきた人たちも、その点については納得していたのだろうとは思うが、叔母に押し切られたという可能性も否定できない。


会ってみて、レディ・メアリに押し切られて見合いを承諾したというのでなければ――考えてもいい。どうせいつかは結婚しなければならないのだし。

 できる限り婚約期間を引き延ばし、結婚を五年後くらいにできればなおいい。その時は二十三になっているが、その時まで彼が待ってくれるだろうか。

 リチャード・アディンセルとかいう人物が、エリザベスの話を聞く耳を持っていれば、よいけれど、それは会ってみてから判断することにしよう。

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