オチがついたよ
「それで、どうするよ」
「どう、とは?」
察しの悪い女だな……。
レナは白目向いてまだぶっ倒れてるし、メリナはもう知らん顔だ。
「この女を引き取るかどうか。こっちは別に渡したところでどうという事は無いんだが、ヘパイストスとしては色々気になる所だろう。逆に安全という意味じゃここで見逃すのが正しいんだが軍人的に問題あるわけだし」
見てしまった以上それを無かったことはできない。
肉親の情があったからこそ、この軍人さんは今後のキャリアと家族の命を天秤にかけなければいけなくなったわけだ。
だから煽れば殴ってくるくらいの奴だと思えたんだがな。
過大も過小もないが、結局のところこちらの予想でしかない。
どこまで考えているかなんて予測不可能だ。
「……あなたに託せば、この子は無事でいられますか」
「保証はできない。こいつ自信が迂闊なのもあるけど、アルマがどういう扱いをするか知らんからな」
「アロアニマ研究の第一人者……確かに不穏な噂は耳にします」
「話半分くらいに考えておくべきだが、それでも半分は事実だと思った方がいいぞ」
人体実験くらいはするだろうから。
流石に今回はしないはずだけどな。
兵器関係のエキスパート欲しかっただろうし、義体技術なんてのは同じツリーの中にある。
上手く使えば防御面が貧弱なアロアニマに金属骨格と、ナノマシン皮膚を用意して滅茶苦茶頑丈で再生するボディを用意することだって可能だろう。
ついでに外部の情報を知っている人間を引き入れるというのは研究が進む可能性が高いから使い潰す事は無いはずだ。
ブラック勤務は覚悟するべきだが……。
「………………妹を、たのみます」
「いいのか?」
「私が仕事を失うだけでこの子を守れるなら」
「噂の方は?」
「悪いようにはならないと、当主を信じます」
「いいだろう。その言葉そっくりそのまま伝えておいてやる」
上手くいけば姉の方もアルマが引き取ってくれるかもしれんからな。
軍人なんてまさしく兵器を扱うエキスパート、以前ベルセルクに連れて行った姉妹だって単独運用の小型艦でそれなりの戦果上げてたしな。
案外テストパイロット辺りで再就職できるかもしれん。
「では、御武運を」
「そっちも軍法会議で死罪だけは避けろよ。降格なら上々、最悪でも除隊に収めろ」
「できる限りの事はしてみます。お気遣いありがとう」
一礼して艦を後にしようとした軍人さん達を見送ろうとした時だった。
「すみません、このような物が見つかりまして……」
パーワードスーツに身を包んだガタイのいい方に肩を掴まれた。
その手には玩具(メリナが購入した代物)が握られていた。
こう、婉曲表現になるが大人が夜に扱う代物で、ナノマシンで作られた動く奴。
振動したりぐねぐね動くんだけど、有体に言ってしまえばバイブだ。
それを持った軍人さんという面白い絵面。
「こちらの品物、先日ナノマシンの暴走事件があり個人所有が禁止されておりまして……詳しくお話聞かせていただいても?」
「……はい」
首肯するしかなかった。
ついでにメリナを引きずっていくという構図が出来上がり、軍艦の中で二人揃って神妙な顔つきで去っていったクライアントの姉と顔を突き合わす事に。
まだ軍法会議とかじゃないし、暫定処分もない状況なので最高責任者という形になるから仕方ないとはいえ……。
「早い再開だったなぁ……」
「まさかあんな代物のせいで……」
「私は悪くないです。管理を怠った所有者と、そんな致命的な欠陥を無視した会社が悪いです」
至極もっともな意見だけど、お前が言うな感が凄い。
というかそういうニュースはチェックしておけよ……こいつのネット通販ある程度規制賭けた方がいいか?
いや、ノイマンが餌に釣られて共犯になるオチが見えるわ。
配送先こそベルセルクを拠点としている今限られているけど、それでもまだ違法な代物には手を出してないからな。
そこら辺の歯止めが効かなくなったらいよいよ宇宙遊泳してもらうしかなくなるけど……それは俺の心境的にも避けたい。
「メリナ、反省していないならおやつはレーションのみとする」
「誠に申し訳ございませんでした!」
レーション、まぁ要するに非常食なわけだが人工甘味料ドバドバでカロリー爆弾なソレ。
ナノマシン制御で太りにくいとはいえ限度はあるし、食べてて頭痛のする甘さだ。
控えめに言って砂糖をそのまま舐めていた方がましといえる物体。
一応食事用の物もあって、そちらは塩気があるのだがカロリー爆弾であることに変わりはない。
だって非常食だし、軍用食でもあるから。
それがおやつとして続くとなったら……俺でも適当なコロニーで食料調達するわ。
ある程度仕事をこなした頃に「せっかくだから味見してみよう」と乾杯したら完敗した。
食べきるのに数時間かかったよ……あの手のひらサイズのバー。
「とりあえず没収という事でいいですかね……」
「あぁ、そうしておいてくれ」
こうして危険物は軍人さん達にドナドナされていった。
密閉したうえで金属の箱に厳重に保管されたうえでな。




