67 エルンさんの旅日記
出発してから数日、今日も旅日記を書く。
と、いっても補給で立ち寄った村以外書く事がない。
しかもだ。
夕方について、夕食を食べて、宿にいって朝起きて出発する。
観光も何もまったくない。
何が観光してこいだ! 錬金術師には見聞が必要だ! だ。何をどう観光しろっていうのか。
結果として、アマンダとは仲良くはなれたきがする。
ってか、彼女はほんとう大きい猫をイメージさせる人だ、人なつっこく酒臭い。
ん? 最後はちょっと余計だったかな。
そして今日も小さい村にいる。
村で一軒しかない宿に二人一部屋で泊まっていた。
だから日記の一日目から五日目まで、特に無しという体たらくだ。
「うみょーんっと。あれ、えるんちゃん、また不機嫌顔で日記かいてるのー? へえ。みせてみせてっ!」
「見せませんー、それに不機嫌にもなるっちゅうのん、ぜんっぜん観光なんてないじゃない」
そもそも日記は自分のために書いてるので見せるようなものでもない。あと、見ても多分日本語で書いてるからアマンダにはわからないだろうし。
「にゃはー、えるんちゃんに嫌われた! もう飲むしかない」
「ちょ、まだ飲むんの!?」
「えるんちゃんも飲む?」
出入り口の部分には、空になった空き瓶が六本ほど積んである。
にやりとして、私に瓶口を向けてきた。
「そ、そこまで言われたら断る義理もないわねー」
「にゃはは、そうそう、お酒は楽しく飲むのが一番一番、それにあとちょっとの我慢」
「昨日もそれ言ってましたよね」
「にゃははー」
まったく……どうせ、馬車の中は外を眺めるか寝るしかないのだ。
飲んで飲まれての人生にしてあげようじゃないの!
二人で九本目をあけた所で私たちはベッドへと寝転んだ。
◇◇◇
私もアマンダも特に二日酔いに掛からずに翌朝を迎える。
前々から思っていたけど、こっちの世界に来てからアルコールに強くなった気がする、だって前世で崖から落ちたのはお酒のせいだし。
家で飲むとどうしても三本目あたりでノエが、心配そうな顔をするので、自然にお代わりをしなくなる。
自身でもここまで飲めるとは思っていなかった。
ここまで来るのにワインは何十本と開けた。もしかして酔えない体質になったのかしら……でも、飲むと気分は高揚するから酔ってはいるか。
考え事しながら身支度をすると、アマンダが御者の青年へと挨拶をしていた。
「じゃ、御者のお兄さん今日もお願いねー!」
アマンダの挨拶に、御者は今日までだけどなーと返事をしていた。
そのまま荷物を馬車へと運んでいるので、近くにいるアマンダへと聞いてみる。
「次の街って、そなの?」
私の問いに、アマンダは地図を見せてくれる。
現在地を見ると小さな転があり、次の目的場所を教えてくれた。
「えるんちゃんが怒るから、退屈なのは今日で最後っにゃっ」
「別に怒ってませんけどー、ただ退屈ねっていっただけですしー」
「にゃっはっは、こっちも暇だったしー、今はここにいて、夕方にはここ」
アマンダが指差す所には大きな黒丸、そして船のマークが書かれている。
「港……」
「にゃは、船の出向日が何時になるかだけどー。普通はもっと遠回りしていくんだけどー」
「近道を通っているから?」
「おおあたり♪」
へえー、どおりで殺風景な景色で、道もガタガタしてると思った。
昨日なんて反対側は崖の道だったし。
説明によると、陸路と違い船は天候に左右されるの事が多いから早く着くようにと動いていたらしい。
予定より数日船が出ない時なんて当たり前とかなんとか。
ありがたい事だ、これで退屈から解放されるし日記に書く事も増える。
馬車に乗り込み、ゆっくりとお昼寝の準備をする。
アマンダ曰く、このデコボコ道でも寝れるのは、いい冒険者になれるよーって言っていたけど、別に冒険者に成りたいわけじゃない。
じゃぁ、何になりたいの? って聞かれたので、左団扇で暮らしたいって言ったらがんばって! と謎の応援をされた。
そりゃ私だって現状じゃ難しいと思ってるわよ、実家の金山だっていつまで金掘れるかわからないし、金の価値が下がるかもしれない。
今は偶然金の価値があるだけで下がったら資産価値なんてなくなるもの。
こっちの世界に来てから、現代での常識が通じる部分もあったけど無い部分のほうが大きい。
「えるんちゃーん、考え込むと体に悪いわよー」
「誰のせいで、私は寝るんですー」
「にゃはー。えるんちゃんはこのまま国家錬金術師になればいいのに、お城勤めなれば儲かるわよ」
私はアマンダが手配した、人を駄目にするクッションに顔を埋め、手をヒラヒラさせる。
多少の知識はあっても私には無理なのは身にしみてわかる。
成れたとして普通以下の錬金術師だろうし。
まぁただ、自分から辞めるのは何か負けた気分で嫌なのもある、だからこう、ずるずるずると……。
体が重い。
上から押しつぶされて……ってか息苦しい!
「ちょ、乗ってる! アマンダに押しつぶされるっ!」
「にゃははー、悩んだ時はこれ」
目の前に酒瓶がだされる。
「マジ?」
思わず出る短い言葉。
昨夜あんなに飲んだのに、まだ飲むのか。
「マジのマジ。いらないなら一人で飲むにゃ」
私はラベルをみる。若い女性の半裸の絵がかかれており一本金貨五枚もする酒だ。
「飲むに決まってるじゃないっ」
私が起き上がり、手渡されたグラスをアマンダに突きつける。
「お嬢様に乾杯」
「どうも」
真面目に話せばそれだけで若い女性が即答しそうな雰囲気を出して私へと注ぐ。
八分目まで注がれた酒を口につけようとした所で、視界が一気に飛びはねた。
高いお酒が、辺りに飛び散った……なんて、勿体無いっ!
思わずアマンダをみると、アマンダは御者台へと顔を突っ込んでいた。
直ぐに顔を引っ込めて、私の顔をみる。
「にゃはー誰かいるっぽい、いや死体かも?」




