88 みたらし団……大きな落し物
パトラ女王が煎茶を飲んでいる。
お茶受けは、なんとみたらし団子だ。
突然の事で状況を整理すると、今日は行方不明から二日目である。
一日目に事情聴取を受け、そのまま捜索。
怪しい錬金術店からかった物は経費で落ちそうになく自腹となった。
本当は昨日にパトラ女王に報告したかったけど、公務が忙しいらしい。
サミダレに報告すると、明日……朝にパトラ女王も来るでしょうと、帰っていった。
どこぞの国王兼校長にも見習って欲しいもんだ。
で、今朝早くパトラ女王は隠し階段からやってきた。
「ふぇほふぇがほれほうへす」
「えるんちゃん汚い」
私は最後の団子を飲み込む。
うぐ! 詰まった。
急いで茶で流し込むと、ドン! とテーブルに湯のみを置いた。
「おっと、失礼しました。アマンダはなんで感動しないのよ! 団子よ団子! それにお茶。こんなのがあるなら先に教えてよ! このせか……ごほん。
ええっと、そう。本で読んだ事あるお菓子よ!」
感動した。
和菓子なんてもう永久に食べれないと思っていた。
この世界にあるならって、そういえばゲームでも日本食が出て来たのはあったのを思い出す。
特にオニギリや寿司もあったきがした。
女王の計らいで、珍しいオヤツをと提供されたのだ。
それがこれ、みたらし団子に煎茶だ。
なんでも、ここの王様はあちこちの国に行くらしく、珍しいのが入るとこっそり作り方を教えていくらしい。
そうよ、無ければ作ればいいんだし、作れないなら作っている所を探せばいいのよ。
こんな簡単な事を思いつかないとは、マリーなんちゃらネットさんも気づきはしないのよ。
マリーなんちゃらネットさんでは無いけれど……。
「これって味にゃいからにゃー」
「良ければ、わたくしのもどうぞ」
不満声のアマンダと違い、パトラ女王はお皿をススーっとこちらに移動させてくれた。
団子そのものには味が薄いから仕方が無い。
でも、その上に絡み合うタレと一緒に食べるから美味しいのだ。
タレだけ食べても甘しょっぱいだけだし。
「ありがとうございます!」
二本の串の中から一本を手に取るとパクっと口に入れる。
みたらしの甘ったるい懐かしい味が広がり、幸せな気分になってきた。
「では、操り草と睡眠草ですね」
「うん、じゃない! そうですね」
「敬語でなくても大丈夫ですわよ」
微笑むパトラ女王に見とれていると、背後でドンドンと足音が聞こえてきた。
本人曰く別に怒っているわけでもなく、急いでいるつもりも無いらしい。
ただ、体が重いとの事、かわいそうに。
「もどったでござるよー! おや、パトラ女王様殿、今日は一段とお美しい。
アマンダ殿も笑顔がまぶしいでござるな。
エルン殿も何時もの般若のような顔で安心したでござる、さて本日のオヤツはなんでござろうか? 昨日の夜に食べたプリンは美味しかったでござるね」
私の隣にくると、残っていた一本をヒョイっと手に持ち口に入れた。
「ちょっとまてーい!」
「なんでござるか? おや、一本余っているから食べたでござるか、返したほうがいいでござるか?」
「食べかけの何て要らないわよ! じゃなくて、なんで般若みたいな顔なのよ!」
コタロウは一冊の本手渡してくれた。
タイトルは東方見聞録。
その中のページを広げて見せると、般若の面が乗っていた。
「そっくりでござるねー」
「一ミリも似てないんですけどー!」
「まぁまぁでござるよ。それよりも調べてきたでござる」
コタロウは古めかしい地図をテーブルへと広げた。
このガーランドの町の簡易地図である。
楕円形の塀があり中央に王宮が描かれていた。町の中には川が流れており、後はグラン王国と変わらず格市街すなわち、貧困区、一般区、貴族区、商業区、墓地などが広がっていた。
怪しいのはここと、ここと、こっちも、あと、それもでござるねと、地図に丸を書いていく。
なんでもコタロウは一人でアジトを探していたのだ。
そのために昨夜は王宮に帰ってこなく、一人城下町で情報を集めていた。
立派なんだけど――――。
「――――外見は悪いし、こんなにも太って汗も凄いのに、しかも少女見る時の顔が明らかに事案だし、兵士が動けないからって、人材不足なきもするんだけど」
「エルン殿聞こえてるでござる」
「はっ!」
「ふふふ、こんな時にエルンさん達を見て笑ってしまいましたわ」
「ええっと、元気だしてください、私も出来る事を手伝いますので」
じゃないと私が死刑なのはもちろん、それ以上にシンシアちゃんも心配なのはある。
あんな小さい子を誘拐とか、しかも、ごく一部の人間しか知らされてないのも昨日サミダレから聞いた。
いや、うん。
あの目つきが悪い男も心配よ。ってか親衛隊長ならちゃんと守りなさいよ! 何のための隊長なのよ。
◇◇◇
軽く朝食を食べて街へと繰り出す。
私達の行動が良かったのか、なんと見張りを外してくれた。
コタロウも一緒に行く? と誘った所、徹夜明けにはきついでござると就寝中だ。
「やっぱ信用って大事よね。こう見張りが居ないだけでも気分が楽というか」
「実際は、見張りの兵士が泣いたからにゃー」
「…………」
酷い話だ、昨日は疲れるだろうから一緒に軽食しましょうと言うだけで、高速で首を振って断ってきた。
何も危害なんて加えないわよ。
いくつかの路地を曲がる。
「えるんちゃんここからは気おつけてにゃー」
「緊張感も何もないけど……ああ、なるほど」
口には出さないけど、雰囲気が徐々に変わっていくのがわかる。
いわゆる貧困街。
何所の国にもあって、グラン王国にもあった。
昨日いった怪しい錬金術店の店もこの地区にある。
今日は怪しい食べ物屋にレッツゴーというわけだ。べ、べつに珍しい物が食べたいとかではなく、情報を仕入れるためよ!
ドサ。
「ん?」
私もアマンダも立ち止まった。
何かか倒れる音が聞こえたからだ、そう悪く言えば人が倒れる音、良く言っても人が倒れる音だ。
場所が場所だけに、数日食べてない人もいるかもしれない。
そういう人が倒れていたら手を差し伸べて上げたくなるのが人の情と言う奴。
まぁ本当はそういう人を助けていったら次から次へとキリがないし、パパからも使う者と使われる者は同じ姿をしていても違う事を覚えなさい。と、教わったんだけどね。
音の聞こえた路地へと顔をだす。
「路地裏で倒れるだなんて、ご飯でも食べて……ない…………わ。え?」
倒れていたのは、ガルドだ。
そして、その腕には少女そうシンシア姫が抱きかかえられていた。
えええええええっ! ええ? えええ??
私の耳に、えるんちゃん語彙力どこかにゃ? ……と、聞こえて来たような気がした。




