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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第21章 鳴き声の山脈にある遺跡

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発見はあるにはあったが

 鳴き声の山脈の遺跡を調査始めた日の夕方、調査班として遺跡で作業していた者たちが野営地に戻ってきた。日中ほとんど何もなかった留守番組にとっては調査班の出発以来の大きな出来事だ。


 ちょうど見張り番から解放されたユウとトリスタンは帰ってきた調査班の様子を目にした。すると、やたらと浮かれているアルバート隊長を見かける。更にはあの無表情なダーレン特別隊員も機嫌良さそうにしていた。それに対して、人足と冒険者は誰もが疲れ果てている。しかも手や服が汚れていた。恐らく遺跡の調査を手伝わされたのだろうが、何をしたのかまでは判断できない。


 人足から話を聞くことを決めたユウは夕食後、調理器具の片付けを手伝いながら遺跡での出来事を聞いた。


 それによると、露出部分から遺跡内部に入ってすぐの部屋で行き止まりだったのでその部屋を調べると、ダーレンが魔法で秘密の入口を見つけたらしい。ところが、その入口は床から5レテムも上の壁にあって普通の方法では通れなかった。しかも、持ってきた梯子は3レテムの高さしかない。そこで、秘密の入口の真下に2レテム分の石や土砂を積み上げ、その上に梯子をかけることになったという。現在はその作業中で明日には終わる予定だそうだ。


 話を聞いたトリスタンが嫌そうな顔をする。


「これは行かなくて正解だったな」


「そうだね。遺跡には興味あるけれど、石や土砂を積み上げることまではしたいと思わないかな」


「これ、特別報酬って出ると思うか?」


「出ないと思う。石や土砂を積み上げる作業自体は調査に大きな貢献をすることじゃないだろうし」


「うわ、つまり日当に含まれるっていう解釈か。やっぱり野営地に残って正解だったな」


 相棒の言葉にユウは笑顔でうなずいた。


 その夜、前夜同様に冒険者たちが夜の見張り番をしたが、再び魔物の集団の襲撃を受けた。集団の規模は昨夜と同じくらいで魔物たちの種類も似たようなものである。数は相変わらず厄介だったが、前夜と同じ対処法が通じるのであれば戦うのは難しくはない。現に、あの荒ぶる雄牛(レイジングブル)も前回よりはましな戦い方ができていた。


 翌日、調査2日目は調査班の編成が変更される。まず、指導部はハドリー隊員とゴドウィン副隊長に変更されていた。ただの作業日なのでアルバート隊長とダーレン特別隊員は野営地で休むことになったのだ。次いで人足も昨日野営地で留守番をしていた者たちは交代で遺跡へと向かうことになる。そして、冒険者も荒ぶる雄牛(レイジングブル)に変わって熱い月(ルナカリエッティ)が調査班に入った。ユウたちは引き続き留守番だ。


 1日中どんな作業をするのかわかっているだけにこの日の調査班に参加した人足と冒険者の表情は暗かった。そのため、出発したときの足取りも重かった。


 この日の日中の見張り番は古鉄槌(オールドハンマー)荒ぶる雄牛(レイジングブル)である。なので、ユウとトリスタンはキースたちと交代で仕事をこなしたが、関わり方は呼び方がよそ者から田舎者に変わっただけで後は同じだった。


 空が朱くなり始めた頃になると調査班が戻って来る。作業が終わったので少し早めに帰ってきたとのことだった。


 夕食後、ユウはいつものように調理器具の片付けを手伝いながらジャクソンと話をする。


「あっちは大変だったみたいだね」


「そうなんだよ! 朝からずっとひたすら石や土砂を集めては積み上げる作業をずっと繰り返していたんだぞ!」


「やっぱり野営地に残った方が正しそうだなぁ」


「オレもそう思う。でもなんでユウたちはそのままだったんだ?」


「これは推測になるんだけれどね、恐らく僕のパーティが2人だけだからだと思う」


「それが理由? 確かに他の冒険者パーティはみんな4人だけど」


「遺跡で作業をさせるなら人の数は多い方が良いから4人組パーティを連れていく方が好都合だし、野営地を守る冒険者の数は4人だと少ないけれど8人だとちょっと多いんだ。だから、僕たち2人は都合の良い端数として扱われているんだと思う」


「えー、なんだかずるいなぁ」


「そうは言われても、たまたまそうなっただけだし」


 ジャクソンにじと目で見られたユウは苦笑いした。今は何を言ってもずるくなるので黙る。


 夜になると再び夜の見張り番を冒険者が交代しながらこなした。3度目ともなると魔物の集団が同じ頃に襲ってくることに全員が気付く。遺跡が魔物の発生に関係するのならば時間が一定という仮説が成り立った。


 調査3日目、調査班の編成は初日に戻される。この日は作業ではなく調査が実施されるためだ。再び遺跡に向かうアルバート隊長は元気いっぱいに、ダーレン特別隊員は機嫌よく野営地を出発した。


 日中に襲いかかって来た魔物を撃退するという多少の波乱を経たユウたちは、夕方に調査班が戻って来たのを出迎える。この日はアルバート隊長やダーレン特別隊員がかなり興奮していたのが印象的だった。


 再び夕食後の調理器具の片付けを手伝ったときにユウはジャクソンから話を聞く。


「今日って何か発見があったらしいけど、何が見つかったの?」


「5レテム上に秘密の入口っていうのがあるって知ってるだろ? あの奥に魔法陣っていうのがあったそうなんだ。オレは見てないけど」


「何の魔法陣なの?」


「知らない。隊長たちもわからないらしいんだ。でも、すごい発見だってみんな騒いでたな。調査を延長したいってあのダーレン特別隊員が盛んに言ってた。あんなに興奮する人だったなんて思わなかった」


「それじゃ、明後日以降も調査が続くの?」


「無理だよ。食べ物がないから。やるなら1回町に戻らないと」


「だったらまたここに来るのかなぁ」


「アルバート隊長は乗り気だったし。そうなるんじゃない?」


 指導部とは裏腹に単に手伝わされているだけのジャクソンはいつも通りの態度だった。そもそも遺跡や魔法陣の価値などわからないので興奮のしようがないというのもあるだろう。


 その日の夜、再び同じ頃に魔物の集団が襲ってきた。雲がほとんどない満月の夜なので視界が利くのはありがたい。ただ、昼間の作業の疲れからかユウとトリスタン以外の冒険者は精彩を欠いた。今までと同じ方法が通用するので経験で体力不足を補えた感じだ。


 調査4日目、最終日である。調査班の編成は昨日と同じだ。指導部は意気揚々としていたが人足と冒険者は表情に疲れが表れている。


 この日はジャクソンが野営地に残っていた。例によって休みが合えば雑談をする。


「はぁ、今日は留守番で良かったよ! もう遺跡には行きたくないね!」


「石や土砂を積み上げる作業がよっぽど堪えたみたいだな」


「調査の日だって大概だったよ。魔法陣のある部屋に行くにはあの5レテム上にある秘密の入口を通らなきゃ行けないんだぞ? 毎回あの梯子を登ったり降りたりするのは面倒なんだ」


 不満を口にするジャクソンにトリスタンが苦笑いした。すると、食ってかかられる。


「そんなのんきでいられるのはずっと野営地にいたからじゃないか。1回遺跡に行けばいいんだよ。そうしたら、オレたちの苦労がわかるってもんだ」


「それは勘弁願いたいな。正直、この野営地であんたらの話を聞いているだけで充分だから」


「ずるいなぁ、ほんとにずるいよ。そうだ、ゴドウィン副隊長にトリスタンたちが遺跡に行けるようお願いしてみよう」


「それは絶対やめてくれ。本当に行かされかねないんだから」


 途端に真顔になったトリスタンがジャクソンに迫った。心の底から嫌なことがわかる。元々ユウに付き合っているだけなのだからこういう態度になるのも仕方がない。


 そのユウは2人の話を聞きながらぽつりと漏らす。


「今日は何か新発見があるのかな」


「どうだろうね。あったらアルバート隊長やダーレン特別隊員が興奮してるんじゃないかな。あの2人、特に態度に出やすいみたいだから」


「そうだろうね。もしある程度のことが今日わかったら、もういいかな」


「何が?」


「僕、元々この遺跡のことを聞いたときにちょっと気になったからこの先遣隊に参加したんだ。でも、どうせ全部を知ることはできないだろうから、ある程度のことが聞けたらそれで終わりにしようかなって思っているんだよ」


「そっか。次もあるならユウたちにも来てほしいんだけどな。色々と手伝ってもらえるし」


「便利屋扱いかぁ」


「いいじゃない。オレたちだってちょこちょこと色々してあげてるんだから」


「そうだね。何にせよ、今日の結果次第だよ」


 頼りにされていることを嬉しく思いながらユウは返答した。ともかく結果待ちである。


 最終日の夕方、調査班の者たちが戻って来た。アルバート隊長やダーレン特別隊員に昨日のような喜びはない。


 その後、帰路分の食料しかないことを理由に翌日から撤収することが決まる。


 こうして、遺跡調査先遣隊の調査は終わった。

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