50 小さな聖女ちゃん
マリアちゃんが住んでいるという家を教えて貰い外を歩く。
ナナも一緒についてくると言い出したけど、それは断る。だって、それで道具作りに失敗したら困るじゃない。
近くの雑貨屋で一番高い果物セットを買う。
なんで見舞いの品って果物セットが定番なのかしら。
少しボロな家の前へとたった。
ドアノッカーさえ見当たらなく、適当に木製の扉を二度ほどノックする。
今出ます! と、いう言葉が聞こえたかと思うと扉が開いた。目の前に私と同じぐらいの長身の男性が立っている。
歳は三十は過ぎているのかな、短い髪で青い瞳で見つめてくる。イケメンね。
この世界イケメンしかいないのかしら。
男性の背後から熊のような顔が、現れると私を見て声を出して来た。
あ、居たわ非イケメンが。
「あん? エルンじゃねえか……」
「ブルックス?」
「おう! おい、パックぼさっとしてねえで、貴族様が尋ねて来たんださっさと中へいれねえか」
なるほど、パックというのね。
私の顔を見ると、小さく貴族と呟く、聞こえないように喋ったつもりだろうけど私には聞こえた。
「す、すみません! 貴族様に尋ねてこられるような用事はありませんが、何か問題でも……」
「用がなきゃ尋ねてこねえよなー」
「ブルックスなんでここに、いいえ今は黙っていて! 申し送れました、エルン・カミュラーヌと申します。
我が家で飼っているカラスがこちらにお邪魔していると伺い、そのお礼と迷惑をおかけした挨拶に。聞く所によると親友である錬金術師ナナから御令嬢様が病気と伺い、こちらを食べて頂ければと」
私は、そっと果物が入ったカゴを前へ押し出す。
ナナの名前を出したのは、そのほうが相手が安心するだろうからと、勝手に使った。
パックは呆気に取られた顔の後、慌てて頭を下げてきた。
「貴族様のペットがこちらに、申し訳ございませんっ! 今、マリアに確認を取ってきます!」
慌てて奥へと走っていった。
残されたのは開け離れたれた扉と、その外側に残された私と内側のブルックスである。
「寒いだろうから入れ」
「いいの?」
「いいんじゃねえの? 貴族と名乗ったお前を外に放り出すほうが問題あるだろう?」
「そうなのかしらねぇ」
家の主が居ないので確認しようがない。
私は小さくお邪魔しますと家の中へ入っていった。
家の作りをぐるっと見回す。
綺麗な言い方をすれば簡素、悪い言い方をすれば余計な物が何も無い。
かまどなどがついた台所に数歩先にある小さな棚とテーブルと椅子しか見当たらない。
その椅子には大柄なブルックスが座っていた。
「驚いたわ何となくそうだと思ったけど、ブルックスの知り合いとはね」
「それはこっちが驚いたわ! 最近変なカラスが来てるって噂あったからカラス避けをどうだと見に来たんだ。そのカラスがお前の家とはな」
がっはっはと大きく笑う。
わかるわよ! カラスなんて縁起が悪いもんね!
病気の娘の所にカラスが来るなんて噂があったら、あの子はもう長くないんだって噂になるもんね!
「笑い事じゃないわよ……」
私がブルックスの前へと座ると、扉の開閉が二度ほど聞こえた。
パックが慌てて戻ってきたのだ。
その顔には引っかき傷らしきものがある。
「貴族様のカラスとは申し訳ないです、その丁度いま何所かに飛んでいったようで……捕獲……いえ! 保護に失敗しました」
うーん、別にカー助の保護をしたいわけじゃ無くて、指輪のありかだけ知りたいのよね。
何か情報も欲しいし一度マリアって子に会っておきたい。
「よければ一度お見舞いしていいかしら」
「それはもち…………いいえ、やめておいた方がいいかと、病気がうつるといけませんし、マリアも寝込んでいて」
なんだろう、喜んだ顔から渋い顔になった。
ブルックスが突然話してくる。
「おめえさっきマリアは大分元気になって来たっていったじゃねえか。
さっき俺も見たけど寝込んでなかったぜ、足は相変わらずだが」
「ブルックス……君は……相手はその貴族様だぞ」
「コイツは貴族の中でも例外だ、俺が保障する。ちょっと若くて意地が悪そうな顔して、傲慢そうで、男をダメにしそうなサゲマンの顔をしているが安心しろ」
「…………怒っていいのかしら?」
「別に嘘は言ってるつもりはねえぜ?」
私が溜め息をつくと、小さくパックが笑い出した。
「ははっは、いや、ごめん。貴族というのだから緊張してしまっていた。
ブルックスがここまで言うんだ信じるよ。
ただ、マリアはその……」
◇◇◇
案内された部屋は可愛らしい物であふれていた。
小さいが綺麗なベッドに小さい女の子が体を預けている。
可愛らしい大きな瞳でパックやブルックスを見て、最後に入った私をみてさらに大きな瞳をギュっと閉じた。
「パパ! カラスさんは絶対に返さないから!」
「マリア、お前は……カラスの持ち主が来たら返すって約束だったじゃないか」
「でも、でもっ!」
なるほど、私がカー助を奪いに来たって思ってるのね。
いや、だからカー助よりも指輪が大事であって。
「大丈夫よ、何も取り返そうとか思ってないから、カー助が来てるなら今後も仲良くしてあげてね」
「ほんとうっ?」
「ええ、本当、だから体をしっかり直して歩く練習もしようね」
私の話を聞いて喜んでいた顔がちょっと曇った。
このマリアって子は足が悪いらしい。
何人もの医者にも見せたけど治らなく、仮病だ! まで言われたと。
それでも、ナナの薬によってゆっくりではあるけど足が動くようにはなって来てると部屋に行く前に教えて貰った。
「そんな顔しなくても何も取らないわよ」
「ほんとう?」
「本当に本当、カー助なんて居なくても大丈夫だし」
本音を混ぜる。
あっでも、こないだの遭難では助けてもらったし。
いや待てよ、そもそもカー助が原因を作ったのでは……。
「じゃぁ、カラスさんにときどき来てもらってもいい?」
「いいわよ、時々じゃなくても毎日でも、カー助が来たい時になるだろうけど」
「来てくれるなら、さみしいけどがまんする。じゃぁカラスさんに食べ物を上げてもいい?」
「ええいいわよ、所で――――」
「カラスさんが――」
私が指輪の事を何か知ってないか聞こうとしてマリアの言葉がかぶった。
「おねえちゃんごめんなさい」
「おねえちゃんこそ、ごめんね。先にいいわよ」
「ほんとう!?」
きっと外に遊びに行けなくて寂しいでしょう。
私が親でもないし口は出せないけど、こう接すると何でもしたくはなってしまう。
ほしい物が会ったら全部買ってあげたいぐらい。
だからそこ、この部屋には可愛い物が多いんだと思う、さっきの部屋は殺風景だったのは娘に不自由させたくないパックの心なんだろう。
「じゃぁ、あのカラスさんからもらったこれも返さなくてもいい?」
「ええ、いいわ……よ…………?」
私はマリアの見せて来た物を見て思わず言葉が途切れた。
私が捜し求めていた指輪をマリアが私に見せていたからだ。




