51 悪いな等価交換なんだ、くっくっく
どうする私!
マリアの手には小さな指輪が握られている。一応確認したい。
見間違いかもしれないしー……。
どうみても現実逃避よね、咳払いをして優しく話す。
「ちょーっとお姉ちゃんに見せてくれるかな?」
「いいよー、なくさないでね」
「絶対に無くさないわよっ! ご、ごめん怒っては無いのよー」
泣きそうなマリアから指輪を受け取ると、光にかざした。
話の通り薄っすらとグリフォンの形が指輪の中に見える。
ビンゴ!
って、ありがたいけど、ありがたくない。
「ええっと……この指輪お姉ちゃんにくれないかなー……」
「とっちゃうの?」
「ととととらないわよ!? そ、そうだ交換、交換はどうかなー?」
「からすさんがくれた宝ものなのに……ぐす」
「そ、そうよねー! そう、だからおねえちゃんも宝物上げるから交換って事に、何かほしい物はある?」
後ろに居たブルックスは、宝物を交換ってそりゃねーだろって突っ込んで来るけど無視をする。
パックー誰か着てるのー?
遠くから女性の声が聞こえた。
「あ、ままの声だ!」
マリアちゃんが喋ると、パックが妻ですねと部屋を出て行く。
「若い女性が家に居たんじゃ誤解されたら困るからな、俺も行くわ。
指輪を奪ってマリアを泣かすんじゃねえぞ?」
「泣かさないわよっ!」
手でしっしと追い払う。
ブルックスも笑いながら出て行った。
「おねえちゃんこのゆびわ欲しいの?」
「ええ、とっても。だから交換、何かと交換しましょ? お姉ちゃんお金持ちだから何でも買って上げれるわよ。お菓子でもゲームでも何でもっ!」
「それじゃ、まりあねー、しんせいかが欲しい。えほんにのってるきれいな白い花」
「しんせいか?」
「うんっ! パパとママいつもまりあのことでおこってるの、だからパパからママに花をわたしたら、よろこぶの! だからお花とこうかんっ!」
健気!
自分のほしい物じゃなくて、両親のために花を選ぶとか。
「おねえちゃん、くる、くるしいっよ」
「っと、思わず抱きしめすぎたわね。よーし、おねえちゃんに任せて!
百でも、二百でも買ってくるわ!」
「あはは、いっこでいいよ」
「そうお? また来るからぜえったあああい、その指輪失くさないでね。
失くしたらおねえちゃん死んじゃうのっ」
マリアちゃんは、しんじゃうのと、数回呟くと意味を理解したのか首を何度も縦に振った。
「なくさないっ!」
頭を撫でると嬉しそうに笑う、部屋の外で私を呼ぶ声がするので、ばいばいして出て行った。
赤毛の女性が私を見てお辞儀してきた、顔を上げると優しそうな顔で自己紹介をしてくれる。ミーコさんといって、丁寧に挨拶をしてくれた。
その後は、私の持って来た果物を切り分けてくれて少し食べて退出する事に。
帰り道はブルックスと一緒だ。
「いい親子だろ? 俺の師匠の息子でな」
「そうね」
「だから、不幸にするなよ?」
「人をなんだとっ!」
「悪の根源だな」
私の華麗な裏拳が空を切る。
「ちっ外したか」
「あっぶねえな、まぁ俺はこっちの道だ店に来るか?」
「タダなら行くわよ?」
「じゃぁ気をつけて帰れよ!」
笑顔で帰るブルックス。
かー腹立つ。タダっても冗談で、飲食したらちゃんと金は払うつもりなのに、何あの態度っ!
帰りにナナの工房へ立ちよるとしましょう、しんせいかって花の事も聞きたいし。
いやー問題が解決すると気が楽、花を買えばいいんだもの。
◇◇◇
ナナの工房の綺麗な一階部分でナナと向き合う。
お見舞いに行って来た事としんせいかの事を聞いてみた。
花にしても大きな花屋を知らないからだ。
「…………絵本に出てくる花で新星花ですよね……? もしかしたら……ちょっと図鑑を持ってきます!」
ナナは二階にあがると直ぐに一冊の本を持って来た。
何か液体の染みがついた本をテーブルに置くとページを開く。
挿絵には、白い花びらが五つに分かれた花が描かれている。
「ええっと、やっぱりありました、新星花。
星の誕生と共に生まれた幻の花に由来するそうです。
錬金術の材料にもありますね。不治の病に効くとよく噂されてますし、絵本にも出てきます」
「さすがナナは物知りね」
「エルンさんほどじゃありませんっ」
目をキラキラさせて私を見てくるけど、今じゃナナのほうが物知りだ。
「で、どこで売ってるかしら?」
「あの、売ってないと思います……」
「ごめん、もう一度お願い」
「……ですから、その、売ってないと思います……」
そんな、早速お金で買えない物が出るとか聞いてない!
え、それじゃ指輪はどうしよう。
盗みに入る? 無理よね。
強引に指輪を奪う? マリアちゃん泣くわよね。
適当に白い花を買う? でも、絵本に出てたのと違ったら……。
「――――ンさん。エルンさんっ!」
「はっ! な、なに? やっぱり買える場所あるとか?」
ナナは首を横に振る。
「学園長に相談してみては……この図鑑も学園長から借りた物でして、学園長なら持っているかもしれませんし。
そうですよ! 貴重な素材も持ってるってミーナさんに教えて貰ったんです」
私の頭の中にふぉっふぉっふぉと笑う校長、国王の顔が思い浮かべる。
相談したくない。
だって、婚約を申し込んできたカインの親だし、学園長であっても国王だしだしだしだしだし…………。
それしかないと思うと私は、溜め息が出ていた。




