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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第27章 故郷への帰路

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討伐隊と盗賊団(後)

 バウニーの町からウォダリーの町までを結ぶ境界の街道で、盗賊が道行く人々を襲える場所というのは意外に限られている。街道の西側は大河である境界の川があるので渡れず、反対の東側もバウニーの町から2日目から4日目の辺りは中途半端に切り開かれているのだ。これはかつて開墾しようとしてその後放棄された跡である。もちろん視界が利くから盗賊稼業ができないというわけではないが、森という隠れ蓑があるのにわざわざ開けた場所から襲う理由もない。


 そうなると人を襲える場所は5日目辺りが最適である。6日目以降はウォダリーの町の開墾地が伸びてきているからだ。


 実際、盗賊騎士率いる盗賊団の被害もこの5日目辺りに最も集中している。たまに4日目辺りで襲撃をすることもあるようだがその回数はずっと少ない。


 では、なぜ今までこの盗賊団が放置されていたのかというと、襲われた隊商や旅人の大半が殺されて目撃情報が極端に少なかったからだ。通報されないかされても回数が少ないと領主は動いてくれない。


 しかし、さすがにバウニーの町の領主もウォダリーの町からの来訪者が途絶えるとその異変に気付く。何度か送った斥候のうちの1人が生還して報告したことで、ようやく重い腰を上げた次第だ。


 それが今回出発した討伐隊である。騎士の装備はきらびやかで、兵士の出で立ちも悪くない。暑さのせいで少々ばてているようだが、それ以外は立派なものである。


 この討伐隊のずっと後方に行商人と旅人からなる20人程度の集団がついてきていた。大きな荷物を背負ったのが行商人で、それ以外が旅人である。これを商機と捉えて一儲けと考えていたり何らかの理由で先を急いでいたりする者たちだ。


 また、更にこの集団よりもはるか後方に6人の小集団が街道を南へと歩いている。ユウたちだ。


 街を出発して既に4日が過ぎていた。これまでは何事もなく街道を進めている。毎日はるか先を歩く集団との距離を測りながらだ。近づきすぎると離れて歩いている意味がなくなる。


 夕方、ユウたちは先を歩く集団が止まるのを見定めてから進むのを止めた。この辺りになると森の端が街道にかなり近づいて来ているので、ユウが先頭になってその境界まで歩く。


「今日から盗賊の襲撃を気にしないといけないから、森の近くまで行くよ」


「とうとうですか。できれば勘弁願いたいんですけどね」


「盗賊に追いかけ回されたいのならどうぞ」


 明るい調子でユウが言い返すとヴィンセントが肩を落とした。その後は黙って歩く。


 やがて森の側までやって来た6人はそこで野営の準備を始めた。この際、ユウは虫除けの水薬を使用する。久しぶりの青臭い臭いに顔をしかめるが我慢した。そのおかげで飛び回る虫が寄ってこなくなる。トリスタンたちもユウに倣った。


 行商人たちが野営の準備をしている間、ユウとトリスタンは周囲に危険がないか確認した。盗賊の気配がこちらにあると計画が破綻するので少し森の奥に入る。日が暮れつつある時間なのでかなり暗い。


 周りを見ながらトリスタンがぼやく。


「こんなに暗いとおかしなものがあっても見つけられないな」


「森の奥に行くつもりはないから襲撃者がいないことさえわかれば良いよ」


「今晩襲ってくると思うか?」


「可能性はあるよ。盗賊団が街道を見張っていたら討伐隊を見逃すはずはないからね」


「昼間全員起きているときよりかは襲いやすいだろうしな。それはそうと、盗賊団が俺たちを襲うことは考えられるか?」


「可能性としてはある。でも、限りなく低いし、そうなるように行動しているよ。盗賊団が討伐隊の他にも獲物がいないか更に見張っていても、発見されるのは先を歩いている人たちだし、例え僕たちまで気付かれていても襲う優先順位は低くなるはず」


「3ヵ所を同時には襲えないということか」


「だと思う。あんまり人数が多すぎても盗賊稼業でやっていくのは難しいだろうしね。20人か30人、多くても50人はいないんじゃないかな。そうなると、僕たちまで手を回せないと考えているんだ。例え狙ったとしても、数人を寄越すくらいのはず」


「噂の盗賊騎士が混じってなければ、充分追い返せるってわけな」


「そういうこと」


 一通り周囲を警戒したユウが相棒に振り向いてうなずいた。


 野営地の安全を確認したユウたち6人は食事を始める。火を使った料理は今晩から3日間はしない。盗賊団に気付かれるようなことは控えないといけないからだ。


 その食事中にユウはヴィンセントに尋ねられる。


「今日からいよいよ隠れながら行動するわけですが、これなら盗賊団に見つからないですよね?」


「見つからないはずだよ。広く街道を警戒していた場合はわからないけれど、さっき森の奥を見た限りだとこの辺りにはいなさそうだったし」


「地の利は盗賊団にあるでしょうから疑い出すときりがないんでしょうけど、やっぱり不安は残りますよね」


「それは仕方がないよ。どんなに小さくても可能性はなくなってくれないし、意地悪な偶然があるかもしれないから。ただ、討伐隊だけでなく、先行する行商人と旅人の集団もいるから、襲うならまずあちらからだよ。何しろ20人くらいいるんだから」


「こんなちゃちな小集団は狙わないってことですね。それもそうだ」


 ようやく安心できたらしいヴィンセントが黙った。他の行商人と同じように食事を再開する。


 寄ってきてはすぐに離れていく多数の虫を不快に感じながら食事を終えると行商人たちはすぐ横になった。一方、ユウとトリスタンは片方が夜の見張り番として起きたままだ。冬とは違って夜の時間が短いのが救いである。


 1度ずつ見張りを務めた後、2度目の見張り番としてユウは起きていた。今は新月と満月の中間辺りなので晴れているとある程度視界が利く。森の端から街道までは距離があるものの、何とか見えるという程度だ。


 このまま何もなければ明日が勝負だなとユウが考えていると、街道側から何かがかすかに聞こえることに気付く。


「何だあれ? 人?」


 尚も街道を見つめていると南から北に向けて走る人影をユウがかろうじて捉えた。しかも1人ではない。急いでトリスタンを起こすと再び街道側に注目する。


 黙って走ってゆく者の後から声を上げて走ってゆく者の姿が現れた。声からすると盗賊らしい。


 隣で目を凝らしているトリスタンにユウは声をかけられる。


「もしかして、兵士か旅人が盗賊に追いかけられているのか?」


「行商人の可能性もあるけれど、そうだろうね。ということは、討伐隊は盗賊団に負けたんだ。奇襲されたのかな」


「これだけじゃわからないな。ともかく、ヴィンセントたちも起こしてくる」


 ぱらぱらと街道を北へと走ってゆく者たちをユウはじっと見続けた。そのうちヴィンセントたち行商人もやって来て一緒に眺める。


「トリスタンに討伐隊が負けたかもしれないと聞きましたが、本当ですか?」


「ここからじゃはっきりとしたことはわからないよ。盗賊らしき奴が他の人を追いかけているんじゃないかっていう想像から推測しただけだから」


「まさか討伐隊が負けるなんて。噂の盗賊騎士はそれほど強かったということですか」


「そうかもしれないね。ともかく、これから当面は大きな声を出さないように」


「わかっていますよ。わざわざ盗賊に見つかりたくないですからね」


 引きつった笑顔を見せるヴィンセントが小さくうなずいた。他の行商人たちも真剣な表情で同意する。


 その後も何人か街道を北へと走ってゆくのをユウたちが見かけた後、その流れが途切れた。森の小動物たちの騒がしさが目立ってくる。


 ユウが確認した限りでは、街道を走っていた者たちの数は大体20人程度だった。討伐隊の兵士とそれに行商人と旅人の集団の数が合計で70人程度だとすると少ない。逃走者を追いかける盗賊の人数を差し引くと更に半分程度になるはずだからだ。もしかしたら、どちらも奇襲されてほとんどが逃げられなかったのかもしれないと考える。


 もしそうであるならば、盗賊団はこの辺りを常時見張っている可能性が高い。その警戒網に前2つの集団は昼間に引っかかったのだ。そうなると自分たちはどうなのかとユウは考える。発見されていなければ問題はない。今後も見つからないように行動すれば良い。しかし、もし発見されていれば。


 色々な考えがユウの頭の中を巡る。今の安全がこれからも続く保証がまったくなくなった。進むにしても引くにしても大変なことになったと自覚する。


 不確かなことだらけになった現況だが、無闇に悩んで消耗するといざというときに動けない。そのため、トリスタンとヴィンセントたちに再び横になるよう伝える。


 その後はユウが別の異変を察知するため街道を監視し続けた。

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