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冒険者の万華鏡  作者: 佐々木尽左
第13章 町の外での場外乱闘

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アディの町の中(中)

 宿泊場所を確保したユウは宿を出た。次は当初の指示である観光だ。問題は町のどこをどの順番で巡るかである。足の赴くままというのも悪くないが、これは仕事でもあるので二度手間はなるべく避けたい。


 方針の1つとして、ユウは歓楽街は最後に回ることにしていた。表面上の理由である参加できる冒険者パーティを探すふりをするためにも、冒険者がたくさんいる夕方以降に向かいたいからだ。そうなると、自然と反対側に足が向く。


 宿屋街の路地を歩いて大通りに出たユウは東へと枝分かれして伸びている大通りに入った。通りの南側は各建物が大きい宿屋が連なっており、北側も大きな建物が並んでいる。出入りしている人やその前に停まっている馬車などから商会の建物ということがわかった。平民の中で成功した人々であり、町の政治にも影響力がある商人の店だ。


 大通りをゆっくり歩きながらユウは周囲に顔を巡らせた。通りの真ん中を馬車や荷馬車が往来し、両端を使用人や人足たちが行き来している。歩いている人の中に裕福な人を見かけないのは、たまに馬車を乗り降りしている人を見れば一目瞭然だ。そして、冒険者の姿がまったくない。周りに人はたくさんいるのにとても心細かった。


 ある程度進むと大通りの南側の風景が宿屋から倉庫へと変化する。町の戦略物資や商人の商品などが保管されている場所だ。冒険者から買い取られた魔窟の魔石や出現品もここで保管されているとユウは聞いたことがあった。


 やがて大通りは南へと折れ曲がっていたのでユウもそちらへと足を向けたが、すぐに立ち止まらざるを得なくなる。何と城門の手前にあるような検問所が(しつら)えてあるのだ。列に並んでしばらく、順番がやって来て門番と対する。


「次、ってなんだ。どこの家の雇われ者だ?」


「家ですか? 何の話です?」


「迷子か。ここから先はこの町の大商人様とそのご家族が住まわれている場所だ。通れるのは関係者だけなんだよ」


「そうなんですか。町の中ってどんな場所なのかって見て回っていたんですが」


「もしかしてお前、最近町の中に入ってきたばかりの冒険者なのか?」


「はい、今朝入ってきました」


「新入りかよ。冒険者なら魔窟(ダンジョン)に入ってろよな。3階で活動できるからってどこにでも行けるわけじゃないんだぞ」


「そうですか」


「そうなんだよ。さぁ帰った帰った。後ろのヤツの邪魔だ」


 軽く突き飛ばされたユウは通りの端までよろめきながら退いた。すると、順番待ちしていた次の使用人が前に出て簡単な受け答えの後に検問所の奥へと進んでいく。


 検問所の脇でその様子を眺めていたユウはどこか懐かしい悲しさを覚えた。故郷の町でかつてこれと似たようなことを経験したことを思い出す。


 このままこの場所にいてもつらいだけなのでユウは踵を返した。やって来たときよりも沈んだ気持ちで宿屋街にまで戻る。


 大通りの三叉路にたどり着いたユウは気持ちを入れ替えて北に進んだ。通りの東側に商会の建物、西側に宿屋の建物が連なっていたが、すぐに商館と小さい商店に変わる。


 西側に見えた商館は商人ギルドの施設だ。町の外の商用関係者との会合や宿泊に利用されている。商人はもちろん、商人ギルドに入会している者ならば誰でも利用できる施設だ。


 その洒落た感じのする3階建ての建物を見たユウは懐かしい気持ちになった。かつて故郷である町の中で働いていた頃、何度か入ったことがあるのだ。当時の雇用主によると各町の商館は規模は違っても中は基本的に同じだと説明してくれたのを覚えている。


「見た目もそんなに変わらないや。あの話は本当だったんだ」


 思わず立ち止まったユウは商館の建物を見上げた。大通りの端でしばらく感慨にふける。


 ようやく満足したユウは次いで反対側へと向き直った。東側に連なるのは日用品や各種道具を売っている商店だ。通りに向かって開かれた店内の店棚には一般の町民が必要とする日用品や外からやって来た旅人に必要な道具などが並べられている。


 冒険者に対する品物は少ないものの、日用品などを身近に感じているユウは1軒ずつ中を覗きながら歩いて回った。貧民の市場はもちろんのこと、貧民の工房街の品物よりも質は良さそうに見える。


 そうやってゆっくりと歩いていると、東側から急に日差しが差し込んできたことにユウは気付いた。顔を向けてみると商館の建物が途切れて広く空けた場所が広がっている。町の中央広場だ。月に何度か開催される市場や領主からの布告などがある場所で、周囲には町の中心となる施設が並んでいる。


 広場に入ったユウは商館の近くからその風景を一望した。中央広場の南側には大通側に商館、奥に商会が並んでいる。東側に目を向けると町の行政や司法を担当する庁舎が見えた。その建物は貴族好みの華美な装飾で彩られているが、地下には罪人を収容する牢屋があるという話なので町民はあまり寄りたがらない。


 そこまで見たユウは中央広場の西の端に沿って歩き始めた。広場を往来する人影はあまり多くない。


 庁舎の北側には大きくはないが立派な建物が並んでいる。ここは騎士や兵士などの軍属が住む場所だと老職員に教わったことがあった。貴門周辺で貴族居住区の入り口を固め、戦時は軍の主力となる人々だ。


 北東から北に折れ曲がって伸びる大通りを挟んで西側には立派な神殿が並んでいる。この辺りにはパオメラ教の有力宗派の神殿が競うように建っていた。ただ、各宗教の一般町民が通う小さな神殿は町の各地にも点在しており、この立派な神殿群にはあまり寄らないと城外神殿の知り合いからユウは聞いたことがある。尚、モノラ教の拠点であるアディ教会は町の北西部にある住宅街に隣接した宗教地区にあるそうだ。


 次いで中央広場の西側に顔を向けると神殿の集まる場所の南側に立派で厳かな雰囲気の重厚な建物があった。ギルドホールだ。領主に認定されたギルドが1ヵ所に集められ、それぞれのギルドに部屋が与えられている。


「ああ、ここもあんまり変わらないなぁ」


 かつて故郷の町のギルドホールであったことをユウは思い出した。昔は随分と悲しんだものだが、今は悲しい思い出という程度まで落ち着いてきている。


 冒険者ギルドの本部もあるギルドホールから目を離したユウはそこで立ち止まった。そのとき神殿の奥から大きな鐘の音が鳴り響く。日の高さからして四の刻の鐘だ。町の外とは違ってはっきりと聞こえた。


 自分が空腹であることにユウは気付いた。懐から取り出した干し肉を囓る。良い行いではないが冒険者になってからは気にならなくなった。


 干し肉を噛みながら次はどこに行こうかとユウは迷う。これからしばらくは町の中を延々とぶらつくのだ。どこから行っても構わない。


 口の物を飲み込んだユウは北に足を向けた。ギルドホールの脇を通り過ぎて神殿の集まる場所に近づく。


 大通りに面した神殿はいくつもあるが、その中でもひときわ大きい神殿があった。手入れが行き届いているきれいな3階建ての建物である。パオメラ教の各宗派が合同で運営する中央神殿だ。町に対する庁舎のようなものだとユウは聞いたことがある。正式名称は中央総宗派神殿だが、城外神殿ができたこともあって城内神殿と呼ばれることが多い。


 近年モノラ教の教会が町の中に出来て信者が減ってきているのが問題だとユウも聞かされていたが、とてもそんな風には見えなかった。


 神殿の集まる場所に入るとまた様子が一変する。一般の町民があまりいないので往来する人々は灰色のローブを身にまとった信者が大半なのだ。


 干し肉を食べながらユウは周囲を眺める。


「うわ、これは確かに近寄りにくいな」


 宗教にそれほど関心がないユウにとって周りが信者ばかりというのは落ち着かなかった。城外神殿の中も似たような感じなのだが、この町の中の地域は更に居づらいのだ。もっとも、今のユウは干し肉を囓りながら歩いているので仕方がない面もあるが。


 ともかく、ユウは他の場所に比べて足早にこの場から立ち去ろうとした。西へ西へと進んでいく。すると、周囲の神殿とはまったく違う建物を目にした。一瞬住宅街に抜けたのかとも考えたがそうではない。


 それは手入れが行き届いたこぢんまりとした建物だ。神殿に比べると小さくささやかといって良い。そこに黒色のローブの者たちが出入りしている。


「ここがアディ教会なんだ」


 それがモノラ教の教会だと知ったユウは少し目を見開いた。神殿とは違って一般の町民もよく出入りしているのを知る。


 驚いた様子のユウだったがすぐに我に返ってその場所を離れた。今は避けるべき建物だからだ。とりあえず、どこにあるかわかっただけでも良しとする。


 教会に背を向けたユウはそのまま住宅街へと入った。

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