86 いかがわしいお店
城下町をゆっくりと歩く。
私とアマンダがゆっくりと歩き、気弱そうな男性新米兵士が後ろからついてくる。
監視でも何でもいいから一緒に歩きましょうと、微笑んで誘ったら断られた。
解せぬ。
わかるにゃー最初に近寄るのに勇気居るよねーとアマンダも言っているし、余計に解せぬ。
「暑い…………」
「んーでも、まだ涼しいほうにゃ」
「嘘でしょ。もう髪も肌もべとべとよ、アマンダは良く平気よね」
「慣れー」
そういうものかしらね。
よくよく考えると、このアマンダも超人よね。剣を使えば王国イチ。体術を使っても強い。酒に強くて女の私でもクラっとくるような色っぽさをたまに出す。
これで恋人も居ないんだから、男は見る目がないと言うか。
「えるんちゃーん、怖い顔してるにゃ」
「おっと、いけないいけない。ありがと、小じわは怖いからね」
「えるんちゃんって、十代に見えないにゃよねーシワなんて気にして」
「…………一応十七才」
はて、本当に十七でいいのだろうか。
ええっと、エルン・カミュラーヌとしては十七才これは間違いない。
では前世は多分年齢がスキルアップする直前だったのは何となく覚えてる。
仮に、仮によ! 三十、いや二十九としよう。
あれから誕生日を迎えたので中身は三十になる。
それとも、十七を足して四十と…………。
え、それじゃ。そんな私に求婚してきたリュートとカインは熟女専……――ストーップ。
却下。
却下却下きゃっかあああ。
もしそうなら、いいえ、実年齢が回りにばれたら……。
アレに至っては、エルン君、君は随分と年増だったんだなエルンさんと呼んだほうがいいだろうか? と真顔で聞いてくるのが見える、見えるわよ!
「ないないないない。私は十七才! そうそれでいいじゃない!
リュートもカインも健全、そう健全よ」
気づけばアマンダが、私の顔をみている。
「っと、ごめん、突然大声を出して」
「にゃはは、それよりもアレじゃないかにゃ?」
アマンダの指差す方向に怪しげなテントが立っている。
テントといってもキャンプで使うようなのではなく、ちょっとしたサーカスでも出来そうな形のテントだ。
ざっと大人二十人ぐらいは入れそうだ。
木製の看板があり、各種裏中和剤取り扱っていますと書いてある。
「怪しいわね」
「怪しいにゃねー」
「そもそも裏って何よ裏って、まったく……錬金術師の店かなんだか知らないけど」
そう、私達は情報収集に町を回ってる。
表の健全な店は兵士に任せるとして、私達はこうひっそりとした店へと、さりげなく、さりげなーく情報を集めるのだ。
私達二人は薄暗いテントへと手をかけた。
後ろをちらっと見ると、付いてきた兵士は外で待つらしい。
私服でいるので、あれなら目立たなく待っていられるだろう。
怪しい錬金術店の店内には商品が並べられている。
自分で言っておいてなんだけど、お店なんだから並べられてないほうがおかしいわね……近くにあったサングラス、こっちでは黒眼鏡と呼ばれている物を手に取った。
「にゃはー説明書きあるにゃ」
「どれどれ。ええっと……本製品は専用のレンズを嵌める事で衣服など中身が透けて見える黒眼鏡です。その名も透ける君…………ですって」
値段を見ると銀貨三枚だ。
案外安い、これだったら子供の小遣いでも買えるだろう。
いや、買ったら駄目かもしれない。
私はサングラスをかけてアマンダを覗いた。
アマンダは堂々と私を見返してくる。
「透けたにゃ?」
「全然……不良品じゃない」
「これはこれは、いらっしゃいませ。当店の物に不備がありましたでしょうか?」
恰幅のいい男性が走ってくる。
店主か店員か……。
「店長さん?」
「店主のハルマゲドンといいます」
…………世界が終わりそうな名前である。
凄い人気があった映画もそんな名前だったようなきがした、数年後に続編が公開され、さらに数年後には続編が出た。
映画に興味がない私は、何回地球滅ぶのよ……と誰か友達? に話したような気がする。
ええ、いるわよ! 私だって友達の一人や二人……居たわよね。
「あのー……」
「ああっ、ごめんなさい。アルマゲドンさんでしたっけ」
「ハルマゲドンです。この商品はレンズは別売りなのですよ。
見本はあくまで黒眼鏡、何せレンズは一セットしかありませんゆえ」
「ふーん、ぜんっぜん興味ないけど、ぜんっぜんよ。
レンズの値段っていくら?」
「金貨六枚でございます」
たっか。
そういえば昔弟が、パソコンソフトを買うからお金を貸してくれと、言ってきた。
あまりに高くナニソレと聞いた所、なんでも動画編集ソフトとか行ってたわね。
で、別に可愛い弟の頼みだし誕生日プレゼントで買ってあげるわよと言ったら、なぜかやっぱ要らないって言い出して…………。
後でこっそり調べたら、なんでもモザイクを外す動画編集ソフトだったわ。
それの値段がなんと三万円、そりゃ中学生には払えないわよ。
結局父の協力の元、お年玉をそれに突っ込んだ弟も今頃は高校生かしら。
なお、モザイクは外れなかったもよう。
お金を出した父と泣いてたのを見た気がする。
「胡散臭いわねー…………」
「何をおっしゃいますお客様。この錬金術師ハルマゲドンの店、商品に嘘偽りはございません。もし透けなかったら返金いたしましょう」
「んー……じゃぁ買うわ」
「毎度ありがとうございます、両目分で金貨十二枚でございます」
「はい?」
「レンズは二枚ありますゆえ、一枚じゃ効果のほうはないのでございます、なにせ限定品でございます」
「「…………」」
あくどい!
「えるんちゃーん……そんなの買うの?」
「べ、別に透けるとかそんなのは興味ないわよ? でも本当なら凄いじゃない。
それに限定品よ限定品!」
「嘘偽りはございません、わたくしが言うのもなんですが、錬金術師生活でこれは二度と作れないでしょう」
私はレンズ付きのサングラスを手に入れた。
さっそくかける。
「ああ、お客様なんとご無体な、わたくしめの裸なぞ見て……」
「………………」
「えるんちゃーん、黙っていたら怖いにゃ?」
確かに透けて見える。
売り言葉に間違いはない。
「骨しか見えないじゃない! なにこれ、服どころか肉体さえ透けてるわよ!
内臓が見えても気持ち悪いけど、それすらも透けてるわよ!」
「おや、お気に召しませんか?」
「返金、返金!」
「はぁ、ではお客様が使った後という事で買取は金貨六枚になります」
「はぁ!? ちょっとそれどういうことよ」
「どうもこうも――――」
「えるんちゃーん……目的が……」
――――――。
それから暫く私とアルマゲ……? ハルマゲだっけの言い争いは終わらなかった。




