81 やって来ました出張先
「ふう……やっと着いたでござる、インフィの港町からでて七日長かったでござる」
私はスルーする。
途中で砂漠大サソリに襲われたり、コタロウが人食いアリ地獄にはまったり、私が高熱を出したり、アマンダが薬を取りに一度一人で町まで戻ったりと、それ以外は順調な道のりだった。
「やっと、柔らかい所で寝れるでござるよ」
これもスルー。
そもそも、馬車は一つしかないのだ。
入ったらコロスとだけ伝え、夜になるとコタロウを外に投げ飛ばす。でも、私だって鬼ではない、昼間は馬車で寝てもらった。
「馬鹿な事言ってないで入国手続き頼んだわよ」
「わかってるでござるよ」
本当にわかっているか謎よね、そもそもこの町で別れる。
一人にして大丈夫なのかしら。
暑い……でもまぁ無事にガーランドへ着いた。
城下町から見える城は少し黄色で、白と青をイメージしているグラン王国の城とはかなり印象が違う。
砂馬車を返却し、残った物を適当に行商人へ売りさばく、この辺は全部アマンダに任せた。
入国手続きはコタロウに任せて、私は砂の町を見上げる。
まさに映画のような城だ。
「終わったでござるよ。おや、エルン殿どうしたでござるか?」
「ううん。まるでインド映画のようねってと思って」
「インド? エイガ? よくわからぬでござるねぇ。とりあえず休むでござるよ。
拙者からだの水分がカラカラで動きたくないでござる」
私はアマンダを見ると、アマンダは私は大丈夫だよ手を振ってくる。
私も砂馬車の中で水分をたっぷり取っているので大丈夫だ、コタロウも私達の倍以上水分を取っていたはずなのに……。
別にコタロウに働いて貰うつもりもないが、まぁどうせ旅の最後だし彼のいう事も聞いてやるか。
「仕方がないわねぇ、カフェでも寄りましょうか」
近くのカフェに行きすわる、コタロウが注文を取って来ると席を立った。
周りを見ると、港町だったインフィよりも亜人を良く見かける。
中には、ハート型のストロー吸い込み口は一つなのに口をつける場所は二つという、通称恋人ストローを使っている亜人と人間も見えた。
「ふーん。ここは平和なのね」
「そうにゃね、女王であるパトラ様がそういう性格だからにゃ。それもあってヒュンケル王は国境を越えて外交しようとしたにゃ」
ヒュンケル? ああ、あの校長兼王様の名前ね。
これからはグラン王国にも亜人が増えるかもにゃねーと教えてくれた。
ひょこひょことコタロウが戻ってくる。
目の錯覚なのかな、トレイに乗っている飲み物は二個しかみえない。
しかも、恋人ストロー事、ハート型のストロー付きだ。
「もって来たでござる」
「何がござる、じゃーい。何で二個なのよ! しかもなんで恋人ストローなのよ。
こんなの人前で飲むのは、付き合いだして『私達の事みてみてー、これから二人で楽しい事するでちゅよー』っていうカップルしか居ないわよ!」
「えるんちゃーん」
はっ!
私は周りを見ると、さっきまで熱々だったカップルか顔を真っ赤にして顔を背けてる。
何人かは席を慌てて立ち始めた。
「ごほん。とにかく罰として飲み物は飲ませないわよ」
私は一つを掴み取ると、ストローを使い飲む。
ココナッツミルクなのか甘い味が口の中に広がっていく。
「うう、最後の思い出ぐらいいいでござるに……もう、一生会えないかもでござるよ?
拙者はここで冒険者になり、明日には砂大サソリのエサになっているかも知れないでござる、その死の間際に思うでござる。
ああ、最初で最後のお茶目な事も、怒られて終わったでござるなと」
「あのねー……」
「いや、いいでござるよ? エルン殿もアマンダ殿は心が狭いでござるから。無理強いはしないでござる、恩義があるからでござるからね。
でも、アマンダ殿が薬を取りに一人で町に戻った時に拙者は、頑張った。
頑張って見張りをしたでござるなのになぁ……おや、どうしたでござるかエルン殿」
うぐぐぐぐ。
いいわよ、そこまで言われたらやってやろうじゃないの、キスでもないんだしー。
ストローを咥えるだけよ。
飲みはしないし、よしなんだったらストローに空気いれてあげようじゃないの!
私がコタロウを呼ぼうとすると、残ったグラスに手が伸びた。
アマンダだ。
アマンダはグラス手に取ると、ハート型の先に口をつける、そしてコタロウを手招きした。
「ほんでいいにゃ」
思わずストローに息を吹き込み、グラスから飲み物がゴボゴボこぼれた。
コタロウも目を見開き、アウアウしている。
コタロウって自分からネタを振ってきて、いざ成功すると慎重になるのよね。
なんども私とアマンダの顔を見て、本当にいいのでござるか? と口パクで確認してくる。いいもなにも、私に権限はないし。
「がんばったごほほうひにゃ」
「その、イヤとかじゃないでござるか?」
「にゃんで? 別に嫌いじゃにゃいよ。飲まないなら中身全部飲み干すにゃよ?」
そう言っている間にグラスの液体は減っていく。
え、アマンダってコタロウの事を? まっていくら婚活でもコタロウよりいい物件は山ほど……あるのか?
良く考えれば貴族で次男坊。お金はあるし押しに弱い。
顔はともかく体系はダイエットさせればいいだけだし、性格も乱暴ではない。
あれ。案外良物件なのか?
コタロウの唾を飲む音と同時に辺りが騒がしくなる。オープンカフェの周りに剣を持った男性増え始めた。
周りの人間も驚いているけど、逃げはしないという事は兵士なのかな。
カフェを中をぐるっと見渡すと私と目が合う。
一瞬で剣の柄に手を掛けた男性は、剣の柄から手を離して真っ直ぐに私の前に来た。
「失礼、エルン・カミュラーヌ様ですか?」
「失礼もなにもそうだけど、彼方は?」
「親衛隊隊長のガルド。王宮へ案内しにきた」
茶髪で肌は日焼けした青年。
齢はわからないけど二十代後半って所かしら、楽しい事一つもないのかしらね、真面目腐った顔で私に声をかけてきた。
返事も聞かずに、歩き出だそうとしている。
「せめて、飲み物ぐらいは飲ませて欲しいわよ」
私の愚痴が聞こえたのか、いや、聞かせるつもりは無かったけど声が大きかったのかな?
振り返ると、若干であるが睨み付けてくる。
「貴殿、グラン王国の使者だろう? ガーランドへ着いたのなら真っ直ぐに王宮に来るべきだ、紅剣のアマンダ、そなたも真っ直ぐに向かわせよ。
街に入国したと知らせを受け外門へ向かったが既に居ないと聞き、探したのだ」
そりゃ後丁寧にどうも…………じゃないわね。
あーあれよね、めっちゃ怒ってるわよね、仕事で出張先についたけど先方に会う前に観光してるのが気に食わないのよね。
別に観光も何も駅降りて近くの喫茶店に入った感覚なんですけどー。
「馬車は用意してある、着いて来て貰おうか」
一応は仕事なのでヤダとも言えない。
仏頂面のガルドが馬車の扉を開ける、乗り込めと言っているんだろうけど……何か凶悪犯の護送みたいでやだなー。
だって、この馬車窓に鉄格子ついてるし。
私の視線に気づいたのだろう、ガルドが馬車を見て説明してくれる。
「安全面から国で一番頑丈な馬車にした」
「一応聞くけど、来れ乗ったら捕まるとか無いわよね?」
「…………貴殿はガーランドの国を馬鹿にしてるのか? 客人を迎えるのに何故捕まえないといけない」
「そ、そうよね」
謝りつつ私が乗り込み、護衛のアマンダが乗り込む。
テーブルを見るとグラスがいつの間にか空になっていた。
最後に少し落ち込んだコタロウが……ちょっとまて! 小さい声で確認する。
「なんでコタロウが乗り込むのよっ!」
「声が大きいでござるよ……従者でござるよ従者ってわかるでござるか? 旅のお供で一緒にいる人間を従者と――――エルン殿、突然殴らないでほしいでござる。知ってるでござったか。街に入る時にそう申告しといたでござる」
「なんでもいいから、早くしろ!」
外からガルドの苛立った声がする。
ほら、もうコタロウのせいで怒られたじゃない。
そういえば、なんで私達がカフェに居るってわかったのかしら?




