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使ってはいけない特技を有効活用してみたり

 それから決行の日までは、エリザベスは平静を装うことを自分に強く言い聞かせた。他の人達に不審に思われてはならない。

 そしていよいよ決行の日当日を迎える。エリザベスは、朝食を終えるのと同時にパーカーに午後の予定を告げた。

 

「午後からは、買い物に出かけることにするわ。あなた達は自由に過ごしてちょうだい。あ、でも……メアリ叔母様には内緒よ。お誕生日プレゼントを探しに行くんだから」

「では、百貨店ですか。では、送る間を回すように手配しておきましょう」


「お願いね。百貨店でいいものが見つからなかったら、アンティークのお店を見て回ろうと思っているの」

「かしこまりました」


 ひとまずパーカーにはさほど怪しまれないですんだようだ。

 ほっとしたエリザベスは庭に出て、トムの手によってよく手入れされた庭園を歩き回る。本当なら仕事を始めるところなのだけれど、今日はその前に頭をすっきりさせておきたかった。

 

「……あら」


 あの時計にはめ込まれた聖骨と似たような形の石が転がっている。それを拾い上げたのは、なんとなく――お守りのような気分だった。

 

 午後になって、百貨店に向かう準備をする。スカートの下には短く切った乗馬服のズボンをはいて、肩から小さなバッグを提げた。


 玄関前には時間通りにトムが車をつけて待っていた。エリザベスはパーカーに行き先を告げ、百貨店の前で車を降りる。


「ここでいいものが見つからなかったら、アンティークショップに回ろうと思っているの。何時になるかわからないから、あなたはここでいいわ」

「お帰りはどうするんですかい?」

「地下鉄で帰るか、百貨店から電話をするわ。屋敷で待っていてちょうだい」

「いいですよ。どっちにしても、そろそろ庭木の手入れしないといけませんからね。お電話お待ちしていますよ」


 百貨店の前でトムの運転する車から降り立ち、エリザベスは店内へと勢いよく進んでいった。


 レディ・メアリにプレゼントするものはあらかじめ決めていた。

 大きな銀のブローチだ。繊細な細工の施されているブローチがいい。

 だから真っ先に目指したのは、宝飾品を扱っている店だった。きっと、ここでなら気に入る品が見つかるはずだ。


「これはこれは、お嬢様。今日は何をお探しですか」


 得意客であるエリザベスのところには、真っ先に店員が駆けつけてきた。ブローチを、との言葉に、店の奥から美しい宝石をあしらったブローチがいくつも出されてくる。


「そうね、これとこれが素敵ね……こっちもいいけど……いいえやめておきましょう。アクアマリンは叔母様の目の色には合わないもの」


 最終的にエリザベスは二つのブローチを選び出す。

 片方は何種類もの花をあしらった花束をかたどったもの。もう片方は、手を合わせた天使の姿をかたどったもの。天使の翼の根本にアメジストがはめ込まれている。


「そうね――花束の方が叔母様の趣味に合うかしら。きれいにラッピングして屋敷まで届けてもらえる? 持ち歩くのは怖いもの。支払いはその時に――そうそう、金のリボンをつけるのを忘れないで」


 エリザベスは何度もこの店で買い物をしている上得意だ。店員もエリザベスの頼みならたいていのことは断らない。

 金のリボンがなかったとしても、誰かが調達してくることだろう。


「お届けはいつにしましょう?」

「そうね、叔母様のお誕生日はまだ先だけれど……明日届けてもらえると嬉しいわ」

「かしこまりました。明日の午後、お届けいたします」


 品物を選び終えた後、エリザベスは店員に別れを告げて、大急ぎで百貨店を後にする。裏口から出て地下鉄の駅まで走った。


 パーカーにはアンティークショップを回ってもいいものが見つからなかったから百貨店に戻ったと言い訳をするつもりだけれど、エリザベスの使うことのできる時間はさほど多くない。

 

 十五時にレクタフォード十五番地にたどり着くためには、急がなければならない。

 地下鉄を二本乗りついで、レクタフォード街にたどり着く。階段をのぼって地上に出ると、先日車の窓から眺めた景色が目の前に広がった。

 

 周辺のざわざわとした見せには目もくれず、エリザベスはまっすぐ十五番街を目指した。

 到着するも、建物の正面入り口は施錠されていた。裏口に回ってみる。こちらも施錠されている。エリザベスは、建物を見上げた。


 雨樋を伝えば、屋上にたどりつくことができそうではあるが――。


「さて、どうしようかしら」


 左右を見回して、エリザベスは考え込む。人通りはない。左右の建物の窓は木の鎧戸で完全に塞がれている。素早く上ればなんとかなりそうだ。

 

「よし」


 エリザベスは雨樋を眺めた。一番手っとり早く、一番人目につきにくそうなルートを目で追う。しばらく視線を走らせた後、にやりと笑うと両手を雨樋にかけた。


 大陸にいた頃、もっと困難な場所をよじ登ったこともある。そのまま手足の力だけで器用によじ登ると、あっという間に屋上に到達した。


 屋上には人の入った気配はなかった。何年もの間、誰も立ち入っていないようだ。

 屋上への出入り口である扉へと近づき、ドアノブをがちゃがちゃやってみるが、鍵がかかっているようだ。

 

 エリザベスは扉から入るのをあきらめて、別の場所からの侵入を試みる。たまったゴミの上を慎重に進んでいくと、小さな窓があった。屋根裏に通じているようだ。

 その窓を押してみる。こちらも当然鍵がかかっているが、うまく開くことができそうだ。

 

 器用に窓枠を外し、中へとエリザベスは降り立った。 

 どちらかといえば小柄なエリザベスがようやく通り抜けることのできるくらいの大きさしかないから、ここから入る者もいないと思っているのだろう。


 そこの部屋にも埃がつもっていて、足跡一つなかった。


 数歩進んで彼女は背後を振り返る。そこには彼女の小さなブーツの跡がしっかりと残っていた。バッグからハンカチを取り出して、足跡の形がわからなくなるまで乱してからエリザベスはまた歩き始める。

 

 数歩進んでは跡を消し、数歩進んでは跡を消してエリザベスは屋根裏の扉まで到達した。扉をそっと開いて廊下へと滑り出る。

 廊下の床には茶色いカーペットが敷かれていた。膝をついて見てみれば、かなり上質のものだ。このような建物で使われるには、少しばかり品質がよすぎるようにも思える。

 

 建物の中はしんと静まり返っていた。立ち上がり、歩き始めると上質なカーペットは完全にエリザベスの足音を飲み込んだ。

 

 廊下の先には、階段がある。用心深く近づくと、そこでようやく人の気配に出会った。


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