76 四人パーティー 剣 錬 豚 子
泣き止んだジャンを座らせて話を聞いた。
やっぱり、というかコテツの話に出てきた貴族の子供だった。
カトリーヌを助けて欲しいと訴えたが、逆に亜人と遊ぶからだと怒られて家へ閉じ込められていたらしい。
今日は父親が家に居なく隙を見て脱出してきたと、コテツの家へ行っても誰も居ないし、隠れながら町を探していたら、コテツが変な旅人と歩いてるのを見たと聞き走ってきたと。
で、お店に入るとコテツはいない。
緊張の糸が切れて泣き出したって所かしら。
「よし、この話を誰か町の人に……話しても解決しないか……」
私の言葉に、アマンダも頷く。
「そうにゃね。入り口を埋める作業をしているのに、この子を誰かに連れて行って通してとはね」
「あ、嫌な予感がするでござる」
「僕別の入り口を知ってる!」
私はアマンダへと真っ直ぐに顔を向けた。
「アマンダ、あなたの力を貸して欲しいの」
アマンダは私の頭をポンポンと二回叩く。
「王都につくまでは護衛にゃ。えるんちゃんが何所に進もうがついてくにゃ。たとえ遺跡の中でもにゃ」
それに遺跡の中は低級の魔物もいるしにゃー、子供だけじゃあぶにゃいしーと言ってくれた。
「ありがとう……よし、ジャン君」
「は、はい」
「エルンおねーさんにその秘密の入り口を教えてくれるかな? エルンおねーさんもコテツおじさんや、その子供を助けてあげたいのよ」
ぐふっ、おねーさん部分を強調してるでござると、聞こえたけど無視ね。
ジャンは小さく頷くと、おねがいしますと頭を下げた。
かわいい。
無視されてるでござるっぐふふと、聞こえるけど、これも無視。
ハグ。
「んーーんーんっんーむむー」
「えるんちゃん、ジャンくん苦しそうよ」
「っと、ごめん……大丈夫?」
「らいほうぶれす」
背後から羨ましいでござる、拙者も今度してもらうでござると、聞こえるけど永久に来ないから安心しなさい。
「無視されすぎて涙がでそうでござるよ。
さて、冗談はもう置いておいて拙者は何をすればいいでござるか?」
「え?」
私はコタロウを見て驚く、何を言っているんだコタロウは……。
私だって鬼じゃないんだし、頼む相手ぐらい選ぶわよ。
「何って……これを渡す予定だったけど」
四枚の白金貨をテーブルへと置いた。
これだけあれば暫くは暮らせるし、何だったら船のって国に帰る事もできる。
「白金貨でござるか?」
「そ、別に無理に付き合う事はないし、別れたほうがいいでしょ。
さすがに文無しでバイバイするほど鬼じゃないから、あの石の代金って事で白金貨四枚置いとくわ」
私の言葉にコタロウは口を閉じた。
少しであるけど、顔が不機嫌なきがする、まったく……わかったわよ。
私はもう一枚白金貨をテーブルに置く。
「しょうがない、もう一枚置いていくわよ」
「………………でござる」
「まだ足りないの!?」
「違うでござるー、拙者もエルン殿の役に立ちたいでござるううう。あと支払いは使用済みパンツぶほ」
取りあえず、メニュー表で顔面を叩く。
ジャン君が不思議そうな顔で、
「パンツって下着ですよね、貰ってもきたないのに…………」
と呟く。
「そんな事ないでござ、ぶほっ! エルン殿、角は不味いでこざる、刺さるでござるよ!」
私は持ち上げた手を下げると、コタロウへと疑問を問いかける。
「着いて来る気なの……?」
「なんと、アマンダ殿はお願いしてまでなのに、拙者は要らないでござるかっ!?」
アマンダは女性だし一緒に居ても楽しいし、なにより戦力になる。
コタロウは別に楽しくないわけじゃないけど、だって戦力になりそうにないし、貴族ってのもある。それにスケベ――――。
「だし、太ってるし、汗かくし、デリカシーないし、イケメンでもないし、将来はげそうだし」
「エルン殿、聞こえてるでござる!」
「いや、だって聞こえるように言ったんだけど……?」
「「………………」」
◇◇◇
大きな月が出て始めた頃、子供しか知らないという抜け道を使って町をでる。
町から少し離れた所にかがり火が見えた。恐らくは遺跡の入り口だろう。
「僕とカトリーヌは……そのよく皆で遊んでいて秘密の場所があるんです」
「かー最近の子供はでござる」
「ご、ごめんなさい」
「いいのよー、もてない人のやっかみよ」
ジャン君の言葉の先を待つ。
「秘密基地の奥に未探索の穴があり、そこからロープを使えば奥のほうに繋がっていると思います」
町から離れた場所に岩の裂け目……いや洞窟があった。
子供なら通れるぐらいの穴で、私もかがめば通れそう。
まずジャン君が通る。
次に私が通る……せまい。
「胸とお尻がつっかえてこざるな」
「ちょ、さーわーるーなー!」
それでも洞窟の中にやっと入った。
中は思ったよりも広く大人数人入っても大丈夫なドーム型になっていた。
ジャン君がランプを付けてくれる。
「この奥に小部屋が数個あり、それぞれの部屋になっています。床がくずれたのは別の場所で……でもっあっちにいくと、さらに深い穴があってたぶんそこと……」
「エルンちゃん大変にゃ、人がくるにゃ」
「えっ!」
遠くから息子をかえせえ誘拐犯めがあああと、大声が聞こえてくる。
思わずジャンのほうへ振り向くと、
「父上の声だ」
と教えてくれた。
「まずいわね。取りあえず二人ともはいってっ! 細い――」
細いほうから先にっ! そう言おうとする前に、解かってないほうの声が聞こえた。
私でさえ詰まるのに、もっと太った人が入れるわけが……。
「わかったでござる! むぎゅ、中々に入らないでござる。
ぬお、誰か足を引っ張るでござるよ」
「ええい、どげデブ! 大事な息子がこの先に居るんだ連れて帰る、おまえらそこの女の相手をしろっ!」
「えるんちゃーん、数が多くてちょっと手が掛かる」
ジャンが照らす出入り口からコタロウが離れたと思うと、おっさんの顔が出てきた。
「父上っ!」
なるほど、こっちのブタもとい太った中年が父上か。
あ、コタロウーに変わった。
と思ったらジャンの父親に変わった。
周りの天井がミシミシと音を立てているのがわかる。
まずくない?
「アマンダーっ! 天井やばいかもっ!」
「あ、亀裂入ってるにゃ、すぐに奥に行って生き埋めになるにゃ……。
ふう……あなた達、これ以上向かってくると手加減しない」
アマンダのシリアスな声が聞こえてきた。
襲ってくる人間に対して怪我をしないように手加減してくれていたのだろう。
とはいえ、天井が崩れると聞いて私もジャンも顔を見合わせる。
「ぬおおおおおおおおおおお、ミック・インフィたとえ生埋めになってもジャンを助けるぞおおおおおおおおお」
その言葉が終わる前に、洞窟は崩壊を始めた。




