87 それぞれの下準備
交渉に交渉をして結局金貨三枚と銀貨三枚を失った。
こうやって観光客から金を奪う店なのね。
とはいえ、大きくもめて、こわーい人が出てきても面倒だし、あっでもアマンダが居るからその辺は大丈夫なのかしら。
どっちにしろ、あまり揉め事はしたくない。
「って、他に何か面白い商品ないの?」
「当店の物は全て限定品色々ありますよ。例えば『飛んでるホウキ』の派生である『ぶっとんだ靴』なんと、空を飛べます」
「飛ぶのは靴だけって事はないわよね?」
「…………さて、こちらはどうでしょう。この薬を飲めば一時間だけ時を止めれますになれるのです」
「飲んだ本人のも止まってるから、飲んでも効果がわからないとかって事は?」
アルマゲ? ハルマゲドンはわざとらしく溜め息をだす。
本当なのかーい。
「では、この薬はどうでしょう? 笑顔になれる薬です…………失礼お客様には効果がないかもしれません」
「どういう意味よ! それにそれって飲んだら笑いが止まらないとかオチじゃないでしょうね?」
「お客様、そう疑っては楽しい事など何も無いですよ? 当店は錬金術師のお店です。
冷やかしだけであればお帰りになってください」
ハルマゲドンが不機嫌になる。
おっと、別に怒らせに来たわけじゃない。
情報を聞きたいのだ。
「ごめんなさい、私も錬金術師をかじっていてお店に興味あったのよ」
「ほうほう! それは失礼」
ハルマゲドンが急に笑顔になった。
「ちまたでは、中々に認められない職業ですからなぁ。
これでも錬金術師のメッカ、グラン王国にある学校に入った事もあるんですよ。
しってますか? あの知の錬金術師ディーオ、あれこそはわたくしの弟子だったんですよ」
「え、ディーオの先生なの!?」
「おや、知っていましたが」
「まぁ、一応生徒なので」
「ほうほうアイツも今は先生ですか、世界は狭いですなぁ……故郷の人に幸あれ、よしでは、全品二割引きにしましょう、ゆっくり見てください。いやあ嬉しいですなぁ、このような場所で同郷の錬金術師にであるとは、この国は錬金術師の扱いが低すぎて胡散くさいって良く注意されてね。いやー若いのに関心だ」
え。絶対に何か買わないといけない空気じゃないのこれ。
欠陥商品なんて、どれも要らないんだけど……しかも一個一個が微妙に高いし。
錬金術師に出会えて凄い嬉しそうになったのは、こっちにとっても大チャンスだ。
さりげなーく、さりげなく聞いてみる。
「そ、それよりも。最近変な錬金術師こなかった?」
えるんちゃん、さりげないって何にゃと、小さく聞こえたような気がするけど気のせいね。
だってこんなにも、さり気ないんですもの。
それに、なんちゃらドンの人は答えてくれそうだし。
「はて…………お客様の事はいちいちおぼえておりませんが。
ああ、そうだ! 物が売れれば思い出すかもしれません」
あれほど笑顔だったのに、急に商売人の顔になった。
く、なんてあくどい。酷くない? ぜええったい覚えてるわよね。
やっぱり買わないといけないのか……。
これって経費で落ちるのかしら。
◇◇◇
毎度ありーと背後から声をかけられる。
結局、凝縮された裏中和剤セット、お値段なんと金貨四枚と風邪のマント。
風ではなく風邪で仮病を使う時に羽織るマントを金貨二枚で買った。
私じゃ使いようがないから中和剤はナナに送っておこう。
仮病のマントはこれはもって置く事にする。
「何がディーオはわしが育てた。結局嘘だったじゃない」
「にゃはは」
そう、営業トークという奴で、私がディーオの昔の事を聞くと適当な事を言い出した。
曰く昔は坊主だったとか。
基礎は俺が教えたとか。
女遊びを教えたのも自分とか。
「でもにゃあ……」
「そうね。操り草と睡眠草、それと毛生え薬の本を一緒に買った人物は居たみたい」
操り草は、煎じて飲ませると一晩だけ相手を自由に出来る。
睡眠草は、煎じて飲ませると半日寝かす。
どっちもグラン王国では取り扱い禁止な草だ。
こっちの国でも禁止であるけど、そこはそれ割りと何でもなるのが世の中なのだ。
…………。
……………………。
毛生え薬は、まぁうん……男は髪の毛だけが魅力じゃないし、無くてもかっこいい人はかっこいいのよ。
そんなに気にするものなのかしら、いや、気にするか……私も自分が薄くなったら嫌だし。
でも男性は別に坊主でもよくない? よくないのかしら。
購入から既に七日以上経っている。
サミダレからの報告で、第二王女の屋敷には使用人しか居ないといわれた。
私達は怪しい錬金術師を探す事、でも、深入りはだめよと見得ないハート付きで女王にお願いされている。
「あれ。結構無茶苦茶な依頼よねこれ」
「………………今気づいたのかにゃ?」
「し、失礼ね、前から気づいていたわよっ…………ごめん、今気づいた」
「にゃはー」
でも、あの状態で断れないし、私の命も掛かってるんだし、しょうがないわよね。
「別にえるんちゃんがあの時断れば、グラン王国まで逃がすわよ?」
心を読んだようにアマンダが突っ込みを入れてきた。
「え?」
「だって、そのための護衛なんだし」
何時もの猫語ではなく真面目に言われた。
確かに、アマンダなら出来そう。
いや、出来るから言うんだろう。
「その場合シンシアとガルドは?」
「えるんちゃーん、何事も諦めは肝心なのよー忘れる事にゃ」
アマンダは少しだけ笑うが、何か悲しげだ。
諦め、つまりは何か起ころうとも忘れろと言う奴。
そりゃ…………うん。反論は出来ない。
「でも、助ければ、皆ハッピーなのよね」
「その皆に第二女王は入ってにゃいなー、にゃごめん。別に泣かせるつもりは」
「泣いてませんしー! 砂が目に入ったのよ」
これはマジで。
なんであった事も無い第二王女まで心配しないといけないんだ。
しょうがないじゃない。
やった事にはやったなりの責任は付くのよ、だから、私だって打ち首されたんだから。
多少は割り切らないと生きていけない、これがナナだったら違うんでしょうけど……。
◇◇◇
目が覚めました。
何か長い夢をみていたようです。
「起きたか?」
「はい」
ここは何所でしょう。
頭を動く度に、一緒に髪の毛が動く知らない男性が、わたしをみています。
壁には見た事がある女性が座っています、でも表情が無くお人形みたいです。
「いいかい女王は敵、女王は敵なんだ」
何を言っているのでしょうか。
女王が敵なのは子供でも知っています。
だって私はパトラ女王の子なんですから。




