68 倒れていたブ……男
私も荷台から顔を出して確認する。
「人?」
「うん、人」
服を着たブタが死んでるように見えた。
オークとかって奴じゃないわよね……?
場所は丁度曲がり角の所、それで馬車は急ブレーキを掛けたのがわかった。
御者の男性が、ちらっとアマンダの顔を見る。
「おーっけー、アタシが見てくるよ。万が一何かの罠だったらこまるもんねー」
御者の男性がお願いしますと言うと、アマンダは荷台から剣をもって確認しにいった。
馬車を降りたアマンダが木の枝でツンツンとつっつく、僅かではあるが手が動く。
あ、顔がみえた。
想像したとおりの非イケメンだ。
いや、別に顔がイケメンとか関係ないんだけどさ……。
この世界美男美女が多すぎるのよ。
「どーするーえれんーちゃーん」
「え、なんで私!?」
「だって、リーダーだし」
突然リーダーといわれても。
私は御者をみると、御者の男性もこちらは雇われているだけですのでと、微笑み返す。
同時に、アマンダからも、こっちも雇われてるだけの護衛よーと、かえってきた。
「え、これって私が放置してって言ったら放置されるの?」
アマンダも御者もどちらも頷く。
面倒事は避けたいけど、倒れている人を放置していくほど薄情でもない。
「あーもう、馬車に乗せて」
「りょーかーいー」
推定百キロはあるんじゃないかという男性を、軽く担ぐアマンダ。
どこにそんなに力あるのか不思議ね。
馬車に乗せて男性の表情をみる、顔色は悪いけど息はしてる。
とてつもなく馬車が狭い。
さて、どうしようか、アマンダは寝てる男性にビンを突っ込んでるわね。
ああ、そうか水を飲ませ……。
「アマンダっ! それお酒っ!!」
「しってるよ?」
「飲ませたらダメでしょ!」
「気つけさせるのはアルコールが一番だってー」
太りすぎた男性の顔が真っ赤になっていく。
「ほら、おきるっぽいよ」
「ここはでござる」
ブ……太った男性が突然起き上がる。
周りを見てぶひぶひ鼻をすすりだした。
口からはアルコールが涎と一緒にこぼれているのをみる。
「ちょっと大丈夫?」
「はへ? ぶふ」
「ブタかお前は」
ついに思った事を言ってしまったが、男性には聞こえていないようだ、アマンダが口元を押さえて笑いを抑えている。
「女神が二人もいるでござる……夢でござる。頭がぐるぐる回るでござる。きっと転生して吾輩に超能力をくれるござるね」
「転生もなにも、とわっ!」
私が突っ込みを入れようとしたら、馬車が大きく傾いた。
バランスを崩した、ブ……太った男性も当然よろける。
アマンダのほうへバランスを崩すと、アマンダはいつの間にか剣を半分抜いていた。
驚いた太った男性は急転換すると、私のほうへ転がる。
太った男性の顔が私の胸へと埋まった。
ええっと、どうしようかしら。
殴りたいけど、不可抗力の事故よね、なんであんな所に居たのかも聞いておき……ん?
ムニュ、ムニュムニュ。
モミモミ。
モミモミモミモミ。
胸の上にある動いている手を見て、私の怒りゲージが上がっていく。
「三」
私の警告で、揉んでいる手が止まった。
顔を上げると、至近距離で視線が合う。
「「……………………」」
私の顔を見ると、男性は小さく口を開いた。
小さくといっても狭い馬車だ、私にもアマンダにもその声は届く。
「はっラッキースケベの能力が付加されたでござるか、でも女神にしてはケバそうな顔でござるね」
私は近くにあったビンを男の頭に振り下ろした。
「待つでござるっ! ま、まだ警告のニイとイチが終わってっ!」
「問答無用! もういっぺんっ」
◇◇◇
カッポカッポと馬車の旅が終わった。
港町アクアについた。
ここまで一緒に来てくれた若い御者と馬車と手を振って別れた。
このまま王都に帰り、無事着いた報告を各所に連絡するとの事、腕を伸ばして周りをみる、この辺は比較的安全なんだろう、町を守る門を簡素だ。
門兵へ挨拶をして街へ繰り出そう進む、横にいるアマンダが笑いかけてきた。
「にゃはー、自由の港アクアへようこそ」
「へえ、潮風っていうの? 何か懐かしい感じ」
「街にいる、えらーい人に挨拶いって船だしてもらえる手はずにゃ」
「うーん、会いたくはないけどしょうがないわね」
私とアマンダが街に入ろうとすると、背後から門兵に呼び止められた。
「まてまてまてまて」
「「なに」にゃ」
振り返ると、先ほどまで笑顔で対応してくれていた門兵が、苦虫を潰したような顔をしている。
フシギネー、私達ナニモ、ワルイコトしてない。
「あれは何だあれはっ」
門兵が指をさすのは、倒れたままの太った男だ。
目が覚めないので壁際に寝かせて置いた。
着ている服などが上質な服と判断した私達は、貴族かもと判断した。
そして、その貴族を殴った、過程はどうあれ面倒事は避けようと意見は一致したのだ。
それでも、街に着くまでに目覚めれば一応は、一応は話を聞くつもりだった。
目が覚めないならしょうがない。
「たぶん人」
「多分って何だ多分って! どうみても人だろうがっ」
「もしかしたら、豚の魔物かもしれないですし」
「なわけあるかっ!」
門兵はちらっと振り返り、似てはいるかもしれんがと呟く。すぐに私へと顔を戻してきた。
「に、してもだ。そもそもお前達が、壁際に運んだのをこっちは見ている。事故や、ごほん事件の可能性もある。詳しく話しを聞かせてもらおう」
「森で拾った。起きないから捨てた。あとは、よろしく!」
煩かったのか、太った男が目を覚ました。
「女神? に会ったとような……さて、ここは……なななんと、どうみても、アクアの街にみえるでござる」
「じゃ、気づいたみたいだし、私達はこれで」
「まてまてまてっ、あっこら! 逃げるなっ!!」




