傭兵の仕事
「IDを確認した。ようこそキャプテンアナスタシア、クルーメリナ。私はこの艦内で部隊長をしているアルマ、これより我ら歩兵部隊が船内を臨検させてもらうが問題ないかね?」
「あ、はい」
「はー、美人さんですねぇ」
「…………」
メリナの反応に表情をピクリとも動かさなかった俺は偉いと思う。
うん、船のハッチをあけて降りたらいろんな二足歩行種族がいた。
混成連隊というやつだろうかと思ったところで前に出てきたのがリトルグレイだった。
そう言えばそんな種族もいるって言ってたなぁと思いつつ、美人かどうかと言われても俺にはわからない。
というかリトルグレイ並べられても見分けがつかないので、部隊長としてちょっと豪華な制服着ているのがありがたいレベルである。
他には虎みたいな見た目の人とか、羽が生えてる人とか、目が三つある人とか色々いたが深くは考えない。
しかしこうしてみると知的生命体というのは二足歩行に進化するものなのだろうか。
統計的にはそうなるのかもしれない。
あるいは俺も、彼等も認知していないだけで不定形の生物や四足歩行の生物にも知的生命体はいるのか。
……代表例は宇宙怪獣だが、あいつらの中には知性がありそうな見た目しているのもまぁいるんだよな。
それこそ巨人の如きでかいマッパの何かとか。
うん、やめよう。
考えても仕方のないことだってある。
宇宙は理不尽な場所、それでいいじゃないか。
じゃないとこっちの身も精神ももたない。
「ふむ、ずいぶん奇麗な船内ですね」
あー、なんだっけ?
アルマさん?
艦内の歩兵部隊隊長の。
その人が物珍し気に船内を見て回る。
言うほど面白いモノもないし、ある程度奇麗に片付けてそれなりに住み心地を良くしているだけなんだがな。
「そんなにですか?」
「えぇ、今まで臨検してきた船はどれも……言葉を選ばないのであれば散らかり放題の汚し放題といった感じでした。内装も客船とまでは言いませんが整っている。生活に不便の無い奇麗な船です」
「あー、そういうことか……」
「どういうことですか?」
ポロッと漏らした感想にメリナとアルマ、そして歩兵部隊の皆さんの視線が集中した。
「えーと、少し長い話になるが……」
「構いませんよ。せっかくなのでお聞きしたいです。傾注!」
わぁ、傾注とかやめてほしいなぁ……。
そんな大した話じゃないのに。
「えっと、傭兵の仕事って言うのは何種類かあるのは知っていると思うけどメインとして取りざたされるのは今俺……私がしているような宇宙海賊や宇宙怪獣狩りですよね」
その言葉にうなずく一同。
「ただこれって費用対効果が微妙なんですよ。云万もするミサイルや爆弾といった必要経費、相応の性能を持ったレーダーやセンサー系、光学ディスプレイに照準器やらで初期投資が馬鹿にならないのもある。そうなるとどうしても傭兵というのは狭き門になってしまう」
「でもいっぱいいますよね。国家作れるくらいには」
「そう、だから人しれない仕事というのが結構あるんだ」
俺の言葉にアルマと歩兵部隊の人達の視線が鋭くなった……気がした。
いや、少なくともリトルグレイの表情とか読めんし、歩兵部隊の人達も獣顔とか戦闘用のアーマー着こんでて顔が見えなかったりするから。
ただ少なくとも空気が張り詰めたのは感じた。
「そりゃ中には後ろ暗い仕事もあるけど今回は通常営業、つまり一般的で模範的で法に触れない仕事の話ですよ。軍隊だってドンパチだけじゃなくて書類仕事もあるようにね」
俺の言葉に納得したのか、軽く頷いて続きを促してくるアルマさん。
「例えば荷運び、これは軍隊ならおなじみだと思うんですがどこぞの星系からしか産出できない物品を運んでくれという場合ですね。軍の補給なんかにも関わってくるので」
「そうですね。そういう仕事を引き受けた傭兵の方々とは面識があります。物品の扱い如何でその後の付き合いを考えますが」
「似たような物で要人護衛や人員運搬、前線から偉い人や負傷兵を後方へ送り届ける仕事もありますよね。ワープをまたいでコロニーからコロニーへというのもある。中には商人もいますが」
「あぁ、そういう仕事もありますね」
「で、お聞きしますが仮に傭兵に運ばれるとき汚い船内とそれなりに整頓された船内、どっちで過ごしたいですか? それに物品の扱いに関しても」
「無論整頓されている方が望ましいですね。なるほど、そう言う事でしたか」
理解してくれたらしい。
つまりは人や物を運ぶにしても船内が散らかっていると顰蹙を買う事になりかねないのだ。
ある程度は整頓しつつ、それなりに住みやすい環境というのは傭兵としての威厳にも関わる問題である。
中には荒くれ者として振舞うあまり、生活も宇宙海賊のような状態になっている奴もいるだろうけれど。
「傭兵を知りたければ身なりを見ろ、仕事ぶりを知りたければ船内を見ろ、腕前は前に出しておけが鉄則です」
「おや、服装もですか?」
「えぇ、今の仕事の話には関係なかったので言いませんでしたが個人が所有する船や、旅客船で隣に座って護衛してほしいという依頼もありますからね。身なりを整えている傭兵はそういう仕事も引き受けているという事です。無論威圧感を出して守っているぞと思わせるのも手段なので一概には言えませんが、少なくとも整った身なりをしていればわきまえているという事です」
「面白い話が聞けました。なるほど、思えば良い運搬をしてくれる傭兵の船は思い返してみればですが整理整頓が行き届いていたようにも思えます」
「これも一概には言えないんですけどね。船の所有者であるキャプテンが把握していれば十分というパターンもあるので。ただ船内が散らかっている奴を、少なくとも私は信用しません」
「ちなみにですが船を買ったばかりの新人なんかも同じようにきれいな船内だと思うのですが、その辺りの見分け方はどういったものがありますか?」
「そういう手合いの場合はやはり身なりですね。あとはこういう物があるかどうか」
指差したのはフードメーカーや時計である。
ぶっちゃけ時計はほぼ飾りと言ってもいいが、それでもあると役に立つのだ。
スマホが普及して、スマートウォッチも普及してなお時計が廃れない理由である。
「フードメーカーはまぁ買えるでしょう。それでも質が低いのが基本となってくる。それに時計のような無駄な品は置けないでしょう。安いとはいえ余計な出費ですし、素人からすればそういう物を置く理由がわからないでしょう」
「つまり……フードメーカーの質と船内の様子でおおよそ傭兵としての力量がわかると」
「本当に目安でしかないですよ? まぁそれでもまともな傭兵か、ただのごろつきかは判別できます。ただし傭兵ギルドじゃそこまで教えてくれないのでこの辺は経験から学ぶしかない。どんな仕事をしてきたかによって差が出るので」
「それでもいいお話が聞けました。とても勉強になります」
「それならよかった。では臨検の続きをしてください。あ、機関室は同行させていただきます」
「それはもちろん。ではまずそこから済ませてしまいましょう」
ふぃい、なんとか乗り切れたぜ。
ゲーム内では船内の調度品とか、そういうので要人運搬依頼を受けられるかどうかが決まっていた。
要するに船のグレードとか関係なく、最安値の船でも相応に稼げる仕事をこなそうとした際に必要なテクニックだな。
粗野な船内よりも調度品とかがある船内の方が生活ランクというのが上昇して、要人護衛の仕事が受けやすくなるというしようがあったんだ。
結果的にみんなどんなに強い船だろうが、狭い船だろうが、生活空間はめっちゃこだわってたな。
まぁある意味ゲーム内ではメインとなる家でもあったからだけど。
……それをロストさせるようなイベント組んだ運営は許してないからな?




