71 コンタル家の勘違い
広い食堂に笑い声が響く。
笑顔で話しかけてくるのは、当主であるマギナさん。
「いやいやいや、本当に申し訳ない。逆らった貴族は一族全員島流しか打ち首という噂を聞いて」
なんでも若い時に異国の地に行った事があるらしく、そこでは実際にそういう人を見た事があると。
「まったく……だれよそんな噂いうのは。あっ美味しい」
「そうでしょう、港で噂のデザートです。おっとこれも噂でしたな」
あの場を救ったのはアマンダだった。
この女性はエルン・カミュラーヌだけど噂とは違うし、なんだったら紅剣のアマンダとして証人にもなるよと、言ってくれたのだ。
だから、この人に何をやっても処刑に成る事もないし、おべっか使っても出世にも繋がら無いにゃと、まで伝えてくれた。
私の信用はどこにあるんだろうか……。
ってか、アマンダは私の噂しってたわよねこれ、だからわざとそういう態度に……酷い。
後でぜったいに仕返しするんだから!
ともあれ、それで何とか場は収まり、反省会? みたいな小さいパーティーが始まったのだ。
メンバーは私、アマンダ、当主のマギナさん、息子のスラングさん。最後に小オーク……いやコタロウだ。
年上であるし貴族だからさん付けしたほうがいいんだろうけど。
「ぐふふ、その胸も錬金術で大きくしたでござるか?」
「…………」
まぁ呼び捨てでいいわね、誰もとがめないし。
「おっと、失礼な事でござったか、それに引き換えアマンダ殿の容姿は素晴らしいでござる。大きくない胸に高身長、ほっそりとしたラインに」
「にゃは、ありがとう」
褒めてはいないでしょうに、でもアマンダが素を出して答える。
警戒するような事はもう終わったと判断したのだろう。
「いつか刺されて死ぬわよ」
「ご安心を、拙者死んだ事はないでござる」
「あってたまるかっ!」
私の突っ込みに、場に笑いが起きる。
別に笑いを誘ったわけじゃない。
「あーそういえば、転生とか女神とか何か言ってなかったっけ?」
「むむ、なぜそれを?」
あ、しまった。
殴って記憶を封じたんだった。
「いや、すきそうな丸々太った体系だなって……」
「そういう話があると聞いたでござる。もちろん拙者もそんなのは無いと思うでござるが、そういう物語の本もあるでござるよ? 人は死んだ時に抽選を受けて、見事大当たりをすると女神に選ばれるでござる。
女神はボンキュッボンの体系で、不遇な死を遂げた人間に魔法を一つ授けてくれてレッツ異世界。異世界ではハーレムを作ってムフフな生活が」
めっちゃ早口で教えてくれた。唾は飛ばさないほうがいいだろうに。
あー……よくある話ね。
元の世界でも、そういうお話聞いた事あるわよ。
なんだったら私がそうだし、でも女神も何も居なかったわね、職務怠慢って奴? チート能力なんてあったら私が欲しいわよ。
「そうまでして別世界いきたいからしらねぇ」
「行きたいでござる! 拙者……実は女性にモテないでござる」
あ、そこはわかるんだ。
「どんまい!」
「どんまい! ってそりゃないでござる」
「その前に性格をなんとかせいっ……お主は。本当に申し訳ないエルン様」
マギナさんが相変わらず私に様付けなので、それを正せねばならない、格式からいうとそこまで差はない。
「あのー様はいらないです、小娘ですので」
「何か粗相をしたらと思い、三日ほど様で呼ぶように家の者全員で訓練して中々とれません。こまりましたな、気にしないでくだされ。はっはっは」
その訓練は怖いわね。
こっちも問題ありそうな性格、さすが一族ね。
「錬金術師って儲かるでござるか?」
「こら、コタロウ」
「別に大丈夫よ、全然儲からないわね……中和剤一つ作るのにも銀貨数枚。売値は銅貨数枚だし。まぁでも、上手く出来た時は面白いわね、気に成るなら学園に入ったら?」
コタロウは、ぽよぽよのお腹を揺らせて首を振る。
「拙者、学園にはもう入れないでござる」
私の疑問にマギナさんが答えてくれる。
「こやつは、四年前に騎士科へ入学させたのですが、僅か三日で退学をしたのです。退学をしたものはよっぽどでなければ再入学は難しく、入ったとしても学費が大変でして」
「三日って何やったのよ」
「他の生徒をなぐった罪で」
へぇ……こんな外見なのに、以外ね。
「殴っただけって理由あるんでしょ?」
私の問いに、解かってくれるでござるか! さすがエルン殿でござると、興奮しはじめる。
だから唾を飛ばすな唾を。
「元から騎士にはなりたくなかったでござるか、丁度小部屋でサボっていた所に下着姿の半裸の女性が現れたでござる。
女神からのプレゼントと思ってとっさに隠れたでござる」
ふむふむ。
女神のプレゼントで半裸の女性ってのが酷い、で続きがきになる。
「それで?」
「そこに現れる同じ騎士科の生徒数十人。突き飛ばされる半裸の女性。これから起こる事を想像するとなんて羨ましい、拙者もまぜて……いや、けしからんでござる! 拙者必死に女性を助けたでござる! 決して、助けたお礼になど、考えておらんでござるよ?」
「で、そこからは!?」
助けたのに退学って、その女生徒感謝しなかったのかしら。
「実は女性のほうが騎士科の男を連れ込んで、女生徒のほうからブタに襲われたと訴えられてたでござる。しかも女性のほうは、もっと上の教師とも関係があったらしく拙者退学でござる」
可愛そう……。
事件もそうだけど、きっとイケメンなら許された事よね。
彼がイケメンじゃないから…………。
思わずコタロウの肩へ手を置く。
「どんまい!」
「エルン殿可愛そうと思うなら、その胸を揉ませてほしいでござる!」
「……………………やーよ。せめて尊敬できる人間になら」
「尊敬でござるか?」
自分で言っておいてなんだけど……尊敬できる人間って周りに居たかしら。
王子はまぁ尊敬というより友達? カインとリュートは弟みたいなものだし、ナナは妹ね。ノエはもっと小さい妹だし、でも妹に世話させられる私ってなんなのかしら。
商売に関してはミーティアね、商魂の所は尊敬する。
でも人となると違うし、うーん……。
ディーオ?
いや、それも無いか、堅物すぎるし冗談も通じない。
あ、パパは尊敬できるわね。
「そうねぇマイト・カミュラーヌみたいに一代で富を築ける人は尊敬するわね」
「エルン様の父上ですね、素晴らしい方と聞いております」
なのかしら、娘には激甘のイメージしかない。
「エルン様の事を思って再婚すらしないと……おっと、他の貴族様の噂事を申し訳ありません」
「え、別にいいのよ。そっか…………そうよね」
私のために再婚をしないのであれば、それは間違えている。
日本では受け入れられないけど、こっちの貴族なんて何人も相方がいる人が多い。
もっとも伴侶は一人だけとなると子孫を残す関係もあるんだろうけど、じゃぁ多いほうがいいのかというと、複数人の伴侶がいるとその分揉め事も多いとは聞いている。
「拙者も、兄上と母親が違うでござるよ!」
「でしょうね。体系も性格もぜんっぜん違うじゃない」
なぜか自慢してくるコタロウをばっさり切ると、周りから笑いが起きる。
小さい晩餐会はまだまだ終わりそうになかったのだった。




