49 黒いペットを探せ!
悪いけど何か気づいたらよろしく頼むよと、お願いをされてヘルンは帰った。
早急に指輪を見つけ、上手くまとめなければならない。
途中の目は本気だ。
私が紛失に関わっているとしったら打ち首は間逃れない。
「よし! ノエ、ちょっとナナの工房に行って来るわ」
ノエが馬車の御用意をします! と言ってくるので、それは要らないと伝える。
こないだの夜も普通に帰って来たでしょと上手く押し込めて屋敷を出た。
門番に敬礼されて、敬礼を返す。
驚かれたけど、今は何も言って来なかった。
◇◇◇
貴族街から、一般区へはいる。
本来は特に区別けはされてないはずなのに、自然と区は分かれていた。
相変わらず、私の顔を見ると通行人が道を譲る、急いでいる時には丁度いいわねと、自虐しかでない。
「よう、相変わらずだな!」
「あん?」
突然声をかけられて私は振り向く。
振り向いただけなのに、ビビッた顔の中年男性が私を見てくる。
「あら、ブルックスじゃない?」
「たっく、おっかねえなぁにらむなよ」
別ににらんではいない。
私が黙っていると、中年男性の熊の手主人、ブルックスは隣を歩き出す。
「あら、隣なんて歩いていいの?」
「何、あんたの隣歩いていると道が歩きやすい」
「どういう意味かしら!?」
ブルックスは私の隣で悪びれずガッハッハと笑う。これでヌイグルミ集めが趣味なんだから、怒る気も失せるわね。
私がナナの所に行くというと、ブルックスは知人の見舞いに行く途中だという。
良く見ると小さな箱を持っているから本当なんだろう。
「昔の仲間でな、そいつの子がちょっと体が弱いんだ、ちょくちょく薬なんて買えないからな」
「ずいぶんと仲間思いの事で」
まぁなと返事が返って来る。
そう薬は高い、だからと言って私がお金を出すのも変だし、ブルックスだって受け取らない。
ナナの工房が見えた所でブルックスと別れた。
工房の頑丈そうな扉の前まで行くとドアノッカーを数回叩く。
直ぐに扉が開くと、ナナの精霊ちゃんである、くまたんが見上げてきた。
身長が低いし可愛い。
私の顔をみると、小さく頷き部屋へ入れと手招きしてきた。
久々に入るナナの家。
前回は足の踏み場もなかったのに、キレイだ!
素晴らしくキレイになっている。
うわーなにこれ、くまたんがやったの!? 私のいう事がわかるか胸を張って、胸の部分を軽く叩く。
うわーウチのカラスとは偉い違い。
やっぱ主人公の所には良いのが行くもんなのよね。
私が関心していると二階からナナの声が響く。
「くまたーん、今手が離せないー、メモ貰ってー!」
くまたんの頭を軽く撫でる。
「ナナー私よ!」
私が声を上げると、二階がどだばた音がする。
「えっエルンさんっ! 何でここに、いや今行きますっ。あっ何が踏んだ! け、煙がっ!」
二階にある生活スペースの階段からから赤や青の煙があふれでくる。
もこもことあふれて来た。
くまたんは直ぐに扉を開けに走ったけど、私はナナが心配で急いで二階へと上がる事にした。
「ちょ、直ぐに助けるわよっ!」
煙の中を手探りで階段を登る。
ナナの声が聞こえてきた。
「大丈夫です!」
「馬鹿いわないのっ!」
「ほ、本当にっ」
「怪我したら――……」
むにゅ。
むにゅにゅにゅ。
足の裏に変な感触が伝わる。
何かこう、割れないゆで卵を素足で踏んだような感じ、もう一歩踏み出すと何かに突っかかり転んだ。
慌てて手を着くと右手に濡れた何かを触る。
鼻には牛乳の腐ったような臭いが漂ってきて、思わず咳き込んだ。
「エ、エルンさん! 大丈夫ですか!?」
煙が晴れていく。
私の事を心配してくれたナナが立っているが、ヨレヨレの衣服に目の部分はゴーグルの跡が残る顔で私を見ていた。
改めて回りをみる。
脱ぎ散らかされた衣服に、食べかけのパンや飲み物が散乱している。
小さいテーブルには紫色の液体ビンが見え、細く煙を出していた。
「全く持って汚いじゃない!」
「ご、ごめんなさい」
「あ、怒ったわけじゃないのよ、そのナナらしいから少し安心もしたわ」
私が言うと、ナナは顔を上げて喜ぶ。
「ですよね! 一階はお客様が来たりするし、精霊ちゃんが掃除してくれるんですけど。
綺麗過ぎて落ち着かないんですよね……で、作業や普段の生活は二階がメインでして」
なるほど、それは少しわかる。
でも汚すぎよねと、心の中だけにしまった。
とりあえずに、私は勝手に座るわよと、比較的綺麗な椅子を探し出す。
手で汚れを落として座ってナナを見た。
「所でエルンさん、言ってくださればわたしから、エルンさんの家に行きますよ」
「こっちが頼むのに、何度も呼ばないわよ。所で錬金術で無くし物を探す道具とかないかしら、あったら作って欲しいのよ」
「あっ、もしかして指輪の事ですかっ!?」
一応口止めされているので詳細を言おうかと迷っていると、ナナのほうから王家の指輪ですよねと、教えてくれた。
「なんだ、知ってたの?」
「はい! 学園から依頼を受けました! 道具を作ったらエルンさんも誘うと思っていたんですよ。でも、さすがエルンさんです。王子様の事を考えて指輪を探そうと……」
「え。ああそうね」
ペットの管理不足と犯人としての罪の意識からとは言えない空気だ。
「で、もうあるの?」
「お任せください! と言いたいんですけど……あと二日ほどかかるんです。図書館から借りて来た本なんですけど……これを見てください」
ナナは私に一冊の本を見せて来た。
古ぼけた本であり挿絵付きで道具が載っている、針金みたいなエル字の棒が二本書かれていた。
どこかで見たような。
名前の所には『みつけるん棒』とかかれており、次の挿絵には棒を二本もったおっさんが地面の上を歩いている。
両手にエル字の棒を持って歩き、自然に動けばその下に捜し物が見つかるでしょうと書いている。
「あとはこれを学園の地図の上、その次には現場で使えば解るはずです!」
「そ、そうね」
若干不安もあるけど、それを信じるしかない。いや、信じていいのかしら…………。
出来上がったら、適当な理由をつけてカー助を探して貰い次に指輪だ。
それまでにウチのカー助も見つかれば、それはそれで良い。
ついでに情報収集もしておいたほうがいいかしら。
「所で、うちの馬鹿カラスが帰ってこないんだけど、出来上がったら、実験していいかしら」
「もちろんです! でも…………カー助君ですよね。さっきまでわたしの家に居ましたよ?」
「はい?」
「あまりご飯をあげると、くまたんが怒るんで上げれてないんですけど。
あっそう言えば、いつもご飯の後はマリアちゃんの家に遊びに来るって言っていたような。マリアちゃんってのは――」
一般層区に住んでいるマリアちゃん。
体が弱い子で、今年七歳になる可愛い女の子。高い薬などは買えるはずもなく、マリアちゃんの父親はナナの錬金術の噂を聞いて薬を買いつけている。
最近マリアちゃんの家に賢いカラスが飛んで来て、そのカラスを追ったらナナの家でご飯を食べているので、安心したと昨夜話していたばかりと聞いた。
あれ? この近所にいる病気の子って何所かで聞いた話ね。




