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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第32章 逃げる者と追う者

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途中での別離

 レラの町を出発したナサニエルの隊商は予定通りトレジャーの町へと到着した。そのままいつも通りフランシス商会本店へと入る。


 同行していたユウは町の郊外で軍馬から降りた。馬具を外して荷馬車に乗り込む。トレジャーの町では目立つ必要はないからだ。


 本店の停車場に入った直後、ユウはトリスタンに話しかけられる。


「内股の具合はどうなんだ?」


「まだ痛いよ。途中で薬が切れたのがね」


「皮はめくれていないんだな」


「うん、幸いそこまでひどくはないよ。ともかく、薬を買い直さないと」


「端から見ている限りだと、もう内股がこすれることはないんじゃないかな」


「だと良いんだけれどね。あ、停まった」


 停車した荷馬車から降りたユウとトリスタンは荷物を背負った。世話人に礼を言い、先頭の荷馬車へと向かう。ヴィアンとルパートの2人と合流してナサニエルと会った。向こうから声をかけてくる。


「騎乗はだいぶ様になったらしいな、ユウ」


「おかげさまで。後は内股の痛みが引いてくれるだけです」


「はは、すぐに治るさ。それじゃ、オレはここまでだ。今来た使用人に案内してもらえ」


 ナサニエルが隣に立っている使用人に目配せをした。すると、その使用人がヴィアンに一礼して歩き始める。ヴィアンを先頭に他の3人も後に続いた。


 応接室に案内された4人はヴィアンが座り、残りが背後に立って待つ。すると、男2人が入ってきた。1人はヴィアンと似た顔の男だ。もう1人の男が番頭と名乗り、ヴィアンと挨拶を交わす。ヴィアンと似た男は番頭の横に立ったままだ。


 それからはヴィアンと番頭が意見交換した。ヴィアンはこれまでの経緯を説明し、番頭は隣に立つ男フィリップについて語る。


 このフィリップという男は予想通りヴィアンの影武者だった。姿形は大体似ており、遠めで見ると区別が付かない。


「よくもこれだけヴィアン様に似ている者を探し出しましたな」


「多少の化粧は施していますがね。こちらとしましても都合良く見つけられたのは幸運です。何しろ2日前のことですから」


 家臣のルパートが感心すると番頭が得意気にその成果を強調した。


 次いで今後のことが話し合われる。とはいっても、やることは既に決まっているので確認でしかない。ヴィアンはこれからトレジャー辺境伯の屋敷へと向かい、ユウたち3人はフィリップと合流して明日アドヴェントの町へと出発するのだ。


 手はずに間違いがないことを確認すると番頭が使用人を呼びつけた。フィリップを含めたユウたち4人を客室に案内するためである。使用人がやって来ると最初にフィリップが動いた。


 そのとき、ヴィアンが立ち上がる。


「ルパート、しばしの別れだ。姑息な暗殺者を討ち取ってさっさと戻って来い」


「承知しました。ヴィアン様もご壮健でいらっしゃるよう願っております」


「私はいつだって元気だよ」


 声をかけられたルパートが神妙な顔つきでヴィアンに返答した。それをヴィアンが笑って更に返す。それから使用人の元へと歩いて行った。


 ヴィアンは次いでユウとトリスタンに顔を向ける。


「最後まで本当の名を告げられなかったのは残念だが、許してもらいたい。君たち2人の活躍のおかげで私は今まで生き残ることができた。この後の一仕事、是非成功させてくれ」


「はい、相手を何とか倒して生きてみせますよ」


「ここまで来たからには、絶対報酬を手に入れてみせますって、結構な額になっているでしょうからね」


「はは、そうだな。それは期待してくれて良いぞ。ソロモンにきっちり渡すよう命じてあるからな。2人の今後の活躍を祈っているぞ」


 楽しげに笑うヴィアンにユウとトリスタンはうなずいた。途中で別れるのは残念だが、仕事の都合上仕方ない。


 別れを済ませた2人が使用人の元へと近づいた。全員が揃うと使用人が歩き出す。それに従って4人は応接室から出た。


 客室へと案内された4人のうち、ユウとトリスタンは背負っていた荷物を下ろした。その間にルパートがフィリップに声をかける。


「知っているとは思うが、改めて名乗ろう。私は今ルパートと名乗っている。あの2人は黒髪の方がユウ、金髪の方がトリスタン、どちらも冒険者だ」


「フィリップだ。結構な前金をもらったが、そんなにヤバい仕事なのか? まぁ、影武者なんてろくなもんじゃないって知ってるが」


「金で動くのが悪いこととは言わないが、貴様、途中で逃げ出したりせんだろうな」


「残りのカネも家族に払ってもらう必要があるんでな。こっちは逃げられないのさ」


「結構。では、今回のことはどこまで知っている?」


「大したことは教えられていない。ここであんたらと合流して、西の果ての田舎町に行って、それで偉いヤツらしく振る舞うってことくらいか」


「貴様、演技はどのくらいできる?」


「現役の俳優だぜ、オレは」


「すばらしいな。では今からヴィアン様として振る舞えるよう指導しよう。ユウ、トリスタン、2人も手伝ってくれ」


「僕たち演技指導なんてできないですよ?」


「ヴィアン様に接するように相手をしてやってくれ。それで、おかしいと思ったところがあれば指摘するんだ」


 思わぬ形で役目を与えられたユウとトリスタンは顔を見合わせた。しかし、仕事である以上は従うしかない。


 以後、ルパートを中心にフィリップの演技指導が行われた。とは言っても、ヴィアンの立ち居振る舞いがどのようなものなのかという指摘を延々とするだけだ。技術面では本業が俳優であるフィリップの方がはるかに勝るので、素人である3人が指導できることは何もない。途中からはフィリップとは呼ばずにヴィアンと呼んで更に仕上げていく。




 翌日、4人は休養日を与えられた。しかし、実際のところは色々と忙しく動く回っている。一番大切な作業はフィリップの演技だ。ルパートの指導に熱が入る。


 ある程度本物のヴィアンに近くなったところで、客室の扉が軽く叩かれた。トリスタンが開けると使用人が立っており、アドヴェントの町へ向かうための商隊長との面会の用意ができたと伝えられる。


 向かった先は先程と同じ応接室だった。今度は番頭ではなく商隊長の商売人が立ち上がって一礼してくる。


 互いに自己紹介した後、明日からの打ち合わせが始まった。商売人の方も既に自分のやるべきことは理解しているので話は早い。軍馬を4頭引き連れ、日の出と共に本店を出発し、アドヴェントの町へ向かい、そのひとつ手前の宿駅で軍馬に乗った4人と別れることになっている。また、4人は護衛ではなく客人として同行することになっているので、荷馬車の護衛の仕事からは解放されるということだった。


 要求通りの回答に満足したルパートは商売人にそのまま準備を続けるように伝えた。それで打ち合わせが終わる。


 全員で客室に戻ると最初にしたことはフィリップ演じるヴィアンの演技評価だ。ルパートが最初に口を開く。


「あの感じで良いだろう。細かい粗はあるが、この短時間で身に付けたことを考えると良くやった。そのままで頼むぞ」


「はは、任せてくれ、ルパート。最後までヴィアンを演じきってやるさ」


「よく接している人でないと見分けがつきにくいと僕も思う」


「後は慣れなんだろうな」


 背後から見ていたユウとトリスタンもうなずいた。暗殺者がどの程度ヴィアンのことを知っているのかわからないが、これなら騙せるのではないのかと2人は考える。


 後は普段から演じ続ければ良いということで一旦演技指導は終わった。そこでユウはルパートに買い物へ出かける許可を求めた。騎乗訓練の際に使用した痛み止めの水薬と傷薬の軟膏を買うためである。


「薬を買いたい? そういえば、騎乗訓練で股ずれを起こしていたと言っていたな。まだ治らんのか」


「前の街道の旅の後半は薬を切らしていたから塗れなかったんですよ。だからまだ完治していないんです」


「それなら、ここで分けてもらえば良かろう。仕事のために必要なのだ。拒まれることはないはずだ」


 助言を受けたユウはすぐに使用人を呼んで事情を説明し、薬を分けてもらうことにした。更に先程面会した行商人にも薬をいくらか用意してもらうよう連絡してもらう。どちらの要求も通ったので安心した。道中も傷の心配をせずに済む。


 こうして慌ただしく休養日が過ぎ去った。翌朝、二の刻に起きた4人は出発の準備を整える。終われば停車場へ足を向けた。


 薄暗い中、停車場には荷馬車が何台も停まっている。その中から4人は昨日会った商売人を探し出した。挨拶をして荷馬車に乗り込む。日の出と共に視界が急速に鮮明となると隊商の荷馬車が次々と動き出した。


 フランシス商会本店の停車場を出た隊商が大通りを進む。他の商会の隊商と混ざり合いながらゆっくりと町の出口へと向かった。

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― 新着の感想 ―
新規キャラだけどフィリップ気のいい感じだからぜひ生き残ってほしいな
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