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明かされる秘密

驚愕するエリザベスに対し、ダスティは口元をゆがませた。

「できるよ。聖骨があればね」

 彼の声音には、何も知らないエリザベスを哀れむ響きが混ざっているように感じられた。いたたまれなくなったのを誤魔化すように、エリザベスの声が鋭くなる。


「聖骨なんてただの骨じゃないの! 聖人だろうがなんだろうが、骨は骨でしょう?」

「違う――聖骨なんて言われてるけど、あれは骨じゃないんだ。あれは骨じゃなくて――『賢者の石』だ」

「『賢者の石?』」

 初めて耳にする言葉に、エリザベスは目を瞬かせた。賢者の石――骨だろうが石だろうが、大差はないような気がする。


「そう、賢者の石。錬金術には欠かせない鉱物だよ――正確には鉱物ではないんだけどね。鉛を金に変化させるのに必要な触媒さ」

「それって……実在するの?」

 エリザベスはつぶやいた。なんだか、とんでもないことを聞いてしまったような気がしてならない。まさか、自分がこんなオカルトじみた世界に足を突っ込むことになるとは思ってもいなかった。


 せいぜい、若い貴族達の道楽だと思っていた――楽園騎士団の件にしても、今まで命を奪うような真似まではしていなかった。

 大陸にいた頃、周囲には迷信深い人達もずいぶんいたけれど、エリザベス自身はさほど気にかけていなかった。まさか、こちらに戻ってきてから、こんなことに遭遇するなんて。

 

「ねえ、ダスティ。あなたずいぶん詳しいのね? どうしてそんなことまで知っているの?」

「僕も会員だからさ――キマイラ研究会の。だから、知ってる。オルランド公爵は危険だ。近づいちゃいけない。近づいたら、今度は確実に消されることになる」

 消される。

 その言葉は胸に鋭く突き刺さった――ダスティの車に細工をされていたことを知った今は、なおさら深く。

 

 だって、ダスティがエリザベスを送ってくれることになったのは、本当に偶然だった。あのわずかな間に、彼の車に細工――細工そのものにはさほど時間はかからなかったとしても――をするなんて。

 公爵自身が細工をしたとは思えないから、あのわずかな時間に彼の命令を実行に移す人物がいたということになる。

 

「……最近、聖骨の盗難が続いているのはキマイラ研究会が関係しているの?」

 ダスティはあっさりと認めた。

「たぶんね。鉛から金を作り出すことに成功した――と聞いているよ。僕は下っ端だから詳しいことは聞いていないけどね」

「下っ端?」

「そう――僕は下っ端なんだ。あいにくとあそこも階級制でね。僕みたいな育ちの者は一番下から始めないといけないんだ。教育もないし」


「教育って大切なの?」

「大切だよ。教育と言うより、知識かな。昔の文献を読みとくのはそれなりの知識が必要だからね。勉強する時間なんてないから下っ端でいるのもしかたのないことさ」

「では、なぜあなたはキマイラ研究会にいるの?」

 それなら、なぜ、彼はそんなところに所属しているのだろう。エリザベスの問いに答えるべく口を開きかけたダスティだったけれど、目を閉じてしまった。


「ごめん、リズ。もうくたびれた。身体も痛いしね。話の続きは今度でもいいかな?」

「わかったわ。その、お大事に……本当に、ごめんなさい。怪我のこと」

 もう寝てしまったようで、彼からの返事はなかった。エリザベスはダスティの目をさまさないようにそっと病室を出る。


 扉のすぐ外には、パーカーが立っていた。

「お帰りになりますか。お嬢様?」

「……ええ、戻るわ」

 エリザベスは、パーカーの方は見向きもしなかった。

 懐中時計をあきらめるべきなのだろう。ダスティにもロイにも怪我をさせるような事態になってしまったのだから――けれど、迷う心を捨てることはできなかった。

 

メモに書かれていた日付までは、二週間。その間にどうするべきか決めなくては。エリザベスは、帰りの車の中でも上の空だった。

 屋敷に着き、玄関の扉を開こうとエリザベスの前に立ったパーカーは、珍しく厳しい声音で言い放った。

「お嬢様、これ以上、危険なことに首を突っ込むのはおやめください」

 返す言葉もなく、エリザベスはうつむく。自分のせいで何人にも怪我をさせた。それは否定使用のない事実だ。


「今回は、いったい何人が怪我をしたと思っているのです? あなたも怪我をしたではないですか」

「……それは、そうだけど」

「お嬢様」

「……わかっているわ。もう、この件には首をつっこまない」

 そんなに値打ちのある品ではない。他の人達がほしがっている骨とやらにも興味はない。ただ、あの時計にエリザベスがこだわる理由は一つだけ。

 

 ならば、エリザベスが諦めるしかないではないか。

「それでようございます」

 パーカーは微笑む。その笑みはとても優しくて――胸を突き刺されたような気がする。今日は何度、同じ思いをすればいいのだろう。完全に自業自得ではあるけれど。

 

「明日、またダスティのお見舞いに行くから。それは邪魔させないわよ?」

「……お供させていただきます」

「病室の中には入らないでちょうだい。せっかくダスティ・グレンと二人きりになるチャンスなんですからね!」

 顔の前に、ぴしりと指をたてて、エリザベスは宣言した。


 この件からは手をひくと言ったのだから、本当は彼に会いに行くべきではないのかもしれない。だが、まだ、聞いていないことがある。

「かしこまりました――その前にお嬢様。お仕事の電話が何本か入っておりました。お疲れのところとは思いますが、なるべく早くご確認を」

「――わかったわ」

 仕事をしていたほうが気分がまぎれる。パーカーが開いてくれた扉から中に入り、真っ先に仕事部屋へと向かったのだった。

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