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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第33章 森で出会った学者

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何かが色々とおかしい(後)

 出会った当初から怪しいところがあったコミニアヌスとアテリウスの2人について、ユウとトリスタンは長く接するほど更にその言動を訝しんだ。最初は他国の調査員ではと疑っていたが食事の態度からしてそうでもなさそうに見える。


 食べながら2人の様子を見ていたユウは自分が見知らぬ場所に転移したときとも違うと思った。更には世間知らずというよりも根本的に背景が異なるように見える。ただ、古代人のように断絶しているわけでもなさそうなのがより不可解だ。言葉の訛り方が中途半端なのも混乱に拍車をかけている。


 夕食そのものが終わると木製のジョッキを片手におしゃべりの時間だ。酒場の席は夕食時に入り始めてから急速に客が増えてきている。かなり騒がしくなってきていた。


 夜明けの森の中を歩いていたときのようにコミニアヌスが主にしゃべる中、女将の娘サリーがユウに近づいて来る。


「あら、エラの言う通りね。新しいお友達を連れてきてくれたんだ。嬉しいわ」


「サリー、エール3つちょうだい」


「ありがとう。すぐに持ってくるわね」


 機嫌良くテーブル席から離れてゆくサリーをユウは少しの間だけ見送った。次いでコミニアヌスへと顔を向ける。


「飲みきったみたいだから注文したけれど、まだ飲めるよね」


「うん、飲めるよ! 慣れると悪くないね!」


「コミニアヌスは普段何を飲んでいるの?」


「え? えーっと、ワインかな。ビールも飲むけれど」


「ワインなら僕も飲んだことがあるよ。あの葡萄からできているお酒、おいしいよね」


「そうだろう! 僕も好きなんだ!」


 一瞬挙動が怪しくなったコミニアヌスだったが、ユウの言葉に食い付いてワインの話を始めた。非常に知識が豊富なようで内容の半分もユウは理解できない。


 それでもいつになく騒がしい食事はとても楽しいものだった。いつしか全員が笑い合ってしゃべっている。


 楽しい夕食は長く続いたがそれもやがて終わりのときがやって来た。酒場の中はまだ盛況であったが、ユウたちは早めに食事を始めていたので席を立つ。


「それじゃ宿に行こうか。今晩は僕たちが普段使っているところに泊まってもらうよ」


「わかった、案内してよ!」


「コミニアヌス、うるさいからもっと声を抑えろ」


「でもここじゃこれくらいでないと聞こえないでしょ! 大丈夫、後で静かにするから!」


 酒場のうるささとはまた違った騒がしさを撒き散らしているコミニアヌスとアテリウスの2人を引き連れてユウは酒場を出た。確かに何かと言い合っている2人だが、安酒場街の路地では他の酔客も似たようなものなので気にならない。


 周囲はまだ完全に暗くはなっていなかった。空を見上げると雲のあちこちが朱色に染まっている。日没まであまり時間はない。


 貧民の道を西へと進んだ4人は宿屋街へと入った。路地を往来するのは大半が冒険者だ。酔っ払っている者や疲れ果てている者など様々である。


 その中に混じって4人が進んだ先には石造りの新しい宿屋があった。ユウとトリスタンにはなじみ深い宿屋『乙女の微睡み亭』だ。


 建物の中に入るとユウが受付カウンターへとまっすぐ向かう。


「アマンダ、戻って来たから鍵をちょうだい」


「はいよ。後ろの2人は見ない顔だね」


「この2人のために2人部屋をひとつ借りたいんだけれど、空いているかな?」


「大丈夫だよ。宿代はあんたらと同じでいいよ」


「いいよも何も、その値段が普通じゃないか」


「わかってないね。そう言った方が少しお得感があるだろう?」


 2人のための宿泊費を受付カウンターに置いたユウは苦笑いした。こういう言い方はジェナに似ていると感じる。もうひとつ鍵が出てきたのでそれも受け取った。


 振り向いたユウがアテリウスに鍵を差し出す。


「2人とも、今晩一晩はこの部屋で休んで」


「恩に着る。本当に助かった」


「部屋は僕たちの隣みたいだから一緒に行こう。ついて来て」


 重々しくうなずくアテリウスから目を離したユウは受付カウンターから離れた。廊下を歩いて部屋の前までやってくる。そうして2人に扉の前の場所を譲った。


 鍵を持っていたアテリウスが鍵を開けて扉を開ける。中は狭く、2人用の木製寝台が1台、採光用の窓の脇に木製の机と丸椅子が1つずつあるだけの簡素な部屋だ。


 呆然と立ち尽くす2人の脇から中へと入ったユウは木窓を開けた。もう日没まであまり時間がないせいか、室内はあまり明るくならない。


 ようやく我に返ったらしい2人は中に入った。ゆっくりと室内に目を向けてからコミニアヌスがつぶやく。


「これはまた、随分と簡素すぎない? ユウ、寝台はこれになるのかな?」


「そうだよ。一応シーツが敷いてあるけれど、足りないなら外套か何かを敷いたら良いからね。寝るときに被るシーツも同じだから」


「これって冬はどうするんだい? まさかこのままだなんて言わないよね?」


「変わらないよ」


「嘘でしょ」


 信じられないというようすのコミニアヌスがユウとのやり取りで再び黙り込んだ。あれだけ騒がしかった人物なだけに実に珍しい様子である。


 一方、動揺しているのはアテリウスも同じだった。こちらはトリスタンに声をかける。


「トリスタン、沐浴するための場所か施設はどこにあるんだ?」


「貧民街にはそんなものはないぞ。あるとしたら町の中だ」


「ちょっと待て、だったら、お前たちは普段どうやって沐浴しているんだ?」


「していないぞ」


「なん、だと。どうりで町全体が臭うはずだ」


 説明を聞いたアテリウスの顔から表情が抜けた。そのまま立ち尽くして動かない。


 その様子を見ていたユウは用便についての説明をしたらどうなるのだろうと思った。というより、この反応を見ていると、森の中でさまよっていたときはどうしていたのか逆に気になってくる。


 避けて通れないことなのでユウは2人を連れて裏庭へと向かった。そして、この場所が何をする場所でどう使うのかを説明する。すると、2人は意外に冷静な反応だった。野宿したときのことを考えると桶がある分文明的ということらしい。それでも顔をしかめていたが。




 ようやくコミニアヌスとアテリウスを部屋に入れたユウとトリスタンは自分たちの部屋に戻った。今日は単に魔物狩りをしたとき以上に疲れているので、扉を閉めた後の2人の顔には強い疲れが浮かび上がる。


 ユウは椅子に、トリスタンは寝台に座った。しばらくどちらも口を開かない。


 しばらくして、室内が暗くて何も見えなくなりつつあることにユウは気付いた。机の上にある蝋燭(ろうそく)に火を点ける。ぼんやりと部屋の中が明るくなった。


 再び椅子に座ったユウにトリスタンが話しかける。


「ユウ、俺は最初、あの2人を大陸西部の中央から来た調査員だと予想していたんだ。でも、さっきまで話をしていてそうは思えなくなってきた」


「僕も同じだよ。何て言うか、今まで出会った古代人みたいなところもあるからね」


「そう、それなんだよな。でも、こっちのことを全然知らないというわけでもなさそうだし、なんだか中途半端なんだ」


「都会の人たちや古代人でもないとすると、あの2人は何者なんだろう」


「背景がまったくわからないっていうのが気持ち悪いよな。悪い連中ではなさそうだが」


 害意があるようには見えないのがまたユウとトリスタンの困惑を助長させていた。特にコミニアヌスは子供のような一面がある。無邪気すぎるのだ。


 先程までの様子を思い返していたユウが口を開く。


「コミニアヌスは世間をよく知らない貴族の子弟みたいな感じかな」


「なるほどな。それだとまだしっくりとくる。そうなると、アテリウスはお付きの従者かそれに近い、いや、あいつ最初の頃、コミニアヌスのことをバカって読んで拳骨まで喰らわせていたよな。貴族相手にあれはありえん」


「腐れ縁だって言っていたよね」


「それと、アテリウスのあの浅黒さっていうのも珍しいな。あんな肌の色は見たことないぞ」


「南方辺境の人たちと同じだね。出身地があそこかどうかわからないけれど」


「この大陸にもあんな肌の色の人がいるのか」


「トリスタンと出会う前の一人旅で通った場所だから、知らないのも無理はないよ」


 浅黒い肌の人々の存在を教えられたトリスタンは黙った。少々意外だったようで一瞬目を丸くしていたが、すぐに元に戻る。


「とりあえず面倒は見たけれど、あんまり関わらない方が良い人たちかな」


「背景がわからないもんな」


「これ以上何か求めてくるようだったら、改めて話を聞くことにしよう」


「そうだな。しばらく厄介事は勘弁だ」


 立ち往生していることに同情したユウが一晩面倒を見たが、あの2人が抱える問題まで背負い込む気はなかった。なので、このまま何もなければ明日の朝でこの関係は終わりだ。


 どうなるかは明日の朝の対応次第である。

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言葉が通じて文化的にも差異が少ないから異世界人でも古代人でもなく未来人と予想
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