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83 つかの間の幸福な時間

短めです

 シンシアがこっくりこっくりと船を漕ぎ出す。

 船っても本当の船ではなく、頭が動く事を言っている、目なんてもう閉じてるし。

 

 外を見ると薄暗い。

 昼間の暑さも嘘のように涼しくなってきている。


「さてと、一通りお話も済んだしお姫様にはお帰り願おうかしら」

「ぐふふ、言葉だけ聞くと悪役のボスでござるな。

 ま、まつでござる。そう直ぐ殴るのは悪い癖でござるよ!」

「静にっ」


 まったくもう、シンシアが起きるでしょうに。


「ガルド…………親衛隊長。シンシアは眠ったわよ」

「そうだな、久々に悪意の無い人間にであったのだろう。顔は悪いが感謝する」


「酷!」


 私は慌てて口を閉じた。そして、小さく声を出す。


「酷いんですけど、この国の親衛隊長は他国の使者に暴言をはくわけ?」

「使者だったら寄り道をするな、貴殿の国からくるもう一つの贈り物は二日前に到着している、そこでもう一つの贈り物は喜ばれましたか? 代表者に聞かれた。

 知らないと答えると代表者は青い顔をしていたぞ」

「え、もう来てたの?」



 もう一つというのは、ガール補佐官の家に伝わる家宝の銀水晶の事だ。

 今回はグラン王国からの贈り物として別働隊で運び、私達より後に来る予定の品物。…………だった。


 ミックの家で時間を掛けすぎたわね……。

 だってしょうがないじゃない、八日も宴会したんだし。

 私は悪くない、早く行けと言わなかったミックが――――はい、すみません。私が悪いです。

 だからこそ近道の砂丘を使ったんだけど……間に合わなかったかぁ。



「旅に予定外は付き物なのよ! これでも急いできたんですから」

「真っ先にカフェに行ったのにか?」

「「………………」」



 私は架空の箱をガルドの前から隣へと移す。



「それは、とりあえず置いておいてと」

「エルン殿! 見えない箱がおいてありましたでござる」



 私とガルドの会話を聞いていたコタロウが、両手を使って架空の箱を戻した。


「「「………………」」」



 三人の間に微妙な空気が流れ始めた。

 戻してどうするっ! てか、なんの話を続ければいいんだ。



「えるんちゃーんお話はそれぐらいで、それにガルド親衛隊長さん。シンシア姫を送ってあげて、風邪ひくと行けないにゃ」

「あ、アマンダないす」

「そ、そうだな。アマンダ氏に感謝する、気の抜けた会話で精神力を持っていかれる所だった。ともあれシンシア姫の相手をしてくれてこちらも感謝する」

「どういたしまして」


 シンシアを、まさにお姫様だっこをすると、ゆっくりと歩いていった。


「いけすかないでござる」

「ん?」


 私は文句を言うコタロウへと振り返る、腕を組んで口はへの字にまげていた。


「王位を剥奪されたのか知らないでござるが、気づいてないでござるか? あやつアマンダ殿やエルン殿に流し目を使っていたでござるよっ」



 そんな事は一切ない。

 確かに私達から数歩離れるようにして壁際に陣取り、こちらを見て会話を聞いていたが、その目は私達を見ていなかった。

 コタロウが言う流し目なんて一度もない。



「で、本当の理由は?」

「………………だー悔しいでござる! イケメンに生まれたら何言っても許されるとかないでござる! シンシア姫が妹? もうそれだけでご飯三杯行けるでござるよ! 王位継承権が無いっていいながら親衛隊隊長とか、高給取りでござるよ? もう、わかる、わかるでござるよ、何もしなくてもモテルオーラが見えるでござる。

 拙者だって、ちょっと八頭身になってやせればモテモテでござる、去り際に感謝するとか、エルン殿がコロンと恋に堕ちるでござるよ!」



 別にコロンと落ちはしない。

 仮にだ、仮に私が堕ちたとしても、ガルドの目にはシンシア姫しか映ってないだろうし。


 ってか…………そう考えると、今回の婚約は彼にとって失恋と同じよね。

 だって、いくら妹の事を思っていても隣国の、つまりはグラン王国のヘルン王子と結婚が決まっているんだし、シンシアはヘルンの事が好きなんだもん。


 かぁー、報われないわね。

 今度あったら少しは優しくしてあげないと。



 ◇◇◇



 翌朝、私は兵士によって叩き起された。

 ガルド元親衛隊長がシンシア姫を誘拐したとして、現在行方不明。

 何か知っていないかと事情聴取される事となった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 八日も宴会しててまるで急いで無い件w ガルド「うちの可愛いシンシアはヘルンのようなロリコン野郎に渡しはせん!!」 こうかな?いや冗談だけどw 迷探偵エルンの必殺推理がうなる!(殺してどーす…
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