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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第21章 鳴き声の山脈にある遺跡

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鳴き声の山脈の遺跡について

 『速き大亀』号がフォテイドの町に入港した翌日、ユウとトリスタンは下船した。充分な報酬をもらった2人は三の刻の鐘が鳴ると共に港を歩く。周囲では人足と船員が忙しく荷物を運んでいた。


 ゆっくりと歩きながらトリスタンが周囲を眺める。


「普通の港に見えるんだけどな。みんなそんなに気性が荒いのか」


「全員が喧嘩っ早いってことはいくら何でもないんじゃない? でも、あんまり見過ぎるのは良くないらしいね」


「さすがは半商半賊の町ってところか」


 炊事担当の老船員の話をユウから聞いたトリスタンが少し難しい顔をしていた。周囲を往来する人々にいつ襲われるかわからないと不安になって疑心暗鬼に陥っているようだ。


 港から出た2人は町中へと入る。この町には城壁がないので出入り自由なのだ。道の両脇の建物が商店や住宅へと変わる。


 その建物の中に冒険者ギルドがあった。石造りの小さい建物である。中に入ると冒険者が何人かいた。雰囲気は悪くない。


 受付カウンターに立ったユウは受付係の職員に声をかける。


「おはようございます。昨日この町に来たばかりなんで色々聞きたいんですけれど良いですか?」


「お、新入りだね。いいよ」


「船の護衛兼船員補助の仕事はありますか?」


「あるよ。セリド海沿岸の都市行きの仕事なら大体いつもあるね」


「大陸北部や東部辺境に行く船の仕事は?」


「こっちにはないな。この町の船は一旦大陸東部のセリド海沿岸で荷物を積んでから他の町に向かうからね。直接大陸北部や東部辺境に行く仕事がほしいならチュアの町に行くといいよ。あっちはその2つを結ぶ中継拠点の港町だから何かしらあるはず」


 気軽な態度で答えてくれる受付係の回答を聞いたユウとトリスタンは驚かなかった。既に船で聞いた話と一致しているからだ。


 続けてユウの隣に立つトリスタンが受付係に声をかける。


「船じゃなくて陸の仕事はどうなっているんだ?」


「港の人足の仕事が中心だね。島じゃいつも人足が不足してるから常時依頼があるんだ」


「冒険者らしい仕事じゃないな」


「はは、確かにね。でも、もうひとつの方は冒険者らしいよ。鳴き声の山脈の魔物を駆除するという仕事もあるんだ。ここ何年かはこっちの仕事が多くなったかな」


「駆除の仕事ということは、魔物の一部分を切り取って持って帰って換金するわけか」


「その通り! 知ってるってことは、他の町でそういう仕事をしたことがあるんだ」


「まぁな。で、その切り取った部位はここに持ってきて換金するわけだ」


「待って、さすがにそれは止めて! このギルドの隣に部位換金所があるからそこにもっていってくれ。木造の建物があったろう?」


「ん? そういえば何かあったな」


 相棒が首を傾ける横でユウは冒険者ギルドの隣にあった木造の粗末な建物を思い出した。かなり年季の入った木製の建物だったので掘っ立て小屋と言っても良いくらいだ。


 黙る2人に対して受付係が話を続ける。


「隣の部位換金所に倒した魔物の部位を持って行けばカネに換えてくれるよ。値段はあっちの担当者に聞いてくれよ。オレはわからないからね」


「1日でどのくらい稼げるか教えてもらえるか?」


「それもあっちで聞いて。こっちで取り引きしてるわけじゃないからわからないんだ」


「それじゃ質問を変えよう。生活できるくらいには稼げるのか?」


「稼げるんじゃないかな。人足の仕事をしないと生活できないっていう話は冒険者から聞かないし」


 横で話を聞いていたユウは小さくうなずいた。トリスタンに顔を向けられたので自分から話しかける。


「トリスタン、とりあえず生活費は稼げそうだね」


「そうだな。俺の故郷の仕組みと同じなんだと思う。とりあえずやってみてもいいんじゃないか? 生活できるくらい稼げるんなら滞在日数は気にしなくてもいいだろうし」


 自分たちでもやっていけそうなことを確認したユウは鳴き声の山脈での活動に前向きになった。次いでより具体的な質問に移ってゆく。


「この町から鳴き声の山脈って歩いてどのくらいかかるんですか?」


「麓なら半日くらい、山脈に入るなら1日くらいだよ。魔物がたくさんいるのは山の中で麓にはあんまりいないって冒険者からは聞くね」


「魔物の強さはどうですか? 他の冒険者は苦労していたりしますか?」


「厄介なのがいるというのは聞くね。例えば、大鬼(オーガ)岩巨人(トロル)なんかは代表的かな。他にも白骨体(スケルトン)もよく出るとは聞くかな」


「随分といろんな魔物が出てくるんですね」


「そうなんだ。前はそんなことなかったんだけど、4年ほど前から今まで見かけなかった魔物も姿を見せるようになったんだよ」


「どうしてそんなことになったんですか?」


 その質問をユウがしたとき、受付係が一瞬迷いを見せた。そして、わずかに難しい顔をしてから軽く肩をすくめる。


「まぁいいかな。どうせみんな知ってることだし。3年程前に見つかった遺跡が関係してるかもしれないって話なんだ」


「遺跡、そんなのが見つかったんですか」


「そうなんだよ。当時、魔物を駆除するために山脈に入った冒険者パーティが、この町から見て山脈の反対側にそれがあることをたまたま発見したんだ」


「今まで見つかっていなかったんですか」


「元々は埋もれて見えなかったみたいだよ。そのパーティの証言だと、土砂が崩れて遺跡が見えるようになった感じだったらしい。それで、その遺跡の壁が一部崩れている場所があって、そこから中に入れたそうなんだ」


 なかなか夢のある話を聞いてユウもトリスタンも目を輝かせた。遺跡には色々と複雑な感情を抱くユウだったが、世界中のいろんな物事を見て回りたいというだけあって好奇心は強い方だ。こうやって具体的な話を聞くとより興味を強く惹かれる。


「それで、中はどうなっていたんですか?」


「確か、入ってすぐの場所に天井の高い部屋があって、通路らしいものは土砂に埋まって先に進めなかったんだっけ。だから調べられるところはほとんどなかったそうだよ」


「あーそれは」


「ただ、部屋の中はたくさんの魔物の死体や骨で床が見えないくらい埋め尽くされていたらしい」


「え、なんですかそれは」


「さぁ、オレが知るわけないよ。それで、そのパーティは色々と探してめぼしいものがないとわかって引き上げてきて、ギルドに報告したことでオレたちも知ったってわけさ。でも、問題はここからなんだ」


「ここからなんですか?」


「この噂はすぐに広まってね、別のパーティがオレたちもってそこへ行ったんだ。それで調べても何も出てこなかったから、その近くで一晩野営して帰ろうとしたらしい。そのとき、大量の魔物に襲われて危うく全滅しかけたそうなんだ」


「遺跡から出てきたんですか?」


「生き残った連中はそう言ってる。で、別のパーティがまた行ったそうなんだけど、そのときはたくさんの白骨体(スケルトン)に襲われたらしい」


 随分と危険そうな遺跡に思えたユウは顔を引きつらせた。トリスタンは嫌そうな表情を浮かべている。できれば行ってみたいと思っていたが考え直す。


 話はここで終わりだろうと思ったユウが口を開こうとした。そのとき、受付係は更に言葉を続ける。


「それで、さすがにこれはまずいとギルドの偉い人たちも思ったらしいね。海の向こうにある都市の大学にこの遺跡を調査してもらうよう依頼したんだ」


「え、そんなことをしたんですか」


「そうなんだ。1年くらいだったかやり取りしたそうだよ。それで、最近やっとその人たちがやってきたんだ」


「調査隊か探検隊みたいなものですか」


「うん、そんなのだよ。やって来てすぐに冒険者の募集をして、確か昨日くらいに募集を締め切ったかな。興味があるんだったら惜しかったね。わずかの差で応募できなかったわけだ」


 ようやく話を終えた受付係に礼を述べたユウはトリスタンと共に打ち合わせのテーブル席に座った。その表情は何とも微妙なものである。


「ユウ、思ったよりも危なそうな遺跡みたいだな」


「安全な遺跡なんてそもそもないだろうし、あっても大学の偉い人が調べる価値なんてないと思うよ」


「まぁそうだな。それで、これからどうする?」


「少なくとも遺跡には近寄れないよね。危ないっていうのもあるんだけれど、調査隊か探検隊の人たちに先回りして調べるのはちょっと」


「こういうのは普通早い者勝ちなんだけれどな」


「冒険者ギルドが正式に依頼を出した人たちの先回りをするのはさすがにまずいでしょ」


「そりゃまぁな」


「とりあえず、一休みしてから魔物の駆除をやってみようよ」


 調査隊がどんな結果をもたらすのかを見届けてみたいという思いがユウにはあった。すべてが公開されることはないだろうが、いくらかの事実を知ることができるかもしれない。


 ユウはあのおしゃべりな受付係に期待した。

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